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21話【それじゃ】

 

 マグナスさんから出てきた黒い靄は呪いの塊だ。


 四人の険しい視線が呪いの塊に向かう。

 その間にもそこからは気味の悪い呻き声のようなものが聞こえ、何かを求めるように何本もの手が這い出ようとしている。


「みんな絶対にアレに触っちゃ駄目だよ!あの黒いのから離れて!」


 わたしは声をあげてみんなにそこから距離をとってもらう。


「─わわっ!」


 急に体が浮いたかと思うとわたしはクリードさんに抱えられ、三人がいた場所に退避させられた。わたしを抱えたクリードさんの前にダルケンが杖を構えて立つ。


 いざという時のための防御体制なんだろうけど…。わたしは自分で結界を張れるので全然大丈夫だったんだけど、とは言えない。こうして守ってくれようとする行動がとても嬉しかったから。




 暫くすると呪いの塊は何処かひとつの方向を向いたと思うとピタリと動きを止めた。


「ミ゛ツ゛ケ゛タ゛……!!」


 まるで泥の中から聞こえる様な声でソレは呟いた。そしてひとつの声がまるで数人と話すように喋り出す。


 それはとても異様な光景だった。

 若いのか年老いているのか、男なのか女なのか、幼子なのか大人なのか、本当に判別のつかない不気味な声が飛び交う。

 意味のある単語なのか言葉なのか会話なのかもわからない。

 獣のように叫んだかと思えば赤子の様な声で高笑いし出す。


 クリードさんに抱えられたまま、わたしの体はカチカチに強張っていた。

【世界の記憶】の知識として知っていても実際に見る呪いの核はあまりにも禍々しすぎたからだ。


 はっきり言おう。ホラーだ。


 そして一頻りよくわからない事象が終わると呪いの核の中から人間のような形をした目鼻のない顔のようなものが飛び出した。その顔が首をぐるぐるとあり得ない方向に曲がり私たちの方向で止まる。

 するとそこから大きなひとつ目がギョロリと現れ、ただひたすらにわたしだけを見ていた。


「ひっ…!」


 思わず息を飲んだわたしを隠すようにクリードさんは背を向ける。ほっとして顔をあげた瞬間、彼の肩越しにその一つ目とバッチリ目があってしまった。


「───!」


 刹那、まるでノイズのかかった音声と共に砂嵐のテレビ画面のような映像が頭の中に流れてくる。



『……ガ、アイツ…エ…イナ…レバ…!!』

『イ…イマ、シイ…!』

『…ロシテ…マエバイイ!』

『…ロス!ゼッタイニ、コロス!!!!』


 ニ倍速で聞くような声と、何処かの部屋。

 豪奢な部屋なのに調度品は派手で品性がない。

 その声の主の近くには目深にフードを被る魔術師の風貌の男性が立っている。恐らく呪術を行使した人物だ。


 そして声の主が振り返った先にある大きな姿見。

 そこにはこの呪術に関係するだろう人物が映っていた。




「──ィア!ティア!?」

「!?」


 わたしを呼ぶ大きな声にハッとすると眼前には心配そうにわたしを覗き込むクリードさんの顔があった。


 ─ち、近い!!


 ぎゃひ!とか思わず叫びそうになったのを気合いで押さえる。


 次の瞬間、クリードさんの背後でけたたましい咆哮とガラスの割れる大きな音が聞こえた。

 わたしは大きな背中に守られながらその場が静まるまでじっとしているしかなかった。と言うかうごけなかったんだよ。ずっとぎゅーってされてたから。

 不謹慎ながら「ええ身体やのぅ」とか思ってしまった。ごめんなさい。変態幼女でごめんなさい。



「なんだったんだ…あれは」


 ルードの堅い声が聞こえ、警戒していたみんなの体からどっと力が抜けた。


 クリードさんの腕から解放され部屋を見渡すと、壁ごと窓を吹き飛ばしたような大きな穴が空き、辺りにはガラスなどの残骸が散乱していた。部屋からは先程の呪いの塊は消えている。

