第8話 秘密と約束
目を覚ます。
辺りは薄暗いが、今が朝であると感覚で分かった。時計を出す。
ヴァルに返しそびれている、時計を。
早朝、午前四時。床から体を起こすと、目に入ったのはヴァル。
ヴァルは寝ていた。スースーと寝息を立てている。
「ヴァルも、寝るんだ」
いや、なんだと思ってるんだ。ヴァルだって人間。寝るだろう。
――ヴァルは何か、隠してる。
「……」
考えを整理するため出た外。……もちろんゴーグルは付けてある。
ゴーグルのせいで少し暗い青空を眺め、僕は――
「止めだ」
——諦めた。
きっと、これ以上考えても答えはでない。これ以上……考えても。
「早起きですね」
背後からヴァルの声。僕は振り返らずに、空を見たまま問うた。
「ヴァルさんは、どうして……完璧な世界を見たいんですか」
「急ですね」
「ヴァルさんの事を……もっと知りたいなと思ったんです」
ヴァルは少しだけ黙る。白い雲がゆっくり動く。
「その理由は、私の内面に深くかかわっている物です。まだ、教えることはできません」
「まだ……?」
「三、あなたが約束をちゃんと守り、月が見えるまで働くことができた時」
ヴァルが僕の前に出て振り返る。目が合う。
「その時は、話してあげますよ」
「……そうですか」
ヴァルが少し上を向く。空を見ているわけではない。ただ、何かを思い出すような仕草だった。
「私の事を知りたい。ですか……」
ヴァルは続ける。
「……三、練習しましょうか」
「練習? ……何の?」
「【完璧な世界】に行けた時の練習、ですよ」
ヴァルは優しく微笑んだ。
「私が最初にしたお願いを、三は覚えていますか?」
「えっと……確か、完璧な世界の景色を伝えるって……」
「そう。今からあなたの姿を言葉で、教えてほしいのです」
「僕の、姿……」
自分の体を見下ろす。いつも通りの服。いつも通りの手。
何と言葉にしたらいいのか……
「三、あなたはまだ、見えるものを情報として見れていません。ただの景色になってしまっています」
「……」
「景色を咀嚼し、情報とする。これ真の”見る”」
風が吹く。ヴァルは軽く帽子を押さえる。
僕はつばを飲み込み、次の言葉を待つ。
「……まぁ、今日のところはここまでにしましょう」
「え?」
「働く時間です」
その言葉で気づく。遠くで鐘の音。
「今日は私も付いて行かないので……約束、守ってくださいね」
食事処・柳の前で足が止まる。
——三、あなたが約束をちゃんと守り、月が見えるまで働くことができた時、話してあげますよ。
ヴァルの声が、頭の奥で反響する。
……秘密を知るために働く。そんな目標ができた。
少し、足取りが軽くなった。
僕は深く息を吸い、引き戸に手をかけた。営業時間ではないのか、まだ列はできていない。
引き戸を開ける。
そこに居たのは、お婆さんと——少女。
少女は椅子に座り、足をぶらぶらさせている。
「あの……」
少女がこちらを向く。
「あんた、誰?」




