第3話 はじめての戦い
第3話 はじめての戦い
「フールには、指一本触らせないでぷ!」
怪物が。
砂を蹴った。
速い。
「来るでぷ!」
緑が叫ぶ。
黒い影が。
一気に迫る。
「うわっ!」
私は反射的に後ろへ下がった。
その横を。
赤が飛び出す。
「でぇぇぇぷ!!」
小さな剣。
巨大な牙。
どう考えても。
大きさが違いすぎる。
「赤!」
ガキィン!!
牙と剣がぶつかった。
「ぐぬぬぬ……!」
赤の足が。
砂へ沈む。
怪物が頭を振る。
「うわっぷ!」
赤の身体が。
吹き飛んだ。
「赤!!」
ドサッ!
砂浜を転がる。
「だ、大丈夫!?」
「痛いでぷ!」
赤が飛び起きた。
「でも生きてるでぷ!」
「良かった……!」
いや。
良くない。
怪物が。
また動いた。
「緑!」
「分かってるでぷ!」
緑が。
大きな本を開く。
ページが。
風もないのに。
パラパラパラ――!
止まる。
「捕まえるでぷ!」
緑が。
本へ手を叩きつけた。
ドン!
怪物の足元。
砂が盛り上がる。
「え!?」
土。
いや。
岩?
地面から伸びた土の塊が。
怪物の四本の脚へ絡みついた。
ガァッ!?
「魔法!?」
「驚くのは後でぷ!」
緑が叫ぶ。
怪物が暴れる。
バキッ。
土に。
亀裂。
「長くは持たないでぷ!」
「黄色!」
「任せるでぷ!」
黄色が両手を前へ出した。
「ふんぬぬぬぬ……!」
「何してるの?」
「集中してるでぷ!」
「ごめん!」
「話しかけないでぷ!」
「ごめん!」
黄色の前に。
透明な光が集まる。
それが。
大きな壁になった。
「これも魔法!?」
「防御は金と同じでぷ!」
「どういう意味!?」
「あるほど安心でぷ!」
ちょっとだけ納得した。
「赤!」
緑が叫ぶ。
「今でぷ!」
「分かってるでぷ!」
赤が。
もう一度走る。
怪物は。
まだ土に捕まっている。
「もらったでぷーー!」
赤が跳んだ。
剣を。
振り下ろす。
その瞬間。
バキィン!
「え?」
土が。
砕けた。
怪物の前脚。
赤へ。
「危ない!!」
ドゴッ!
「ぐはっ!」
赤が。
また吹き飛んだ。
「赤!!」
今度は。
さっきより強い。
地面に落ちた赤が。
すぐには起きない。
「……っ」
私は。
走りそうになった。
でも。
怪物が。
私を見る。
赤い目。
「……」
身体が。
動かなくなった。
怖い。
頭では。
逃げなきゃって分かる。
でも。
足が。
砂に埋まったみたいに。
動かない。
「フール!」
緑の声。
「逃げるでぷ!」
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
逃げなきゃ。
なのに。
怪物が。
こちらへ走った。
「フール!!」
黄色が。
私の前へ飛び込む。
透明な壁。
ドォン!!
怪物が。
壁へ激突した。
「黄色!」
「ぐぬぬぬぬ……!」
黄色の身体が震える。
「だ、大丈夫!?」
「余裕でぷ!」
パキ。
透明な壁に。
小さな亀裂。
「全然余裕じゃない!」
「ちょっとだけピンチでぷ!」
パキパキ。
亀裂が広がる。
怪物の牙。
すぐそこ。
黄色一匹が。
必死で止めている。
私を。
守るために。
「……」
何してるの。
私。
守られてるだけ。
赤は。
二回も吹き飛ばされた。
緑は。
必死で魔法を使った。
黄色は。
今。
私の前で。
「うぐぐぐ……!」
壁を支えている。
私は?
何もしてない。
「……嫌だ」
手を見る。
震えている。
怖い。
でも。
怖いからって。
何もしなくていいの?
――向こうで出会った人を、大切にしなさい。
おばあちゃん。
出会ったばかりだよ。
まだ。
三匹のこと。
ほとんど知らない。
でも。
友達だって。
言ってくれた。
だったら。
私も。
「何か……」
周りを見る。
武器。
ない。
魔法。
使えない。
石?
小さすぎる。
木の棒?
