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乾坤一擲

「アッヒャ!最近は南千住も激動じゃんアゼルバイジャン」


そういって勢力図を眺めながら我刃は金属バットを確かめるように素振りしていた。

轟扇組きっての武闘派である彼だがここ最近は前線に出張ることが多少減ったように感じられた。

というのも林が轟扇組を脱退してからというもの、よく一身上の都合で行動する芝田やろくに仕事もしない鎧似のせいで

幹部である彼は福木共々忙殺されていたのである。実際は武闘派の彼にそこまでの処理能力はなく福木がほぼ一人で轟扇組を回していたのだが。

しかし林がいる時よりもずっと効率よく動くことが可能になったため、むしろ以前より南千住における影響力は増したといえる。


「やべぇよやべぇよ……レジスタンスは福木が何とかするって言ってたけど、こっちも戦力を出、出しますよ……」


レジスタンスのエースである宿敵は福木直属の遊戯隊が何とかするという話ではあったが、そいつを倒せばそれで終わるわけもない。

トップである神乃を始めとし、エースに連なる部隊長である鬼瀬や我刃と同門である夜寸なども脅威となるであろうことは想像に難くない。

であれば自分は動けずとも側近を一人二人救援に回すのは、むしろ自然なことである。


「フッ↑フッ↓フッ↓フッ↓ 、という事で傘波良が行くんだよ、あくしろよ」

「我刃さん馬鹿だよね」

「あぁん、なんで?一番動けるお前が行かなきゃ福木がピンチかもしれないだルルォ!」

「僕だけ行ってもそう変わらないし、やっぱり馬鹿だよね」


そういって傘波良は連れていく部下の選考を始めた。彼が側近となっているのは武力だけでなく我刃派閥のブレインであるというのも理由であった。強さだけで言えば、厳密には部下ではないが田中留の方が上だろう。しかし今回求められているのは純粋な戦力でなく、他の派閥との共同戦線の中で和を乱さない人材である。なればこそ傘波良こそが適任なのだ。

頻繁にガバってしまう我刃に任せておけず、部下の処理能力が高くないと立ち行かなかったというのが実情だが。

雑務を傘波良に任せて我刃はココアをとりに行ってしまった。こういった一面もまたインテル長友と呼ばれる所以である。


「アッヒャ!エースとの決着は遊戯隊の奴らにもう任せるぞおい!」




轟扇組の奴らが話す三枝が自分のことであろうということは薄々感じていた。だがそれを裏付ける確証は得られないでいた。

レジスタンスの資料庫を漁っても、伝え聞いた”Pgo”事変の調査資料はあったものの轟扇組内での動乱などはわかるわけもなかった。

当時レジスタンスが手を焼いていた伊門がそれを境に見られなくなったため、それを理由としてもよいが少々こじつけにすぎるであろう。

伊門が遊戯隊の隊長をやっているというのならばなおさらである。ここにきて復活を果たしたという事に違和感を感じないでもないがそこで霧散してしまう。

ここで悩んでいてもらちが明かないと思い直し立ち上がる。


「紅葉さんとまた会うためにも、もう少し情報を集めておきたかったんだけどねぇ。無かったわ!」

「ハル、また調べものか?そういうのは俺に任せてくれてもいいんだけどな」


最近缶詰じみて資料室にいりびたるハルを心配して声をかけるのは彼の一の親友にして相棒、ガネである。

いつものハルならオナシャスオナシャス、ンジャジャジャジャス!と助力を頼むのだろう。だが私事だという事や作戦前だということ、

それと無意識的にだが自分が轟扇組にいたという負い目からいつもの彼からは考えられないほどに引き気味であった。


「まあ自分でやるというならいいが……そういえば林が抜けたらしいな」

「ちょ、待てよ。あいつが抜けたなんて知らなかったですよ!」


いずれ強大な組織へと変貌するだろうが、新しい組長が決まる前のこの一瞬だけは好機となり得る。それは説明されなくともわかった。


「ということで奇襲作戦は数日中に行われることになるかもしれないそうだ。あとで神乃さんから話があるらしいから時間になったら来いよ」


実際ここ最近レジスタンスは攻勢作戦のために準備をしてきた。いつでも実行できるようにと綿密に組まれたものではあったのだがいざその時が来てみれば存外不安になる。

もちろんそういった大半は不安定なハルの状態から来ているのではあるが、彼だけの問題でなくエースが揺れているというのは組織としても好ましい状況ではない。

だがその程度で止まることのできないところまで南千住に渦巻く流れは加速してしまっている、流れに乗らなければ砕かれてしまうほどに。


「へいへいへーい、まあ乗るしかないでしょこのビッグウェーブに……」




集まった精鋭たちを睥睨し声を上げるはレジスタンスがリーダー”神乃タクボク”その人である。


「お前らよく聞けぇ!今日集まってもろたのはどーん!と攻勢をかける作戦が急遽前倒しになったからや。みなさん聞いてるとおもうけど組長である林が抜けた。つまり今しか轟扇組の隙はない!あれ?俺なんか間違ったこと言ってますか?」


彼について語れることは少ないが、曰く”T”と何らかの因縁があるとか。また彼が前線に出るときは部下を伴わない、そのため彼の実際の武勇と伝え聞く風聞はかけ離れたものとなってしまっている。

目撃者が少ないがために本当に強いのかと疑問を呈するものもいる、だがしかしこの怪物どもが跳梁跋扈する激戦区南千住において轟扇組に次ぐ勢力規模を誇るレジスタンスのリーダーが発足時から変わっていないことから推して知るべきであろう。

その彼の最も優れる点はカリスマであろう。現に先のことばを聞いた者達は、あるものは震え、あるものは決意めいた表情を浮かべている。

あくの強い人材をここまで団結させられるというのは彼を置いてほかにいないのだから。


「お前ら作戦に遅刻したらコロスぞ……。俺も頑張るから頼むからついてきてくれ、以上だ」


去る彼の背中にかけられるのは歓声と決意の雄たけび。ついに伏龍が牙をむく、この地を支配する絶対王者の喉元に届くやもしれぬ初めての一矢が引き絞られる。

針一本ほどの欠如により僅かな綻びをみせた巨体は果たしてそれを庇いきることができるのだろうか。


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