19 お弁当の話
「実は俺、ある中堅の会社に勤めてるんだけど、一応商品の企画部なんて所に配属されていてさ、そこには何人か外国の人もいるんだ。
俺の隣の席はまだ大学を出て2年の若いイギリス人女性がいるんだけど、その女子がめちゃくちゃ可愛いんだ。しかも甘ったるい可愛い声の持ち主でもあるんだ」
するとミナミちゃんが
「はあー、ということは浩二さんはその可愛い魅力的な女子に惚れたのね」
「ハズレ。魅力的な女子ではあるけど、俺にとっては単なる同僚にすぎないからね。仕事の話しかしないのさ」
「それで?」
「ある日出勤したら、泣いていたんだ。それも普通の泣き方じゃない。机につっぷして大声で泣いていたのさ」
「慰めてあげたの?」
「いや、泣いている原因が分からないし、特に親しくもないし異性でもある俺が話しかけてもしょうがないって感じがしたし若い女の子は難しいし苦手でもあるから、放っておくことにして仕事を始めようとしたのさ」
「なんか、それ、冷たくない?それにこれってお弁当とは全然関係ないじゃない?」
ミナミちゃんが
「まあ、まあ。話を続けてちょうだい」
「泣いている若い女の子にうまく対応できるのは女性じゃないと無理だと直感的に思ったし、だいたい人生は苦しく辛いものだと誰かが、そう、ある人気のある女性作家が人生の90%は苦しみだと言っていたのを思い出して、辛いこと、悲しいことがあってもその人が自分で乗り越えるしかないのだから、と思って彼女のことはそのままにして仕事に取りかかろうとしたのさ」
「やっぱり冷たい!」
「ところがその時、急に彼女が顔を上げて、涙でくしゃくしゃになった顔のまま俺の方を見て英語でしゃべり始めたんだ。それが単なる同僚にすぎない俺に救いを求めてる感じだったのさ」
「全部英語で?理解できたの?」
「馬鹿にするなよ。俺は語学が高校生の時から得意で、英語とフランス語ができるんだからね」
「自慢話はいいから、彼女の英語が理解できたのなら、翻訳してよ。翻訳コンニャクが無くても分かったってことでしょ?」
「ドラえもんかあ。彩葉さん、なかなかユーモアあるね」
「ちょっとだけ面白くなってきたから続けて!」
「彼女は泣きながらこんなことを言ったんだ。せっかく日本に来て仕事をしているんだから、日本語をしっかり勉強して、スラスラとまではいかなくても、日本人と普通の会話ができるようになりたいって思ったんだって。で、ある日本語学校に通い始めたんだけど、その講師が好きになっちゃったんだって」
「その講師って男性?女性?」
「普通に男性さ。ところが彼女は恋愛の経験はまだ無くて、どうしたらいいか分からなくて悩んでいるっていうんだ。
最近はその講師が他の女子生徒から質問を受けて説明をしたりしているのを見るだけで妬けるし、胸が苦しくなって辛いんだって。それが積み重なって耐えられなくなって泣いてるっていうんだ」
「それは正真正銘の恋ね」




