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26話【身分証】

 

 日本に比べるとこの世界のお金は割りと大雑把だ。

 今回両替で登場しなかったけど、この世界で一番高額な硬貨は精霊金貨と呼ばれる不思議な色の水晶のような物で出来た硬貨で、1枚なんと1000万。…ひぃ。


 順番で言うと1枚が、

 精霊金貨=1000万円

 大金貨=10万円

 小金貨=3万円

 銀貨=1000円

 白銅貨=100円

 青銅貨=10円


 と、まぁこんな感じだった。

 チラッとしか見てないけれど、売られているものの相場は日本とそんなに違いはなかったように見える。


 ついでに小金貨も銀貨に両替してもらった。オタク気質だからなのか、小銭が増えるけどチマチマ出しながらお買い物をする方が好きだからだ。薄い本買うときみんなそうだもんね。


「では此処にサインをお願いします。身分証があれば個人ナンバーもお願いしますね」


 羽根ペンを差し出され、サインをする。身分証ってあった方が良いのかな?と気になったので説明を受けることにした。


 しかし。


「邪魔するぞ!!」


 勢いよく入り口のドアが開き、陽気そうな男の人の声が聞こえカウンターに向かって歩いてくる音が聞こえた。


「ディストール様。いらっしゃいませ」


 カウターに居たもう一人の受付嬢が声の主をそう呼んだ。そしてカウンターからこちら側を覗くように身を乗り出す。

 なんだろう?とそちらを見ていたらバッチリその人と目が合った。

 ニカッと人好きのする笑みでわたしに笑いかける。同時に頭上のファムが大きく溜め息を吐いた気がした。


 見たところ男性は中年後期といった年齢だが、精悍で溌剌としているせいか年相応かと言えばそうは見えない。

 短髪で白髪混じりの金髪、眼は薄いエメラルドグリーン。様はイケテるおじさまだった。


 ─あれ?でも何処かで見たよーな…。


「ディストール様、本日はどのようなご用件でしょう?」

「いや、用があるのはそっちのお嬢さんに、だ」


 急なご指名にわたしは自分を指差しながら首をかしげた。わたしの知り合いにおじさまはいない。


「よっと」

「あ!ディストール様!困ります!」


 受付嬢の批難もなんのその。ディストールと呼ばれたおじさまは軽々とカウンターを越えてツカツカと歩み寄り、わたしの座るソファーの隣にどかりと腰を下ろした。

 そしてわたしの耳元でコソッと囁いた。「私に任せてください」と。


「この子の身分証はもう出来たのか?」

「あ、いえ。これから説明を行うところでしたので」


 わたしの前に座っていた受付嬢さんはおじさまの行動に呆気に取られていたけど、声をかけられてハッとしたように答えた。


「そうか。なら問題ない。この子の身分証はアイツの物を引き継がせれば良い。この子はアイツのこど…いや、孫だ」

「え?えっ?」


 受付嬢のお姉さんが目を白黒させてアワアワしている。わたしも訳がわからずただ傍観するしか出来ない。

 するともう一人の受付のお姉さんが驚愕の表情を浮かべたまま呟いた。


「まさか…クオン様の…?」


 そして我に返ると目を細めわたしをじ~っと見詰め、ハッと息を飲んだ。

 それを見ていたおじさまが人差し指を唇の前で立てる。受付のお姉さんがその仕草に気付きコクコクと首を振ると、自分の仕事に戻っていった。

 そして一枚の紙を持って戻ってくる。

 その書類はクオンさんの身分証を家族間で委譲する、という物で、言わば家族証明みたいなものだった。

 なので審査は必要なく、わたしはささっとサインをして終わり。直ぐに金属で出来たドッグタグの様な物を差し出された。魔法で作ったインクに親指の腹を浸けてタグに拇印を押す。タグのなかに吸い込まれるように拇印は消え、それでわたしの身分証はあっという間に出来上がった。

