8 ナギサの愚痴
実は彩葉はもっといろいろな女子と話をしたかったのだが、波長の合わないオコワから逃れるにはここで唯一の知り合いであるナギサを指名するしかなかったのだ。まあ、ナギサは楽しく話せる女子なのでとりあえず彼女との時間を楽しみたいと思った。
「あら、こんばんわ。また会えてうれしいわ」
前回と同じように優しい笑みを浮かべているが、それとは裏腹に右手首に包帯を巻いていてそれが痛々しい」
「右手、痛そうね。どうしたの?」
するとナギサの唇の端っこが一瞬ゆがんで
「それがね、駅の構内を歩いていたら、別に混んでいるわけでもないのに前から歩いてきた若い男の人が、斜めに私の方に歩いてきて、ぶつかってきたの。
それで私は尻もちをついちゃって、その時に無意識のうちに右手が体をかばうというか、支えようとしてひねっちゃったってわけ。痛かったわ。そしたら、その無礼千万な男は謝るどころか失礼千万なことを言ったのよ」
「謝る代わりに失礼なことを言うなんて、想像もできない。何て言ったの?」
「水色か」
って言ったのよ。
「えっ、意味が分からない。どういうこと?」
「今日の私は膝上のスカートを履いてて・・・」
「あっ、ひょっとして下着が?」
「そうなのよ。尻餅ついちゃったから、少し足が開いて見えちゃったみたいなの。もう、本当に腹が立つし屈辱的で悔しいわ」
「ほんと、最低ね。まあ、最近はぶつかっても何も言わない人が増えているような気がするけど、今のお話だと、その人はわざとぶつかってきたみたいよね。酷い話ね」
「そう、明らかにわざとって感じだった。何でこんなことするのかな?」
「そう言えばこの前新聞に書いて合ったんだけど、イライラした男性がおとなしそうな女子にわざとぶつかって鬱憤ばらしするんですって。昔と違って最近は女性が強くなってきてるでしょ。だから特に職場で女性のボスや同僚に強く叱られたり、やりこめられた男性の中にそういう行動をする人たちがいるんだって。ぶつかられた女子の中には骨折しちゃう人もいるらしいわよ。現にナギサさんも右手を痛めちゃったわけだし」
「そうよね。これってある意味犯罪よね。あっ、この話をしたの彩葉さんが初めてよ。話を聞いてもらってスッキリしたわ。あら、やだ、お客さんの話を聞くのが私の仕事なのに、これじゃ逆よね」
「いいじゃない、この不条理な世界に生きていると不愉快なことがいろいろとあるもんね。私、ナギサちゃんの話を聞くことを含めてとっても楽しいしくつろいでいるわよ。もっといろんな話がしたいな」
「あっ、呼ばれちゃった。誰かのリクエストみたい。つまり、リクエストがかぶったっていうこと。じゃ、話聞いてくれてありがとね。またね」




