4 迷惑なスマホ人間
ある日曜日に彩葉は車でドラッグストアへ行った。左折して入口に入りかけると、ちょうど店から買い物を終えて出てきた車とすれ違おうとした時、急にその車の後ろから左に向かって自転車が飛び出してきた。
乗っているのは若い女子で、スマホを見ながら運転しているのでこちらに気づいていない。相手はボンネットのあたりを通過しかかっていて、彩葉は接触してしまう、やばい、と思いながら急ブレーキをかけたところ、奇跡的に接触を免れた。自転車はそのまま行ってしまった。
最近はスマホを見ながら歩いたり自転車に乗っている人をよく見かけるようになった。駅では放送で何度もスマホ歩きは危険だからおやめくださいと言っているが、特に若い男女はどこ吹く風でスマホを見ながら歩いている。
階段を下りている時にすぐそばにスマホを見ながら階段を下りている女性がいて、何を見ているのかそちらに視線を移すと、ゲームをやりながらではないか。こういう人たちは自分だけは大丈夫だと思っているのだろう。
またはスマホ歩きをしているとカッコイイと思っているのかもしれない。困ったものだ。こういう人たちは階段を踏み外して骨折するとか痛い目に遭わないと分からないのかもしれない。そう考えると、人間って案外愚かな動物なんだな、とも思えてくる。
ただスマホ歩きをしている人自身が怪我とかするのはその人の自己責任だが、人を巻き込んでしまうことがあることも考えてもらわないと困る。高速道路でスマホを見ながら運転していたトラックが追突し、追突された車は激しく燃えて真っ黒なぐちゃぐちゃの鉄の塊になってしまい、それに乗っていたパパ、ママ、子供二人が亡くなってしまうという痛ましい事故が起きたことは記憶に新しい。
要するにスマホ運転していた女のせいで一瞬にして一家が全滅してしまったのであり、トラックの運転をしていたスマホ女は怪我一つしていなかったなんて何たる不条理だ。
彩葉は今日もOLとして頑張っている。ある部署に用事があり、廊下をやや足早に歩いている。廊下の角を右に曲がったところがその部署なので、曲がろうとするとスマホを見ながら、つまり下を向いていて前を全く見ていない女子が急に現れ、彩葉は正面衝突しそうになったが、スンデのところで何とか避けることができた。相手は何も言わずにスマホを見ながら立ち去った。
日本人はスマホ病なのか、と腹が立ってきた。午後になってまた廊下を歩いていると今度は左折すべき角が近づいてきた。やや不安を感じつつ曲がろうとすると、スマホは持たずに真っ直ぐ前を向いて歩いて来た女性と接触しそうになった。けれども今回は相手もちゃんと前を見ているのでどちらからともなく余裕で衝突を避けることができたし、しかも相手はその瞬間
「すみません」
と言ったのだ。
こういう時にすみませんと言われるのは何年も前だったような気がする。最近は滅多にこういう言葉を聞かなくなった。それ故に実に新鮮な経験とさえ言えるくらいだ。何しろぶつかっても何も言わない人が増えたし、混み入った電車に乗っていてどこかの駅に停車すると、彩葉はもちろんスミマセンと言いながら空けてもらいながらできるだけ周囲の人と接触しないように、押したりしないようにしてプラットフォームの方へ向かうが、最近は男女問わず何も言わずに押しのけて行く人があまりにも多い。
なので彩葉が立ったまま本を読んだりしているといきなり押されたり、時にはけっこう激しくぶつかられたりする。そんな時、人生は短いのだから些細なことは気にするな、と自分に言い聞かせて忘れようとするのだが、正直言ってムカムカしている自分に気がつく。こういう気持ちを皆さんはどうやって処理しているのだろうか、などと思ってしまう。
彩葉はこういう些細な、というか細かい不愉快なことはさっさと忘れて気持ちをすぐに切り替えようと努力するのだが、なかなかうまくいかない。
ある人気俳優は、何か悪いことや嫌なことがあっても、例えば犬の排泄物をたまたま踏みつけてしまったとか、そんなことがあってもすぐに次はきっと良くなると信じて行動していると言っていた。成功する人というのはそういう心構えなのかもしれない。
世の中には常に前向きに考えて進んでいくことのできる人もいるのだろうが、彼女はどうもくよくよする気質のようで、なかなかそれができずに引きずってしまう。先日のペットボトルの件のように偶然気分を変えてくれるような出来事に出くわす確率は極めて低い。ではどうしたら良いのか。彩葉は1年ほど前からある対処法を試しているのだ。それは・・・




