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開幕





「という訳で林クン、頼んでも良いかな?」

「はい、全然良いですよ!」


そうして俺は森さんと固い握手を交わした。

いよいよ森さんの『カニゴラ計画』の準備も終盤に差し掛かり、俺ら轟扇組でそれを全面的にバックアップする事になった。今日は初めての、面と向かっての打ち合わせだ。


「ところで林クン、他の人達は……?」

「大丈夫ですよ、俺一人で上手くやれますから」

「アッハハ! 面白いっすね。流石轟扇組組長、頼もしいなぁ」


轟扇組でバックアップすると言ったが、今此処に来ているのは俺一人だけだ。あんな無能な部下たちにこんな大仕事を任せる訳にはいかない。


「…………つら」


森さんの後ろで沢山の電子部品を組み立ていた男の人がつぶやいた。なんだっけあの人、前に挨拶した事があるような気がするけど。


「織江君、愚痴なんかを言える時間が君にはありましたか? 今週末にはアイツを完成させるんでしたよね?」

「…………すんません」


そうだ、織江さんだ。カニゴラ計画の要となる人で凄腕のエンジニアなんだよな。なんか空気が悪いけど……どうしたんだろう?


「そうそう林クン、君の方にもカニゴラ計画を手伝って欲しいんですよ」

「全然いいですよ。カニゴラ計画って確か凄い動画を作る企画なんですよね?」

「そう! 誰も見た事が無い刺激的な動画……これ頑張ったら轟扇組すごい力付きますよ」

「マジっすか!」


やっぱりあいつらにこんな大仕事頼まなくて正解だったわ。あいつら失敗するし言う事聞かないし多分失敗してたろうな。

これはもう完全に轟扇組の未来が掛かってる案件だし、此処でミスったらマジ戦争だな。


「で、林クンに手伝って欲しいのは――イタタ」

「え……」


森さんが片目を抑えて、苦しそうに顔を歪ませた。マジでどうしたんだろう。


「あの陰陽師の置き土産か……お、織江君……もっと強い奴作んないと駄目だよ…………」

「その義眼も結構、ヤバい奴ですけど……それ以上となると視神経に直接つなぐしか――」

「あぁいいっすねそれやりましょうよ!!」


え、森さん義眼だったの!?めっちゃ普通だったけど……織江さんの義眼って凄い出来なんだな。

っていうか一瞬見えた森さんの顔が凄い怖かったような気がしたな。織江さんの方を向いちゃってどんな顔をしてるか分からないけど、織江さんの表情は冷たくて死んでるみたいだった。


「……分かりました。後で生体室に来てください」

「ふひひ……ありがとう織江君。それで林クン、君には此処を――」



何だかよく分からないまま、打ち合わせは進んでしまった。





「やっべぇ、もう8時じゃん。こんなん遅刻だろ……」


本当にマズい。この時間にはオム飯亭でオムライスを極めなくちゃいけないのに、予想以上に森さんの話が長くて遅れてしまった。でも森さんの話を途中で切る訳にはいかねえし……やっぱ組長って大変なんだな。


「急がねえとな……ん?」


なんだ? 今見覚えのある顔が見えたような気がしたんだけど……あれってひょっとしたらあの子だよね。


「あっ! やっぱ芝田君じゃん。打ち合わせ来てたんだ!」

「ん?」


やっぱりだ。紛れも無く芝田君だ。連絡もしていなかったのにキチンと来るとか本当に頭良すぎるだろ。やっぱり鎧似とか我刃とかの使えねえ奴らとは違うな。


「いやぁ、調子どう? なんか俺今回の仕事イケそうな気がするんだよね。組長ってすげぇ大変だわ」

「…………」

「あれ、どうしたの芝田君?」

「……フンッ」


芝田君の歩くスピードが格段と速くなって、滅茶苦茶距離が離れて行く。追い掛けようとしたけどまるで避けるように俺から離れて行き、とうとう俺の視界から芝田君は見えなくなった。

――なんだよあいつ。俺の事を無視しやがった。聞こえてなかったら鼻で笑ったりしないもんな、あんなに話したからそもそも聞こえない訳ないし。


「……こんなん事件だろ」


思わずこぼれ出た言葉に対して『無視しただけなんだよね』と返される言葉もねえ。

芝田、あいつも俺に盾突くのかよ。







「やあやあ総統。遅れちゃったんだよね」

「あぁ芝田君、別に急ぎの用じゃありませんから。ちょっと織江君が時間かけ過ぎちゃってますから」

「………………つら」


異様な部屋にその三人は集まっていた。中央に聳え立つ漆黒の巨体を囲むように、大量のカニの甲羅と阿鼻叫喚の様を映し出すポスターとが張られていた。その黒い――巨大なカニは足の数本が取り付けられていないものの、既に迫力ある威圧感と尋常ではない異様さを放っていた。


「織江君、ボッコボコにやられていた貴方を助けたのは一体誰なのか――キチンと考えた方が良いですよ。頭の悪い元轟扇組とは言え、僕の言いたい事は分かりますよね?」

「…………はい」

「それにしても凄い迫力なんだよね。総統、これが動いたら轟扇組に勝ち目はあるんですか?」


森の口角がニヤリと上がり、そしてつらつらと言葉を発した。まるで無邪気な子供が、自慢の玩具の説明をするように、活き活きと。


「間違いなく彼らは死にますね。Tは一体を除いて殆ど轟扇組の足枷状態ですから。それに芝田君のお陰で内部の勢力をバラつかせることにも成功しています。面倒な遊戯隊……良い細工を施しましたね、芝田君」

「まあ間違いなく奴の人格は崩壊不可避になってるんだよね。それにちょっと煽っただけでレジスタンスも正面衝突してくるし、色々楽勝過ぎるんだよね。レジスタンスとの抗争中にこんなのが出てきたら流石の轟扇組も激ヤバなんだよね。そうそう、総統。林とか言う無能に僕の事を知らせないのかな?」

「知らせる訳ないじゃないですか。それに流石の林組長でも気付いてるでしょう? まあこのまま泳がせておきますよ」

「フンッ。まああんまり支障にはならないだろうし、無視しても大丈夫だとは思うんだよね」

「ふふっ、状況は此方の方が何枚も上手です。獣扇杯耶も南千住に到着済み……アレを確保すれば轟扇組を潰した後の支配も楽勝ですしね。いやぁ、芝田君本当に良い仕事ですね」

「お褒めに預かり光栄なんだよね。あっそうそう、裏切り者の粛清の為に僕の部隊を動かす許可を貰えないかな。いやぁ、ああいうのは自分の手で始末を着けたいんだよね」

「ハハッ! 面白いっすね……良いですよ、派手にやっちゃってください」


不気味に動く義眼を左目に付け、その手を黒いカニに掲げる。その手に握られているのは絶望と、恐怖。


「さあ、いよいよ始まります……最高の『カニゴラ計画』がッ!!」







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