こんなので。
どうするの。
「何かないの!?」
そして。
見つけた。
「……あ」
砂浜に。
落ちている。
赤の。
骨付き肉。
「……」
肉。
怪物。
肉。
怪物。
「これ……」
いける?
いや。
分からない。
でも。
やるしかない。
私は。
骨付き肉を拾った。
「こっち!!」
怪物へ向かって。
思いっきり。
投げる。
「食らえええええ!!」
肉が。
飛ぶ。
……はずだった。
ぽて。
「…………」
私たちの。
すぐ横に落ちた。
「…………」
黄色が。
一瞬だけ私を見る。
「フールちゃん」
「何?」
「投げるの下手でぷ」
「今言わないで!!」
怪物が。
鼻を動かした。
「え?」
クンクン。
赤い目が。
私から。
肉へ。
動く。
「……もしかして」
怪物が。
黄色の壁から離れた。
肉へ。
近づく。
パクッ。
食べた。
「食べた!」
黄色が叫ぶ。
「今でぷ!!」
「緑!」
「任せるでぷ!」
緑が。
もう一度。
本へ手を置く。
「今度こそ!」
地面が盛り上がる。
怪物の脚を。
さっきより太い土が。
縛る。
ガァッ!?
「黄色!」
「押し返すでぷ!」
透明な壁が。
前へ。
ドン!!
怪物の身体が。
後ろへ押される。
そして。
「赤!!」
返事がない。
「赤!?」
怪物が。
土を壊し始める。
「まずいでぷ!」
緑の顔が青くなる。
「赤!!」
私も叫ぶ。
「起きて!!」
一秒。
二秒。
怪物の前脚が。
土から抜ける。
「赤ぁぁぁ!!」
「……聞こえてるでぷ」
「!」
砂の中から。
小さな手。
赤が。
ゆっくり立ち上がった。
「俺の肉……」
「え?」
怪物を見る。
口から。
骨が出ている。
「食われたでぷ……」
「ご、ごめん!」
赤が。
剣を握った。
「絶対許さないでぷ」
「そこ!?」
赤が走る。
怪物が。
赤を見る。
牙。
赤の剣。
「赤!」
「でぇぇぇぇぇぇぷ!!」
赤が。
低く潜った。
牙の下。
そして。
剣を。
振り抜いた。
ザシュッ!
怪物が。
止まる。
「……」
数秒。
巨体が。
ゆっくり。
砂へ倒れた。
ドサァッ!
静かになった。
「……」
「……」
「……」
私は。
怪物を見る。
三匹を見る。
もう一回。
怪物を見る。
「……勝った?」
赤が。
剣を上げる。
「勝ったでぷーーー!!」
「やったでぷ!」
「生きてるでぷ!」
「うわあああ!」
私は。
その場へ座り込んだ。
「怖かったぁぁぁ……」
力が。
全部抜けた。
「足、まだ震えてる……」
赤が近づく。
「怖かったでぷ?」
「怖いよ!」
私は即答した。
「食べられるかと思った!」
「俺も怖かったでぷ」
「……え?」
赤を見る。
「赤も?」
「当たり前でぷ」
緑も。
本を閉じながら頷く。
「怖くない生き物なんて、あんまりいないでぷ」
黄色も。
割れかけた透明な壁を消す。
「怖い時は逃げてもいいでぷ」
「じゃあ」
私は聞いた。
「なんで逃げなかったの?」
三匹が。
顔を見合わせる。
赤が答えた。
「フールがいたからでぷ」
「……」
「俺たちだけなら逃げてたかもしれないでぷ」
緑。
「でもフールは、この世界のこと何も知らないでぷ」
黄色。
「放って逃げたら、寝覚めが悪いでぷ」
「……」
胸が。
暖かくなる。
「それに」
赤が。
笑った。
「友達でぷ」
また。
それ。
出会って。
まだ。
そんなに経ってないのに。
「……ありがとう」
私は。
三匹を見る。
「本当に」
赤が。
手を差し出した。
「フールも戦ったでぷ」
「私?」
「肉を投げたでぷ」
「ほぼ真下に落ちたけど」
「結果良ければ全部良しでぷ!」
緑が訂正する。
「全部は良くないでぷ」
「細かいでぷ」
私は笑った。
この世界に来て。
初めての戦い。
私は。
何も格好いいことなんてできなかった。
剣も振っていない。
魔法も使っていない。
投げた肉は。
全然飛ばなかった。
それでも。
ほんの少しだけ。
役に立てた。
