22話【でっかくなっちゃった!】
「ふぅ…。取り敢えず一件落着かな」
「ご苦労様でした」
精霊の森に転移したわたしはう~んと体を伸ばしながら、最早この世界では自宅になった木の家にファムと一緒に帰ってきた。
「そう言えばファムってマグナスさんの知り合いだったんだね」
「…一応、ですが」
まるで不本意だと言わんばかりの表情だけど、ファムがマグナスさんを嫌っていないのはもう解ってるんだけどな。
「先代さんはクオンさんて名前だったんだ」
響きだけならなんか日本人ぽい名前だなぁ~と思っていると、そう言えば…とファムが何かを思い出したような素振りをした。懐かしそうに目を細めて、瞼の裏にきっとクオンさんを思い浮かべているんだろう。
「先代様は確か…時折不思議な単語を口にする方でしたね」
「不思議な単語?」
「はい。存在しない場所や名前を口にしたり…物語の本がお好きだったのでその影響でしょうか…。あとは聞いたことのない不思議な歌など歌っておいででした」
確かこのような曲でした、と鼻唄で軽く口ずさんだ曲に頬杖をついていたわたしは頭が滑り落ちそうになった。
それは紛れもなく、日本人なら誰もが知る曲だったからだ。
「────はい?」
一瞬思考が止まってしまったよ。
─え?なにそれどういう事!?
もしかしてクオンさんもわたしと同じ様に異世界転生しちゃった人なのかと頭のなかでグルグルと考えが巡る。
「ティア様のように博識でしたが、天然な方でして…出掛けた先で迷子になるのは日常茶飯事でした」
ファムの目は「手のかかる方でした」と語っていた。
けれど嫌そうな顔をしている訳ではなくて、どちらかと言えば親が子供を心配しているようはそんな感じだ。
「クオンさんはファムに愛されてたんだね」
ファムは瞠目すると次にはにこりと笑って胸を張って答えた。はい、と。
けどクオンさんとお話ができなかったのはとても残念でならない。
同郷の人が居ないこの世界では、もう二度と日本の話題で話すことはないのだ。そう考えると寂しいな…。
しかし、だ。
もしもクオンさんがわたしと同じ様に転生者なら、きっと食生活とか苦労しただろうなぁ…。
現に今わたしにも差し迫った問題がある。それは…【白米恋しい問題】!
涙花時代、海外旅行で一週間日本を離れた事があるけれど、あの時は本当に白米が食べたくて食べたくて中毒症状になった。それが今は中毒症状を通り越して最早飢餓状態だ。
夜中に某山脈の少女の様に徘徊してしまわないか最近心配なんだよね…。
今のところこの世界で米は目にしていない。食料庫にもなかった。
けれどこの世界には醤油に似た調味料が存在するのだ。ならば味噌だってあるはず!小麦があるなら同じ穀物の米だって探せば絶対にあるに違いない!と確信していたりする。
「どうかされましたか?」
「あ、うん。なんでもないよ」
米の事で悶々としているとファムが不思議そうに顔を覗き込む。
食べ物の事で頭がいっぱいだなんて言えない。すまぬな。
何かにつけて心配してくれるファムには悪いけど、わたしの考えてることなんて所詮はそんなものだよ。
─手記とか残ってないかな?今度探してみよっと。
もしクオンさんは日本人なら、次の精霊王も日本人から転生することを考えてきっと何かしら手懸かりを残してくれているかも知れない!と勝手な期待をしつつ、今夜のご飯の事も考えるのだった。
「おやすみファム~」
「はい。おやすみなさいませ」
わたしはいつものように晩御飯を食べてお風呂に入り、心地好い気分でおふとんに潜り込んだ。今日は色々あったので夜なべはせず、おふとんに直行だ。
幼女体だからなのかわたしは寝付きやすく、あっという間に睡魔に誘われるまま夢も見ないほど爆睡した。
「う…っ…」
太陽の光がカーテンの隙間から射し込む頃。わたしは胸を締め付ける様な息苦しさを感じてうっすらと目を開いた。
「は…っ…ぁ…」
─苦しい。なにこれっ。
藻掻く様に胸に手を伸ばす。それでも息苦しさは消えない。睡魔は完全に吹き飛んでいた。
息苦しさ以外は体に異常はない。わたしは起き上がり胸を押さえたままベッドから降りた。
そして気付く。
「…あれ?」
幼女体のせいでいつも踏み台で乗り降りしていた筈のベッドの高さがなんだか低くなった気がした。
少し高さはあるもののスルリと乗り降りが出来る高さだ。
「なんで…?」
ぐるりと部屋を見渡す。いつも視線の高さにあった筈のサイドチェストが視線の下にある。扉に目をやればドアノブが低い位置に移動していた。
「いやいや…移動ってそんなバカな…」
わたしは混乱しながらも、この息苦しさの原因が解らないのでファムに助けを求めに部屋を出ることにした。
ドアノブに手をかけたとき、部屋にある少し小さめの姿見に自分の姿が映る。そしてそこに映る自分の姿を見て、わたしは息苦しさの原因を知ったのだ。
「──なっ…ぬわんじゃこりゃぁぁぁ!!」
爽やかな朝なのに夕陽を連想させる叫び声をあげてしまったのは仕方がない。うん、仕方がないよ…。
「ファム!!ファぁムぅぅ!!」
バーーン!!と寝室のドアが砕けそうな音を轟かせて開く。
「おや?本日はお早いお目覚めですね」
ファムはリビングのテーブルの上でいつもの朝と変わり様子でモーニングティーの用意をしていた。
いつもと変わらないファムの様子に「なんでやねん!?」と内心突っ込みを入れながらわたしはテーブルに駆け寄る。
「おや?じゃなくて!!どうなってるのこれぇ!?」
わたしは自分の体を指差しファムに詰め寄った。
「どう…と言われましても。世界に関わりを持ちますとそりゃ成長しますよ」
何を今更、とファムは小さく息を吐いた。そしてわたしの体を上から下までゆっくりと眺めると恍惚の表情で「お可愛らしいですよ」とにこりと笑って告げる。いや、そう言う事じゃなくて。
「なんでわたしおっきくなっちゃったのっ?!」
そう。わたしは一夜にしてあり得ないほどの成長を遂げたのだ。
昨日までは5歳児並の身体だったのに、今のわたしは恐らく10歳程度の身体だと思う。昨日より確実に視線が高い。30センチは高くなってる。
苦しさの原因はウサリスさん手製のワンピだ。いつも通り着て寝たので、成長した身体にピッチピチに食い込んでて胸をめちゃくちゃ圧迫していた。死ぬほど苦しいけど、貼り付くようにピチピチなので脱ぎたくても脱げない状態なのだ。
ウサリスワンピはジャストサイズ&ノー伸縮だった。
「と、とにかくハサミを…!」
もう切るしかない!とチェストを漁っていたけど、ぎゅうぎゅう締め付ける胸部に息も絶え絶えになり酸素不足でクラクラして最終的にはブラックアウトした。
─せっかく転生したばかりなのに、成長が早すぎて服の圧迫で死ぬなんて…あんまりだ。神様のバッキャロー!!
…そんなことを意識を失う直前に叫んだ気がした。
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