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『フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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8/24

第8話 カードの国アデュー


「アデューまで、どれくらい?」


「順調なら数日だな」


「数日!?」


私は思わず立ち止まった。


「遠い!」


「旅ってのはそういうもんだ」


オラクルは平然と歩き続ける。


灰色の尻尾が。


左右にゆらゆら揺れている。


「昨日まで海だったのに」


「世界は広いんだよ」


「足痛くなる」


「もうなってんだろ」


「なってる」


「なら同じだ」


「全然同じじゃない!」


アデュー。


☆3【真実のカード】があるという。


カードの町。


いや。


オラクルによれば――。


「国だ」


「町じゃないの?」


「正確には小国だな。中心都市も国名と同じアデュー。だからみんな適当に“カードの町”って呼ぶ」


「へぇ……」


また一つ。


この世界のことを知った。


私は。


歩きながら自分の腰を見る。


【旅人の短剣】。


黄色のお金の袋。


胸元には。


聖なるマップ。


三匹と旅をしていた時より。


荷物は増えた。


でも。


隣を歩く人数は。


減った。


「……」


「何だ?」


オラクルがこちらを見る。


「なんでもない」


「そうか」


それ以上。


聞いてこなかった。


意外だった。


もっと。


ずけずけ聞いてくる奴だと思ってた。


オラクルは。


口は悪い。


泥棒。


人のお金を盗む。


最悪。


でも。


私が黙りたい時は。


何も聞かなかった。


「……オラクル」


「ん?」


「ありがとう」


「何が?」


「なんでもない」


「何だそりゃ」


オラクルが。


鼻で笑った。


◇◇◇


旅は。


思っていたより大変だった。


初日の夜。


「野宿!?」


「そうだ」


「宿は!?」


「街道の真ん中に宿があるように見えるか?」


「ない!」


「じゃあ野宿だ」


「虫は!?」


「いる」


「無理!」


「じゃあ立って寝ろ」


「もっと無理!」


結局。


大きな木の下で眠ることになった。


オラクルが拾った枝で火を起こす。


ぱちぱちと。


炎が夜を照らす。


「火、つけられるんだ」


「俺を何だと思ってる」


「泥棒」


「お前それ気に入ってるだろ」


夕食は。


途中の村で買った硬いパンと。


干した肉。


私は。


肉を一口食べた。


「……」


――肉……食べたいでぷ。


赤の声。


胸が。


きゅっと痛くなる。


「……おい」


「何?」


オラクルが。


自分の干し肉を半分。


こちらへ差し出した。


「食うか?」


「なんで?」


「知らん」


「自分の分なくなるよ」


「俺はいい」


「……」


私は。


首を横に振った。


「大丈夫」


そして。


自分の肉を。


もう一口。


食べた。


「ちゃんと食べるって約束したから」


「……そうか」


誰との約束なのか。


オラクルは聞かなかった。


その夜。


焚き火の向こう。


空には。


数え切れない星があった。


私のいた世界でも。


星は見えた。


でも。


こんなにたくさんじゃない。


「綺麗……」


青。


白。


赤。


中には。


ゆっくり動いている光もある。


「あれも星?」


「飛空船」


「船が空飛んでるの!?」


「たまにな」


「乗りたい!」


「高いぞ」


「……歩く」


「決断早えな」


この世界には。


まだ。


知らないものが。


山ほどある。


怖いものも。


きっと。


いっぱいある。


でも。


それと同じくらい。


見てみたいものも。


たくさんあった。


◇◇◇


次の日。


モンスターにも遭遇した。


「出た!」


茂みから飛び出したのは。


丸い身体に。


六本の脚。


頭から二本の角を生やした生き物。


「オラクル!」


「任せた」


「何で!?」


「練習」


「いきなり!?」


「弱い」


「見た目めちゃくちゃ怖いよ!」


「そいつ草食だ」


「じゃあ何でこっち来るの!?」


「お前が赤い実踏んだから」


足元。


ぐちゃ。


赤い実。


「……ごめんなさい!」


「そいつに謝れ!」


私は。


慌てて短剣を抜いた。


結果。


戦わなかった。


赤い実を。


遠くへ投げたら。


モンスターも。


そっちへ走っていった。


「……勝った」


「戦ってねえだろ」


「生き残ったから勝ち!」


「まあ、それはそうだな」


オラクルは。


少しだけ笑った。


赤たちがいたら。


きっと。


一緒に笑ってた。


そう思う。


でも。


泣かなかった。


忘れたわけじゃない。


泣かない時間が。


少しずつ。


増えてきただけ。


◇◇◇


そして。


数日後。


丘を越えた瞬間。


「……!」


私は。


息を呑んだ。


遠く。


白い城壁に囲まれた街。


中央には。


何本もの細長い塔。


塔の先端には。


巨大なカードが飾られている。


赤。


青。


金。


銀。


風を受けて。


何百枚もの旗が揺れていた。


そして。


街の上空。


カードが。


飛んでいる。


本当に。


飛んでいる。


「オラクル」


「何だ」


「カード飛んでる」


「飛んでるな」


「カードが!」


「見りゃ分かる」


「なんでそんな普通なの!?」


私たちの前には。


大きな門。


その上。


金色の文字。


【ADEU】


カードの国。


アデュー。


「着いたぞ」


オラクルが言った。


「ここが」


「世界中のカードが集まる国だ」


私は。


門をくぐった。


そして。


「すごぉぉぉい!!」


叫んだ。


カード。


カード。


カード!