それが。
嬉しかった。
◇◇◇
「ところで」
私は倒れた怪物を見る。
「これ、何だったの?」
緑が。
本を開く。
ページをめくる。
「ブラックファングでぷ」
「ブラックファング?」
「森や海岸に出る肉食モンスターでぷ」
私は。
さっきまで食べていた肉を見る。
いや。
もう怪物に食べられたけど。
「もしかして赤の肉って……」
「違うでぷ!」
「まだ何も言ってない!」
「絶対違うでぷ!」
怪しい。
緑が。
ブラックファングの身体を調べる。
「ちょっと待つでぷ」
「何してるの?」
「魔石を探してるでぷ」
「魔石?」
しばらくして。
緑が。
小さな黒い石を取り出した。
「これでぷ」
「きれい……」
黒い石の中に。
青い光が。
ほんの少しだけ揺れている。
「モンスターの中には、魔石を持ってる種類がいるでぷ」
「何に使うの?」
「売れるでぷ」
黄色の耳が。
ピクッ。
「売れる?」
緑。
「売れるでぷ」
黄色が。
一瞬で魔石を奪った。
「いくらでぷ!?」
「近い!」
「これは重要案件でぷ!」
「さっきまで命懸けだったのに!」
「だからこそ報酬が必要でぷ!」
筋は通っている。
ような。
通っていないような。
「町で売るでぷ」
黄色が言った。
「町?」
「ここからそんなに遠くないでぷ」
緑が答える。
「フールの装備も必要でぷ」
赤が。
私の木の棒を見る。
「それじゃ死ぬでぷ」
「……ですよね」
確かに。
木の棒一本で。
両親を探す旅は無理だ。
「じゃあ」
私は立ち上がる。
「町に行こう!」
「でぷ!」
その瞬間。
胸元が。
暖かくなった。
「……?」
羊皮紙。
「光ってる」
私は取り出した。
「さっきの紙でぷ!」
白紙だった羊皮紙に。
文字が浮かんでいく。
【QUEST CLEAR】
『最初の戦いを生き残れ』
「……」
三匹。
「……」
私。
「何これ!?」
さらに。
文字。
【NEW QUEST】
『装備を手に入れよ』
「装備……」
赤が。
私の木の棒を見る。
「紙にも馬鹿にされてるでぷ」
「されてない!」
たぶん。
その下。
線が。
一気に広がった。
海。
山。
森。
町。
そして。
巨大な世界。
「出た!」
「何がでぷ!?」
「これ! 向こうから来る時に見た地図!」
三匹が。
羊皮紙を覗き込む。
地図の上には。
いくつもの光。
【☆1】
【☆2】
【☆3】
遠くには。
【☆5】
そして。
四つだけ。
異質な印。
【???】
【???】
【???】
【???】
緑の顔から。
笑いが消えた。
「フール」
「なに?」
「これ」
緑は。
地図から目を離さない。
「普通の地図じゃないでぷ」
「やっぱり?」
「町の位置だけじゃない」
緑の指が。
一つの星へ触れそうになって。
止まる。
「何かの場所まで示してるでぷ」
黄色が。
ゴクリ。
「お宝でぷ?」
「分からないでぷ」
「売れるでぷ?」
「だから分からないでぷ!」
赤は。
四つの【???】を見ていた。
「これは何でぷ?」
「私も分からない」
「押してみるでぷ」
「え?」
赤の指が。
【???】へ近づく。
緑が。
その腕を掴んだ。
「待つでぷ」
「なんで?」
緑は。
珍しく真剣だった。
「分からないものには、むやみに触らないでぷ」
私は。
その言葉を聞いて。
おばあちゃんを思い出した。
――分からないことを、分かったつもりにならないこと。
「……うん」
赤も。
手を引っ込める。
羊皮紙の一番上に。
最後の文字が現れた。
【聖なるマップ】
「聖なる……マップ」
その名前を読んだ瞬間。
地図のどこかで。
【☆1】
一つが。
小さく点滅した。
まるで。
私たちを。
呼んでいるみたいに。
私はまだ知らなかった。
この地図が。
両親へ続く道だけではなく。
宝物。
国。
そして。
この世界に隠された秘密へ。
私を導いていくことを。
私の冒険は。
ここから。
本当に始まった。




