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『フールの大冒険 ~聖なるマップを手に、異世界でまだ見ぬ両親を探します~』  作者: ☆☆アダム☆☆


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11/18

第11話 消えた囚人



真っ暗だった。


「……おい」


オラクルの声だけが。


地下牢に響く。


「何しやがった」


返事はない。


さっきまで。


鉄格子の向こうにいた。


黒いフードの人物。


そして。


真っ白なカード。


その中央を侵食した。


黒い染み。


「……」


オラクルは。


暗闇の中で耳を澄ませた。


猫の耳が。


わずかな音を拾う。


呼吸。


向かいの牢の男。


遠くの囚人。


水滴。


ぽた。


ぽた。


そして。


目の前。


何も。


聞こえない。


「消えた?」


次の瞬間。


カンッ!


金属音。


「!」


オラクルは反射的に身を引いた。


ガチャ。


鉄格子。


開く。


「……は?」


鍵。


掛かっていたはず。


なのに。


扉が。


ゆっくり開いていく。


ギィィ……。


「おいおい」


オラクルの尻尾が。


低く下がる。


「何だよ、これ」


向かいの牢から。


声。


「お、おい猫!」


「何だ」


「お前の牢……開いてるぞ」


「見りゃ分かる」


「逃げられるじゃねえか!」


「……」


普通なら。


迷わない。


オラクルは泥棒だ。


牢が開いた。


逃げる。


それだけ。


でも。


動かなかった。


「どうした?」


「うるせえ」


床。


何か。


落ちている。


オラクルは。


しゃがむ。


指先。


触れる。


紙?


拾う。


暗くて。


よく見えない。


その時。


地下牢の照明が。


一斉に戻った。


パッ。


「まぶしっ」


オラクルが目を細める。


手の中。


小さな。


白い紙片。


カードの。


端?


「……」


表面。


何もない。


真っ白。


でも。


角度を変えた瞬間。


黒い線が。


一瞬。


浮かんだ。


「……?」


もう一度。


見る。


消えている。


「何なんだよ」


遠く。


兵士の声。


「何があった!」


「地下牢の魔法灯が落ちたぞ!」


足音。


複数。


近づいてくる。


オラクルは。


開いた牢を見る。


廊下を見る。


そして。


白い紙片。


「……」


にや。


笑う。


「牢が勝手に開いたんだ」


「おい猫?」


向かいの囚人が。


嫌な予感の顔。


「俺は悪くねえよな?」


「待て!」


オラクル。


走る。


「おい!」


「じゃあな!」


「俺も出せえええ!」


「自分で頑張れ!」


「薄情者ーーー!」


◇◇◇


「取引?」


私は。


王子様を見た。


「そうだ」


盗まれた白紙のカードを探す。


そして。


私が。


どうして【真実のカード】を求めているのか。


王子様に示す。


それができれば。


真実のカードの場所へ。


案内してもらえる。


「分かった」


私は頷いた。


「やる」


「即答だな」


「だって」


迷う理由はない。


「そのためにアデューまで来たから」


王子様が。


少し笑う。


「なら――」


ドタドタドタ!


