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信仰告白

それは美しい毒である。綺麗な花には棘があるというが、彼女を飾るのにはふさわしくない。

触れるのをためらわせるのではなく、何者をも惹きつけ触れたものすべてをいずれ死に至らせる。


「僕はねオムライスが食べたいと思ったの、だから定食屋に入ったんだけど……」


続けられる益体のない話、その真の意味を読み取れるものはあまりにも少ないだろう。

だが知る我々にとってそれは甘露に近く、己のすべてを溶かし尽くされるような錯覚に陥ってしまう。

いや錯覚ではないのかもしれない、現に今わたしの眼からは涙が流れ続けている。

不審がられないように隠しているものの、とめどなく流れるそれは愛が溶け出るようだった。


「僕のコートは普通のより長いんだよ」


大多数の人は、その言葉を無視する。それを知る優越感たるや、筆舌に尽くしがたいものだ。

アニエスちゃんを信仰し崇め敬愛するために自分は生まれ、生きてきたのだという実感する。

愚かな者たちはなにも見えていない、それを哀れと思えど伝えはしない。己で辿り着けないものに教える必要はないだろう。


「から揚げにレモンかける奴はわかってないんだ、なんでかけるんだろうね」


だがもし到達すれば同志として歓迎し、日夜彼女の素晴らしさを語り続けるだろう。

三日三晩では足りない、一週間でやっとひと段落といったところか。真理を語るのには疲労などありえない。

世界の理を示すことにならば神も力を貸してくれるに違いない。いやアニエスちゃんこそが神であればすべてに説明がつく。

あの美貌や存在感、人とは思えぬ精神は神であったからなのだ、そうに違いない。

これは次のアニエスちゃん信奉会にて報告せねばなるまい、今度の水曜が楽しみだ。早く来ないものだろうか。

そんなことを考察していれば、無粋極まりない声が響く。たしかハルとかいうやつだったろうか、何物にも代えられない

我が神の甘い声は貴様が邪魔していいものでは断じてないのだ。殺気だつもののすぐさま奴にケンカを売るような真似はしない。

なぜかアニエスちゃんは奴との会話を楽しんでいる節があるのだ。憎き敵ではあるもののそれを神が許すのならば、私に口を挟む権利はない。


「じゃあ今日はここでおしまい。またね~」


ぐっはぁ!?不意をつかれてしまった、そんなにも喜色にあふれた声をかけられたら私はどうにかなってしまいそうになる。

すんでのところで声は上げずに済んだが、震える私に周りの愚者はそんなにつらかったのかぁとか声をかけてくる。

お前らにアニエスちゃんのなにがわかるのだ!盲目者は黙っていればいい、いずれ真理への道も開けよう。

いまはそんなことより、今日の神の姿を定期報告書に書きあげてしまうべきだ。姿勢を正した私は筆を執った。


〇定期報告書

 今日もアニエスちゃんは美しかった。あのお方はなぜあれほどまでに我々を魅了するのだろうか。こちらを見つめる無遠慮な瞳に射抜かれる。銀混じりの髪が愛おしい。微笑んでいるようでその実真剣な表情にすべてをとかされてしまう。これほどまでに焦がれて己が身をも灼いてしまう衝動をどうすればよいのだろうか。ああっ!あの荒れた髪を梳いて差し上げたい。気分により移り変わる表情をひとつ残らず記したい。彼女の瞳を私一人が見つめ返したい。だがその役目は我々には許されない、 アニエスちゃんがパパとよぶ人物にのみ許されているらしい。口惜しいがアニエスちゃんの決定はすべてにおいて優先される、なればこそパパとやらが現れるその時まで最大限の忠誠を注ごう。


そこまで書いた私はあまりに昂ってしまい、雪隠に駆け込んだ。神を冒涜する背信行為だとわかっていても、

狂気を押さえつけるためにはするほか手立てはなかった。無為に自分を慰める不毛はしかし鮮烈に過ぎやめることはできない。

しばしの間狂っていた私は果てたのち苦悩する。いったいどうすれば神に背くと自戒する必要がなくなるのだろう。

パパと呼ばれる何か、それが神の伴侶ならば受け入れねばならない、だがなぜ自分がその立場にないのか。

運命はなぜ己に過酷な試練を与えるのだろうかと。何百回と繰り返した幾多の問いの答えを得ることはない。

甘美な蜜に溺れているようだと思うこともある。掴むわらは手放して久しいが、取り戻そうとも思わない。

己が信仰に死ぬなら本望だ、そうなればきっと神の心に一片でも残ることができるだろうから。


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