13 ニヒルな男
「あなた、さっきから女性の悪口を言ってるけど、こちらは楽しく飲んでるのに、雰囲気を壊さないでよ」
「俺はあんたの悪口とか言ってないでしょ。一般論というか、事実を言っただけ。それもただの独り言だよ。ねえちゃん、かわいい顔してそんなに熱くなるなよ」
「独り言だったらこっちにまで聞こえないように言ってよ」
「俺の言論の自由を奪うのか?いちいち気にしないで受け流せばいいじゃないか」
「気にするなと言われたって、実際聞きたくなくても音声が耳に入ってきて、脳がそれを理解しちゃうんだから無理でしょ」
するとミナミちゃんが
「まあまあまあ、仲良くやりましょうよ」
すると彩葉は
「私、席を移動したいんだけど」
「隣の人がタバコを吸っててタバコアレルギーで辛いっていう場合は席の移動もアリなんだけど、それ以外の理由だとマスターが許可してくれないんじゃないかな」
「この人はタバコの煙よ」
「・・・・・・」
「もう、じゃ、私帰るから」
ミナミちゃんが引き止めてくれると思ったがそのままだった。
それから1週間が過ぎ、彩葉は気を取り直してガールズバー・ルナへ行くことにした。あの嫌味な男のことは忘れることにしていた。とは言っても彩葉はクヨクヨするタイプなので、そう自分に言い聞かせて努力しているという感じではあったが。
店に入るといつものように薄暗いオレンジ色の光が彩葉の心をくつろがせてくれる。
マスターに案内された席に座ると、何とミナミちゃんが来てくれて、何事もなかったかのようにいつものように楽しく世間話をしていると、他の女子たちが
「いらっしゃいませ」
と声を合わせて言ったので、誰か新たなお客さんが来店したんだなくらいにしか思わなかったのだが、その客はマスターに案内されて何と彩葉の隣に座った。
どんな人かと思ってそれとなくそちらの方を見ると、
「やあ、これは奇遇だね。またお隣同士になるとは。まさか今夜も帰ったりしないだろうね。僕は君のことなかなか面白い人だと思っているんだ。あっ、僕の名前は福山雅治。よろしくね」
「えっ、あの歌手で俳優の福山さんと同姓同名なんですか?漢字も同じなんですか?」
「そんなわけないでしょ。今のは嘘。本当の名前は吹雪浩二」
「何で自己紹介の時に嘘ついたりするの?最低。ねえ、ミナミちゃん、どうして今夜もこの人と隣り合わせなの?私かこの人かどちらかを違う席にしてよ」
「マスターが案内したんだからそれに異を唱えることはできないのよね」
「分かった。じゃ、私はこの人に関わらないようにして、この人はただの壁だと思ってミナミちゃんとの会話に100%集中するわ」