本当に。


町中。


カードだらけ。


店の看板。


カード。


宿屋の看板。


カード。


露店。


カード。


子供たちまで。


道端でカードを広げて遊んでいる。


建物の壁には。


人の背丈より大きなカード。


頭上には。


魔法で作られた半透明のカードが。


魚みたいに空を泳いでいた。


「前見ろ」


「でも!」


「ぶつかるぞ」


「こんなの見たことない!」


「だから前を――」


ドンッ。


「痛っ!」


人にぶつかった。


「……」


「言ったよな?」


「はい」


◇◇◇


通りには。


カードを売る声が飛び交っている。


「攻撃魔法カード! 本日だけ二割引き!」


「召喚カード入荷したよ!」


「旅人用の保存カード! 食料を腐らせたくないならこれ!」


「恋占いカード、一回赤B二枚!」


私は。


右を見て。


左を見る。


「全部魔法が使えるの?」


「いや」


オラクルが説明する。


「普通に遊ぶためのカードもある」


「遊ぶ?」


「ああ。魔法を封じた物もあれば、契約に使う物、召喚、保存、記録――種類は山ほどだ」


「すごい……」


一軒の露店。


カードの上に。


説明が浮かんでいる。


【☆1 一分間だけ髪が伸びるカード】


「……」


私は。


自分の髪を見る。


「いらない」


「正しい」


次。


【使用すると三秒間だけ声が低くなる】


「オラクル!」


「買わねえぞ」


「まだ何も言ってない!」


「顔で分かる」


次。


【なくした靴下の片方を探すカード】


「……これ欲しい」


「何に使う」


「なくした時」


「なくしてから買え」


「その時なかったら困るでしょ!」


「そうやって無駄遣いする奴から貧乏になるんだ」


「泥棒にお金の使い方言われた!」


私は。


笑った。


笑ってから。


少しだけ。


胸が痛んだ。


黄色なら。


何て言ったかな。


たぶん。


値段を見て。


もっと真剣に悩んでる。


――金は使い方が大事でぷ。


そんなことを。


言いそうだ。


私は。


腰の袋に触れた。


大事に使う。


でも。


使わなきゃいけない時には。


ちゃんと使う。


◇◇◇


聖なるマップによれば。


☆3【真実のカード】は。


この国の中心付近にある。


でも。


地図を人前で広げるわけにはいかない。


「人の少ないところで確認しよう」


「成長したな」


オラクルが言う。


「当然」


「昨日まで人前で広げてた奴が」


「もうしない!」


歩いていると。


ふと。


小さな露店が目に入った。


「……?」


他の店とは。


明らかに違う。


カードが。


一枚しかない。


古びた布の上に。


ぽつん。


店番は。


若い女の人。


綺麗な人だった。


淡い茶色の長い髪。


優しそうな瞳。


でも。


着ている服には。


何度も縫い直した跡がある。


袖も。


少しほつれていた。


「……」


気になる。


私は。


露店へ近づいた。


「こんにちは」


「あら」


お姉さんが顔を上げる。


「こんにちは」


柔らかい笑顔。


「このカード、売り物ですか?」


「ええ」


「一枚だけ?」


「そうなの」


お姉さんは。


少し恥ずかしそうに笑った。


「家に残っていた物でね」


「家に?」


「両親が亡くなってしまって」


「……」


「私には、まだ小さな弟と妹がいるの」


お姉さんの目が。


少しだけ寂しそうになる。


「二人を育てるために、売れる物がある時はこうして市場へ来ているのよ」


「……そうなんだ」


両親がいない。


その言葉に。


胸が動いた。


私は。


両親を探している。


この人は。


もう。


探しても会えない。


「弟と妹は?」


「家で待ってるわ」


「ご飯、ちゃんと食べてる?」


「……」


一瞬。


お姉さんが答えに困った。


それだけで。


分かった。


頭に。


赤が浮かぶ。


――お腹いっぱい……食べるでぷよ。


「このカード」


私は聞いた。


「いくらですか?」


「三銀Bでいいわ」


三銀B。


私は。


黄色の袋を開く。


中身を見る。


旅は。


これからも続く。


お金は。


必要。


黄色なら。


どうする?


