27話【美の秘訣は】
衝撃の事実にポカンとマグナスさんを見上げて固まった。
─いや、ちょ、この見た目で?嘘でしょ?
若ければさぞかしモテたであろう風貌なのにまさかの脳筋。お年を召した今もロマンスグレーのセクシーおじさまなのにまさかの脳筋!
─ギャップありすぎじゃない?
「はっはっはっ、相変わらずファムトルア殿は手厳しいですね!」
「…まぁ、昔に比べれば脳の筋肉も減ったように思いますし、僅かながら賢くなったようで何よりです」
完全に見た目詐欺だ。
ファムは淡々と、何気に辛辣な事を言っているのにマグナスさんはまるで気にしたような素振りがない。それほど二人の距離は近いものだったのだと思うと、見た目詐欺の件は何処かへ飛んで行き、自然と頬が緩んだ。
「しかし。何故貴方があの場所に?まさか私達を監視でもしていたのですか?気持ち悪いです」
「ちょ、ファム…」
君言いすぎじゃないの?と注意しようとしたけど、マグナスさんの顔を見てやめた。だってファムのそんな刺々しい言葉にも、マグナスさんの双眸は懐かしさと嬉しさに満ちていたから。
「実は暫く寝込んでいたせいで最近は市井に遊び…ゴホン…視察にくることが出来ずに居たものですから。朝イチで視察にやって来たらたまたまお二人を発見したのです」
─この人…遊びにって言いかけたよ…。
「それにしてもわたしはあの日より成長してますし、ファムだって今はわたしの髪飾りに擬態してるのによくわかりましたね」
「クオンから成長の過程は聞いていましたし、 ファムトルア殿の擬態なら昔何度かお見掛けしましたので看破出来ますよ」
キリッとドヤ顔をしたマグナスさんに、頭上のファムが今どんな顔をしているのか容易に想像がつく。あぁ…ファム…怒らないで。
「つまり貴方は視察と託つけてフラフラと遊び歩いていたところ偶々偶然私達を発見したわけですね?」
はぁ…と大きく息を吐いたファムの言葉は抑揚がない。
「語弊があるようですが概ねその通りです」
「どの辺に語弊があるのか言ってみなさい」
まるで先生と生徒のようだなぁと、わたしはほっこりした気持ちで暫く黙って2人のやり取りを見ていた。
「あれ?そう言えばさっきマグナスさんディストールって呼ばれてませんでした?」
ふとギルド内で呼ばれていたのが違う名前だったのを思い出す。偽名だろうか?
「あぁ…あれはこの男の冒険者時代の名前ですよ」
それを答えたのはマグナスさんではなくファムだった。
「当時は王子でしたからね。立場上の都合で偽名を名乗っていたのです。隠蔽と改竄の魔法で身分証には細工していました」
─うわ…前とは言え国王が改竄て言っちゃったよ。
「10年ほど前に冒険者は引退しましたが、ついついあの頃を思い出してギルドへ赴いてしまうのです」
「なるほど…。でもひとりだけクオンさんの事を知ってる人が居ましたけど、クオンさんがギルドに来なくて30年は経つのに、どうしてあのお姉さんはクオンさんを知ってるんですか?」
実はその事も気になってたんだよね。だって、あのお姉さんがクオンさんの事を知ってるってことは…少なく見てもあのお姉さんの年齢は30台前半…。どう見ても20台前半にしか見えなかったんだけど。もし前者なら…。
─若さを保つ秘訣…今後のために是非とも知りたいっ!
