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3 散乱したペットボトル

彩葉(いろは)はできるだけ人との関わりを避けているが、いったん家を出ると周囲は知らない人ばかりなのに不愉快な思いをさせられることが時々ある。


今日は仕事が終わって夕方、人ごみの中を歩いていると、若い男が前から急に斜めに歩いてきて彩葉の肩にぶつかってきた。通りすがりにたまたま掠る(かする)などの接触してしまったというよりは故意にぶつかってきた感じだ。


彩葉は少しよろけてしまったが、男は何も言わずに立ち去った。かなり痛かった。


その時先日新聞で読んだある記事を思い出した。職場で男性が人間関係で不愉快な思いをした時、それも特に女性に攻撃されたり傷つくようなことを言われて不満が溜まっている時、通りを歩いている弱そうな女子にわざとぶつかり、それでストレス発散をしているという記事だ。


中には激しくぶつかられて転倒して骨折してしまった女性もいるというから、本当に酷い話だ。全く人間の社会には嫌な奴がいるな、とムッとしたが、すぐにこんなくだらないことでイライラしないで気持ちを切り替えないといけないと思い、夕食の食材を買うということもあっていつものスーパーに行ってみた。


日中職場などで不愉快なことがあっても、野菜や魚、麺類、パンなどの様々な食材を物色しながら買い物をしていると気がまぎれるだけでなく楽しい。これはきっと精神衛生上プラスなことだと思えてくる。


今も買い物をしていて不愉快なことは束の間忘れていたが、それで雲散霧消してしまうところまではいかない。レジを終えてカゴからビニール袋に品物を移している時、急にぶつかられた時のことがフラッシュバックし、やや気が滅入った時、わっという声がして、パタパタパタと物が落ちて転がる音がした。


そちらの方を見るとやや高齢の女性が袋に入れていたペットボトルを落としてしまい、10本くらい入っていたので、その辺にばら撒いたような感じになってしまっていた。


まあ、ペットボトル10本くらいなら自分で拾って袋に入れればいいだけとも言えるが、彩葉は気がつくとその女性のすぐそばで一緒にペットボトルを拾って袋に入れていた。


拾い終わると彩葉は何事もなかったかのように自分の買った商品のところに戻り、続きをやった。さっきの女性がありがとうございました、と言っているのが聞こえたが、彩葉は特に反応せず、黙々と作業を続けた。


彩葉は別に善いことをしたとか、親切なことをしてあげたとかいう意識はなく、無意識のうちにそうしてしまっただけであり、大したことだとは思っていなかったからだ。


けれども帰宅してビールを飲みながら何となくぼーっとしている時、何となくその時のことを思い出し、こんなことを考えた。あの時あの場に居合わせたお客さんたちの中でその様子をたまたま見かけた人もいるだろう。そういう人はあの光景を見てどう思っただろう。


客観的に言ってこの不条理で世知辛い世の中でこんなことをしてくれる人がいることを目の前に見て微笑ましく思ったのではないだろうか。もし自分がそういう立場だったら、きっとそう思ったと思う。そんなことを考えた時、彩葉は心が少し軽やかになるのを感じた。

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