20 手作り弁当の効用とガーベラ
「でもそれは彼女の問題で、俺には関係ないからね」
「えーっ、冷たいのね」
「だいたい恋愛って辛いものさ。俺だって何度も失恋して辛い思いをしたさ。でも失恋もまた人生の一部なんじゃないの。だから自分で解決するしかないのさ。
そういうわけで俺には何もできないから、やはり彼女のことはそのままにして仕事に取りかかろうとしたのさ。ところがその時不思議なことが起きたんだ」
「不思議なことって?」
「普通、人間がしゃべる時って脳から口に指令が来てしゃべるわけでしょ。それが、俺の脳からは指令を出してないはずなのに口が勝手に喋りだしたのさ」
「変なの。それで口が勝手に何をしゃべったの?」
「こんな風に。『そんなの簡単さ。彼のためにお弁当を作ればいいのさ。卵焼きを作って、ウインナーを炒めてタコみたいにして、あとレタスやミニトマトとか適当に入れて作って彼に渡せばいいのさ』ってね」
「なんだか浩二さんていい加減な人のような感じがしてきたわ」
「それから1週間ほどして、出勤すると、廊下に彼女が立っていたんだ。俺を見つけると駆けてきて、俺の目の前で立ち止まると、満面の笑顔でありがとう、あなたのおかげでうまくいったって言うんだ。
俺は彼女の恋の件はすっかり忘れていたんだけど、それが何と彼女は俺が言ったことを忠実に実行したって言うんだ。俺は適当に言ったはずなのに、俺が言った通りの内容のお弁当を作って、日本語学校の授業が終わった後にこれを食べてくださいってまだたどたどしい日本語で言って渡したって言うんだ」
「そしたら?」
「それから2日ほどして、授業終了後に彼から呼び止められて、お弁当箱を返却しながら、美味しかった、ありがとう、お礼にフランス料理をご馳走したいと言われて、ご馳走になって、それからおつきあいが始まって順調だって言うんだ。そしてこれは浩二さんのおかげだって言うんだ」
「お弁当を作るようにアドバイスしたってそういうことだったのね。図らずも恋のキューピッドになっちゃったってわけね。クールな人のようでさりげなくそんなことできちゃうなんて素晴らしい!」
浩二は何倍かハイボールを飲むと帰っていった。彼がドアの向こうに消えたのを確かめたミナミちゃんが
「はい、これ、ささやかなプレゼント。」
「えっ、ありがとう。これって何のお花?」
「ガーベラよ。かわいいでしょ」
「ガーベラか。ほんと、かわいいわね。でもどうして6本?」
「ガーベラの花言葉よ。ガーベラ6本で『あなたに夢中』ってことよ。今のあなたにピッタリでしょ」