 ガラスの破片を見たクリードさんが再びわたしを抱えあげ、ベッドサイドに置かれた椅子にゆっくりと下ろしてくれた。

 お礼を口にすればにこりと笑顔で答えてくれたのでわたしも笑みを返した。


「さっきの黒い靄は?」

「太陽の位置からして、恐らくですが東方面にすごい勢いで飛んでいきましたが…」


 ダルケンは呪いが飛び去った方角をちゃんと見ていたようだ。


「あれは一体なんなのですか?」


 自身の杖をぎゅっと握りしめたまま問うダルケンの表情はとても固かった。


 わたしはマグナスさんを包む結界を解き、顔色を覗きこむ。吹っ飛ばされた窓のお陰で部屋は夕暮れの色に染まっていた。そのお陰なのかも知れないが顔色は大分良くなって見える。

 呪いのせいで体力も消耗しているのか、今は眠っていた。


「アレは…呪術がハイリスクだって言われるもうひとつの理由だよ」


 視線を合わせるとダルケンが固唾を飲む。


「ひとつは支払う対価。そしてもうひとつは呪術が解呪された場合、その呪いが術者本人に反ってしまう事。その威力を倍にして、ね」


 生け贄を使っていた場合でもその威力は生け贄だけには収まらない。恐らく今頃術者は反ってきた呪いに飲み込まれているだろう。


 墓穴掘る間もなく死んでしまうかもしれない。

 けれど同情の余地はない。人を呪うってことは、自分も其処へ墜ちることを意味するんだから。

 その覚悟があったから呪術なんて使ったんだろうし、そこから先の事までわたしは知らない。

 自分の不始末は自分でしましょうねってやつだ。


「では今頃…」

「そ。今頃術者はかけた呪いを二倍返しで受けているはずだよ」


 わたしはさっきまでここで渦を巻いていたあの呪いの塊を思い出して少し寒気がした。

 あんな気味の悪いものが襲ってきたら…と考えるとホラーがわりと平気なわたしでも怖い。


「まぁこれで解術は成功しました。後はゆっくり休んで栄養のあるものを沢山食べて、体力が戻れば少しずつ運動をすれば元の状態に戻ると思うから」


 振り返って告げるとクロエが瞳を潤ませて私の両手を取り、額にくっつけてまるで祈るように「ありがとう」とお礼を口にした。

 みんなの顔も泣き笑いのようになっている。


「ティア、本当にありがとう。この恩は必ず返すよ」


 ルードが跪いて椅子に座るわたしと視線を合わせて言った。


「なんで? みんなはわたしのお友達でしょ?だったら困ってるお友達を助けるのは当たり前じゃない」

「いや、そんな訳には!」


 みんなはきちんとお礼をしたいって言い連ねるけど、本当にお礼をしてもらおうとは思ってないんだけどな。


「あ、でもどうしてもって言うなら今度お買い物に来るから王都を案内してよ!」

「そんなのお礼にならないじゃないか」

「そうよ、ティア。もっとこう…何か欲しい!とかないの?」


 名案だとばかりに提案するも受け入れてもらえない。何故だ。


「え~?ん~…?とくにないんだよね…」


 正直に言えば欲しいものは沢山あるんだけど、それはわたしが自分の目で見て、触って納得した形で得たいものなのだ。

 と言うか、それを買いにいくのが今のわたしの楽しみであり目標なので、みんなに王都をナビしてもらいたいのも本当なんだけどな。


 でも、だとか、しかし、だとか兎に角みんなが納得してくれない。


 なのでわたしは強行手段を取ることにした。


「ま、そゆ事だから!近々遊びに来るから、それじゃまたね!」


 ばいばい、と笑顔で手を振ってわたしは椅子に座ったまま精霊の森に転移したのだった。





ブクマありがとうございます(つ๑>ω<๑c)♡


まだ暫くは恋愛要素ないままのんびりまったり回が続きます(;・ω・)


誤字、脱字、発見されましたらお知らせください(^^)

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