廊下。


騒がしい。


「殿下!」


扉が開いた。


兵士。


息を切らしている。


「何事だ」


王子様の雰囲気が。


一瞬で変わる。


さっきまで。


普通に話していたのに。


背筋。


声。


目。


本当に。


王子様なんだ。


「地下牢にて異常が!」


「異常?」


「魔法灯が一斉に消失! 同時に、一部の牢の施錠魔法が解除されました!」


「何?」


私は。


嫌な予感。


「まさか……」


兵士が続ける。


「そして――」


「……」


「本日拘束した獣人の男が逃走しました!」


「……」


私。


王子様。


兵士。


「……猫?」


私が聞く。


「灰色の獣人です!」


頭。


抱えた。


「オラクルぅぅぅ……!」


◇◇◇


「待てえええ!」


「止まれ!」


王宮。


廊下。


オラクル。


全力疾走。


後ろ。


兵士。


いっぱい。


「何で増えてんだよ!」


「脱獄犯だ!」


「勝手に牢が開いたんだよ!」


「ならその場で待て!」


「待つ馬鹿がいるか!」


「自分で脱獄を認めているぞ!」


「違え!」


曲がる。


兵士。


前。


「いたぞ!」


「げっ!」


反対。


兵士。


「挟め!」


「多すぎだろ!」


オラクル。


壁。


窓。


天井。


一瞬で見る。


そして。


「よっと!」


壁際の彫像。


飛び乗る。


そこから。


柱。


さらに。


大きなシャンデリア。


「なっ!?」


兵士たちが。


見上げる。


「降りろ!」


「嫌だね!」


オラクルは。


シャンデリアの上。


四足。


猫みたいに。


走る。


「本当に猫……」


兵士の一人が呟く。


「猫じゃねえ!」


「そこ怒るところか!?」


シャンデリア。


跳ぶ。


二階。


手すり。


着地。


「へっ」


オラクルが。


笑う。


「王宮の警備も大したこと――」


「オラクル!!」


「……」


声。


下。


オラクル。


止まる。


ゆっくり。


見る。


私。


王子様。


兵士。


大量。


「……」


「……」


「よお」


片手。


上げる。


「よお、じゃない!!」


◇◇◇


数分後。


オラクルは。


床に正座していた。


兵士。


左右。


王子様。


前。


私。


隣。


「説明しろ」


王子様。


怖い。


「だから」


オラクルが。


言う。


「牢が勝手に開いた」


「そんな話を信じろと?」


「本当だ」


「そして開いたから逃げた?」


「ああ」


「なぜ?」


「泥棒だから」


「オラクル!」


「いや、そこ嘘ついても仕方ねえだろ!」


王子様が。


額を押さえた。


「君の友人は」


私を見る。


「いつもこうなのか?」


「会ってまだ数日だから分かりません」


「おい」


「でもたぶん、いつもこうです」


「フール!」


「だって!」


王子様。


ため息。


深い。


「……牢が開く前」


「ん?」


「何か異常は?」


オラクルの表情が。


変わった。


「ある」


「何だ?」


「黒いフード」


私は。


顔を上げた。


「フード?」


「ああ」


「どんな人!?」


「顔は見えなかった」


「カードは?」


「……」


オラクルが。


私を見る。


「何で知ってる?」


「いいから!」


「持ってた」


王子様。


表情。


固まる。


「色は?」


「白」


「……!」


「何も描いてない」


私と。


王子様。


目が合う。


同じ。


「それで」


オラクルが続ける。


「急にカードの真ん中が黒くなった」


「黒く?」


「ああ」


「それから?」


「灯りが全部消えた」


「……」


「戻ったら」


オラクル。


開いた牢を指すように。


手を動かす。


「牢が開いてた」


王子様。


すぐ兵士へ。


「地下牢を封鎖」


「はっ!」


「侵入経路を調べろ。魔法の痕跡もだ」


「直ちに!」


兵士。


走る。


私は。


オラクルを見る。


「その人は?」


「消えた」


「消えた?」


「灯りが戻った時にはいなかった」


「……」


白紙のカード。


黒。


また。


同じ。


「それと」


オラクル。


懐へ。


手。


「これ」


小さな。


紙片。


王子様へ。


渡す。


「落ちてた」


王子様が。


受け取る。


目。


見開く。


「これは……」


「何?」


私も。


覗く。


白。


何もない。


カードの端みたいな。


小さな欠片。


「盗まれたカードの一部?」


「分からない」


王子様。


即答。


「材質は似ている」


「じゃあ」


「決めつけるな」


私は。


止まった。


王子様が言う。


「似ているだけだ」


「……うん」


少し。


驚いた。


おばあちゃん。


緑。


二人に。


言われているみたいだった。


分からないものを。


分かったことにしない。


「調べられる?」


「王宮の鑑定士に回す」


「お願い」


王子様は。


白い紙片を。


小さな箱へ入れた。


「ただし」


私たちを見る。


「この件は他言無用だ」


オラクル。


肩をすくめる。


「面倒ごとに首突っ込む趣味はねえ」


「お前はもう突っ込んでる」


「……確かに」


◇◇◇


「ところで」


王子様が。


オラクルを見る。


「君の処遇だが」


「……」


オラクル。


耳。


下がる。


「まだあるのか?」


「当たり前だ!」


「牢はもういいぞ」


「お前が決めるな」


「でも」


私は。


王子様を見る。


「白いカードの人を見たの、オラクルだよ?」


「……」


「大事な証人じゃない?」