 その様子をおじさまは隣で満足げに見守っていた。


「よかったぁ~。これで薬草の買い取りも出来るってことですよね?」

「はい。出来ますよ。直ぐに手続きされますか?」

「はい!」


 わたしはバッグに手を突っ込み「よっこらせ」と布にくるまれた薬草を取り出す。明らかに許容オーバーな固まりがバッグから出てきた事に前に座っていた受付のお姉さんが「魔法、鞄…」と呆けたように呟いたのが聞こえた。


 ─あ、魔法鞄って所謂セレブバックなんだっけ。


「そう言えばクオン様も魔法鞄をお持ちでしたよね?」


 もう一人のお姉さんがフォローしてくれたので「うん、そうそう」と乗っかっておいた。


 ─こんな子供が持つものじゃないもんね…魔法鞄…。いや魔法鞄じゃないけど。空間魔法だし。


「クオン様が持ち込んでくださる薬草はとても効果が高く新鮮でしたので、薬師達からも評判だったのですよ。勿論代金もクオン様同様お支払いたしますね」


 そう言うと薬草を奥へと運び入れ、査定し結果の書かれた紙を差し出してきた。

 引き取り価格は小金貨1枚に銀貨20枚。

 締めて5万と言う結構な金額にこくりと息を飲む。


 ─わたし、もしかしたらこれだけで食っていけるんじゃね?


 邪な考えが一瞬脳裏を掠め、邪心を振り払う理性さんを呼び出す。頭の中で理性さんはポソリと切な気に呟いた。

『大人って…汚いよね…』と。


「…ごめんなさい」

「え!?どうしたんですか!?」


 見た目子供なのに中身が汚い大人でごめんなさい。そう思い浮かんだわたしは無意識に口に出していたのだった。











 職業別組合(ギルド)での手続きがすべて終わり市内に再び出てきた。

 なぜかあの謎のおじさまと一緒に。


 そして人気がまばらな噴水広場に出たとき、側にあるベンチを勧められたのでおじさまと腰を下ろす。何故だ。


「え~っと…おじ──」

「余計なことをして申し訳ありませんでした」


 わたしの質問を遮る形で被せてきたのは他でもないおじさまだった。


「はぁ…ティア様、この者は先日のマグナス殿ですよ」

「え!?うそ!?」


 頭上のファムが普通にとんでもないことを告げてきた。なにサラッと言ってくれちゃってるの!


「いやいや!うそでしょ!?だって数日前は骨と皮だったじゃん!」


 苦笑を浮かべながらわたしを見ているマグナスさんを、上から下まで何度も往復して見る。

 確かに見覚えがあるような気がしていたけど、あの酷く衰弱した姿と今のおじさまがどうしても繋がらない。と言うかあれからまだ数日しか経ってないのに、この変わり様はいかがなものか。


「ははは。信じていただけないのも無理はありません。誰よりも私が一番信じられないのですから」

「本当にマグナスさん…なんですか?」

「はい」


 ─うおおぉぉ…なんだこのイケテるセクシーおじさまは!


 色気のある顔でにこりと微笑むマグナスさんが目映い。わたしは思わず視線をそらしてしまった。


「ティア様がお帰りになられた後、無性に腹が空きまして…あれほど食欲が無かったことが嘘のように、連日食べられるだけ腹に入れていたら四日ほどでこの通りです」

「貴方は昔からよく食べましたからね。おそらく貴方にとっての自己回復法は食べることなのでしょう」


 呆れたようにファムが吐き出すとマグナスさんは瞠目した後ひとり「なるほど」と納得したように頷いた。


 いやいや…食べて回復とか…漫画か!と突っ込みそうになっけど、よく考えるとこの世界はゴリゴリのファンタジー世界なんだよね。

 それならわたしもたくさん食べると回復するのだろうか?とファムに聞くと彼はにべも無く言い放った。


「この男は見た目を裏切り脳は筋肉に支配されているから可能な方法であって、普通の人間にはそんな非常識な方法は通用しません」



 なんと!マグナスさんは脳筋だった!!



ブクマありがとうございます(*´ω`*)

誤字、脱字がありましたお知らせくださいませ(*^^*)


イケテるおじさま登場しました笑


今日は暑くなるそうなので皆様、熱中症、脱水状態に気を付けてくださいませ(´・ω・`)

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