……いや。


違う。


黄色ならどうするかじゃない。


このお金を。


私にくれた。


なら。


どう使うかは。


私が決めなきゃ。


私は。


銀Bを六枚取り出した。


「はい」


お姉さんの手へ。


置く。


「え?」


「これで」


「ちょ、ちょっと待って」


お姉さんが慌てる。


「多いわ!」


「いいの」


「でも倍よ!?」


「知ってる」


「受け取れないわ」


私は。


お姉さんの手を。


両手で包んだ。


「弟さんと妹さんに」


「……」


「いっぱい、おいしいもの食べさせてあげてください」


お姉さんの目が。


大きくなる。


「……あなた」


「私の友達が」


少しだけ。


喉が詰まった。


でも。


笑う。


「ちゃんと食べるの、大事だって教えてくれたから」


「……」


お姉さんの目に。


涙がたまった。


「ありがとう」


「うん」


「本当に……ありがとう」


何度も。


頭を下げてくれた。


私は。


一枚のカードを受け取る。


派手じゃない。


表には。


小さな花の絵。


【保存のカード】


食べ物を。


少し長く保存できるらしい。


「これなら旅で使えるな」


オラクルが覗く。


「よかった」


「まあ」


オラクルが。


六銀Bが消えた袋を見る。


「泥棒の俺でも、倍は払わねえけどな」


「うるさい」


「でも」


「何?」


「悪くねえ使い方だ」


私は。


少しだけ笑った。


「でしょ」


「調子乗んな」


◇◇◇


お姉さんは。


嬉しそうに店を畳み始めた。


きっと。


弟と妹のところへ帰るんだ。


私は。


その後ろ姿を見送る。


「よかったね」


「何が」


「今日、ごちそうかも」


「そうだな」


その時。


「……?」


人混み。


少し離れた場所。


黒いフード。


誰かが。


お姉さんを見ていた。


男?


女?


分からない。


顔は。


影に隠れている。


ただ。


じっと。


お姉さんの後ろ姿を見つめている。


「オラクル」


「ん?」


「向こう」


私は。


少し目を離す。


そして。


もう一度。


見る。


「……いない」


「誰かいたのか?」


「フードの人」


「この町なら珍しくもない」


「そうだけど……」


何だろう。


嫌な感じは。


しなかった。


でも。


気になる。


フードの人物がいた場所。


足元。


何か。


白いものが。


一瞬だけ見えた気がした。


カード?


真っ白な。


何も描かれていない。


一枚のカード。


「……」


瞬きをした時には。


もう。


人混みしかなかった。


「フール」


オラクルが。


私の頭を軽く叩く。


「目的忘れてねえだろうな」


「あ!」


そうだった。


☆3。


【真実のカード】。


◇◇◇


私たちは。


人気の少ない路地へ入った。


周囲を確認する。


「誰もいない」


「出せ」


私は。


聖なるマップを開いた。


青白い線が。


アデューの地図を描く。


私たちの現在地。


そこから。


☆3へ。


光の筋が伸びた。


「こっち」


「どれどれ」


オラクルが覗き込む。


「……おい」


「何?」


「これ」


「うん」


地図の中心。


ひときわ大きな建物。


塔。


庭園。


厚い城壁。


【☆3 真実のカード】


光は。


そのど真ん中を。


示していた。


オラクルの口角が。


ゆっくり上がる。


「王宮じゃねえか」


「……」


私は。


地図を見る。


「王宮?」


「ああ」


「入れる?」


「普通は無理」


「じゃあどうするの?」


オラクルの黄色い瞳が。


きらりと輝いた。


嫌な予感。


「簡単だ」


「……何する気?」


「忍び込む」


「駄目!」


「まだ何もしてねえ!」


「顔が泥棒の顔だった!」


「元からだ!」


私は。


聖なるマップを閉じようとした。


その時。


「……え?」


一瞬だけ。


見えた。


【真実のカード】


その文字の。


すぐ後ろ。


何かが重なっている。


カードの輪郭。


でも。


真実のカードとは違う。


黒い。


真っ黒なカード。


「……何?」


目を凝らす。


消えた。


「オラクル」


「今度は何だ」


「今、黒いカードが……」


「どこに?」


「ここ」


もう一度。


地図を見る。


何もない。


【☆3 真実のカード】


ただ。


それだけ。


「見間違いじゃねえのか?」


「……かな」


私は。


聖なるマップを畳んだ。


真実のカード。


白いカード。


そして。


一瞬だけ現れた。


黒いカード。


まだ。


私は知らない。


それぞれが。


何を意味するのか。


ただ。


一つだけ。


確かなことがある。


次の目的地は。


この国の中心。


白亜の王宮。


そして。


その王宮には。


私が探している。


【真実】がある。


オラクルが。


にやりと笑った。


「さて」


「何?」


「王宮攻略だ」


「普通にお願いして入ろうよ!」


「それで入れるなら泥棒はいらねえ」


「そもそも泥棒いらないよ!」


カードの国アデュー。


私たちの。


最初のお宝探しが。


本当の意味で。


始まろうとしていた。

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