オラクル。


私を見る。


「フール」


「何?」


「お前、頭いいな」


「緑に教えてもらったから」


「緑?」


「友達」


「……」


オラクル。


それ以上。


聞かなかった。


王子様が。


考える。


「確かに」


「じゃあ!」


「だが無罪ではない」


「ですよね」


オラクル。


「何でお前が納得してんだよ」


「賄賂渡したでしょ」


「心付け」


「同じ」


「お前まで!」


王子様が。


少し。


笑った。


「処分は保留にする」


「保留?」


「白紙のカードの捜索に協力しろ」


オラクルの耳。


ぴくり。


「報酬は?」


「自分の釈放」


「安いな」


「牢へ戻すぞ」


「喜んで協力します」


早い。


「それと」


王子様。


私を見る。


「フール」


「はい」


「君にも協力してもらう」


「もちろん」


「だが」


「?」


「子供を危険な捜査へ放り込むつもりはない」


「でも」


「まず」


王子様は。


窓の外を見る。


市場。


夕暮れ。


「君がカードを買った女性に会いに行きたい」


「お姉さん?」


「ああ」


「なんで?」


「市場にいたフードの人物が」


王子様の顔が。


少し険しくなる。


「彼女を見ていたのだろう?」


「……!」


そうだった。


「彼女が何かを見ている可能性がある」


「じゃあ一緒に――」


王子様。


首を振る。


「私は行けない」


「なんで?」


「私が直接行けば騒ぎになる」


王族。


確かに。


「それに」


王子様が。


少し。


言いにくそうになる。


「彼女は私を警戒している」


「……どうして?」


「色々あってな」


オラクルが。


にや。


「惚れてんのか?」


王子様。


「……」


私。


「……」


オラクル。


「……」


王子様の耳。


少し。


赤い。


「え」


私は。


王子様を見る。


「好きなの?」


「……」


「お姉さんのこと?」


「今は関係ない!」


「好きなんだ!」


「声が大きい!」


オラクル。


腹を抱えて笑う。


「王子様が市場の姉ちゃんを物陰から眺めてたのか!」


「黙れ泥棒!」


「だからフードなんか被ってたのか!」


「牢へ戻すぞ!」


「すみません!」


王子様。


顔。


赤い。


さっきまで。


格好よかったのに。


急に。


普通の人に見えた。


「じゃあ」


私は言う。


「私が行く」


「……」


「お姉さんの家、分かる?」


「調べれば分かる」


「会って話を聞いてくる」


「頼めるか?」


「うん」


王子様。


少し迷う。


「もし」


「何?」


「もし彼女が」


また。


言いづらそう。


「私のことを何か言ったら」


「言ったら?」


「……」


「……」


「いや、何でもない」


オラクル。


にやにや。


「聞いてきてやろうか?」


「お前は黙れ!」


◇◇◇


王宮を出る頃。


空は。


橙色。


オラクルも。


一緒。


正式には。


釈放じゃない。


監視付き。


でも。


外には出られた。


「自由だ!」


オラクル。


伸びる。


「脱獄しただけじゃん」


「結果が大事だ」


「違うと思う」


私は。


王子様から渡された。


簡単な地図を見る。


お姉さんの家。


アデューの中心から。


少し離れたところ。


「行こう」


「ああ」


歩き出す。


その時。


胸元。


聖なるマップ。


淡く。


光った。


私は。


物陰へ。


オラクルと入る。


「またか?」


「うん」


地図。


開く。


【SIDE QUEST】


『盗まれた白紙のカードを取り戻せ』


その下。


新しい文字。


【手掛かり:1/?】


「増えた」


「何が?」


「手掛かり」


「便利だな」


「でも何個必要か分からない」


「肝心なところ不親切だな」


「それは思う」


そして。


☆3。


【真実のカード】


まだ。


王宮にある。


その表示のすぐそば。


一瞬。


白い点。


現れる。


「……!」


動いた。


「オラクル」


「何だ」


「白いの」


「どこだ?」


指差す。


でも。


もう消えた。


「またか」


「うん」


「……」


オラクル。


さっきまでの。


ふざけた顔じゃない。


「フール」


「何?」


「その地図」


「うん」


「本当に大事にしろ」


「……」


「俺が今まで盗んできたどんな宝より」


黄色い瞳が。


地図を見る。


「たぶん、ヤバい」


「価値が?」


「それだけじゃねえ」


オラクルが言った。


「この地図は」


一拍。


「世界の誰かが隠したがってるものまで、見つけちまう」


「……」


風。


羊皮紙。


揺れる。


私は。


聖なるマップを。


ゆっくり閉じた。


世界の誰かが。


隠したがっているもの。


真実。


白紙。


黒。


そして。


まだ名前さえ知らない。


たくさんの秘密。


私は。


黄色のお金の袋へ触れた。


「行こう」


「どこへ?」


「お姉さんのところ」


まずは。


一つずつ。


調べる。


分からないものを。


分からないままにしないために。


私たちは。


夕暮れのアデューを。


歩き出した。


その頃。


王宮の地下。


誰もいなくなった。


オラクルの牢。


石の床。


さっきまで。


何もなかった場所に。


一つ。


黒い文字が。


浮かんでいた。


ほんの。


一瞬だけ。


【――は、真実を喰らう】


そして。


誰にも読まれないまま。


消えた。

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