「………あぁ見えてあの人は……私より年上です…」
「え」
期待満々で聞いた問に何故かマグナスさんは遠くを見る眼差しで答えた。
「見えないかもですがあの人はもう既に100歳は越えています…。私の消してしまいたい若かりし頃の黒歴史も…全部…全部知っているのです…」
最終的にマグナスさんは両手で顔を覆って項垂れてしまった。あのお姉さんの年齢に驚いたことより、マグナスさんの黒歴史とやらの方が気になるんですけど。
相当やらかしたのね…とわたしは生暖かい目でマグナスを見ておいた。
後から知った事だけど、どうやらあのお姉さんはエルフとの混血らしく、元々長寿のエルフの特性を引き継いでいるのだとか。
なので昔からクオンさんがギルドを利用していたのも、当時やんちゃだったマグナスさんの隠したいあれやこれも全て知っている…と。
なるほどマグナスさんが羞恥に悶えていたのも納得だ。
エルフはわたしたち精霊に近い、言わば親戚みたいな種族なのだけど、一部のエルフ達は人間の生活圏で暮らす者も少なくない。人の目に隠れて暮らす精霊や妖精とはちょっと違う。
エルフの数は人間に比べると少なく、その棲家は森や森林など自然に囲まれた場所が多い。排他的な種族だったのは昔の話で、今は普通に他種族と共存しているのだとか。
昔から知識欲旺盛で研究大好き!が仇となり没頭するあまり気がつけば種族の数が減ってしまった過去がある。これはイカンと言うことで種族内で法律を作り結婚、出産、子育てに至るまで種族一丸となり取り組んだお陰で絶滅は間逃れた。
元々人間に比べると性欲が極端に薄く、性行為も子孫を残すためだけだと考えていたので仕方ないと言えば仕方ないのかも。
─誰だよ、エロフとか言った奴…。
エロの欠片もない種族なのに、日本人の想像力は違う意味で拍手ものだ。
「ハーフとはいえ我々に近い種族ですので、ティア様の事も気付いておりましたよ」
「そうなの?」
近い存在の種族は魂が「あの人精霊王ですよ~」と訴えるようだ。どうなってんの。
─いや~めっちゃ見られてるなぁ…とは思ったけど、そう言う訳だったのかぁ。
「でも誰にも喋らないでいてくれたし、いい人なのかも。クオンさんの事も知ってるみたいだし、これからも是非ともよろしくしたいね」
同意を求めるように頭上を見るとファムも頷いた気がした。
「でも結果的にマグナスさんが来てくれて助かりました」
「それはよかったです」
助かったのは本当だ。
入国審査の時に前に並んでいた人が「身分証を作るのすごく厳しいんだろ?」とゲンナリした様子で連れの人と話していたのだ。
マグナスさんが来てくれなかったらきっと身分証を作るのに色々審査があったようだし、聞かれても答えて良いのか悪いのかも分からないことが多いので偶然でも偶々でもマグナスさんが来てくれたのはありがたかった。
「ところで、ティア様はなぜイデアに?」
「お買い物です。色々と必要な物があったので」
「そうですか。よろしければこんな老い耄れですがお供致しますよ」
マグナスさんはそう言うと恭しく右手の手のひらを右胸に当てた。元が良いせいか物凄く様になっている。
わたしたちの前を横切る見知らぬ奥様方がうっとりしながら横目で見ていて、そしてそんな素敵なおじさまに傅かれているわたしを「何者?」と不思議そうにチラチラ見てきた。
そしてハッとする。
こんな小娘に傅くおじさまのなんと不思議な光景か。
わたしも傍観者ならば確実にそう思う。
「え…と…マグナスさん? あの、その…マグナスさんとクオンさんはお友達だったんですよね?」
「そうですね。唯一無二の親友だったと自負しております」
「だったらそのぉ…クオンさんに接していたように、わたしにも接して貰えませんか?なんだか丁寧に扱われると慣れてないので落ち着かなくて…。ダメですか…?」
無理なお願いじゃないと思う。せめて普通に接してほしい。
マグナスさんは瞠目した後、何か考えるように顎に指を添えて小さくブツブツと何やら呟いている。小さくて聞き取れない。
そして何か閃いたようにパァァと笑顔になった。
「では、恐れながら私からもひとつお願いが──…」
あぁ~(´Д`)お久しぶりの更新!
忘れられてないかな…(;゜д゜)
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