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つき求め!  作者: kar777
一章:空を彩るもの

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第6話 自分勝手②

 朝、鳥のさえずりが廃屋に響いていた。その静けさの中で、僕は口を開いた。

「ヴァルさん、お願いがあります」

「なんですか?」

「外に行かせてください」


 ヴァルの手が止まる。朝食のサンドイッチを下ろす。

「……昨日の話を忘れましたか?」

「忘れてません」

 ヴァルの顔は曇っている。

 一週間の謹慎期間。それは分かってる。

「……夕べ、考えてたんです。ヴァルさんとの約束の事」

 ヴァルは黙ってこちらを見つめる。目を逸らすことなく僕は続ける。

「空について話さないこと、ゴーグルをかけること。これは理解できました」

 要は、僕たちが化け物だと思われないための配慮・手段。

 でも、ヴァルはあの時、もう一つ言った。

「”働くこと”……ここに引っ掛かったんです」


「だって、この世界の人とは関わらないことが一番じゃないですか。なのに、働くと?」

 廃屋の空気が、少しだけ重くなる。

「最初は、生活のためだと思いましたけど……この食事を見る限り働く必要はなさそうですし」

「……」


 僕がサンドウィッチを小さく振ると、ヴァルはようやく口を開く。

「そうですよ」

「?」

「働いてくださいと言ったのは、生活のためです」

 僕は手に持つサンドウィッチに目を向ける。ヴァルが答える。

「三の部屋にあったお金を少し拝借して買いました。あと一週間くらいなら持つでしょう」

 ……え? 何、勝手に――

 そんな言葉を抑える。僕にそんな言葉を言う資格は、ない。

「……なら、なおさら行かせてください」

「約束は約束です」

 それはそう。ぐうの音も出ない。

 ヴァルはサンドウィッチを食べ終わると、ため息をつきながら立ち上がる。

「なぜ外に出たいのですか? 理由はまだ聞いてませんでしたよね」

「……あの、お婆さんです」


「お婆さん?」

「あの、僕がつきについて話した人です」

 僕がそう補足すると、ヴァルは頷いた。

「あぁ……で、その人がどうしたんです?」

「泣いていたんです。いや、正確には涙声なんですけど……”つき”という言葉に反応したんです」

「……」

「つきを見ることができない、知らないはずのこの世界で。反応したんです……僕は、その理由が知りたいんです」

 ヴァルはしばらく黙っていた。廃屋の空気が、朝なのに少し冷たく感じる。

「……危険です」

「分かってます」

「今じゃないといけない理由もありません」

「いや……今、なんです」

 めちゃくちゃな言動を自覚しながら。僕は息を吸い、言葉を吐く。

「もし、お婆さんが引っ越してしまったら? もし……死んでしまったら?」

「荒唐無稽な話ですね」

「もう……後悔したくないんです」

 ……分かってる。また僕は、自分勝手に意思を通そうとしてる。

「ヴァルさんも、同行してくれますか。ヴァルさんが危険だと思ったら、僕もすぐに引き返します」

「……いいでしょう」

「あ、ありが」「ただし! 私が危険だと思ったら、引き返すのはここではありません。……あなたの家です」

「!」

「私の身すらも危険にさらすのです。当然ですよね?」

 その言葉に僕は救われていた。僕の軽率な行動に罰を与えてくれた、その言葉に。

 僕は強く頷き、サンドウィッチをかぶりついた。

 お婆さんは、”何か”を知っている。そんな自分の考えを信じて。


 町はすでに動き始めていた。昨日よりもずっと人の気配が濃い。足音、話し声、食器の触れ合う音が、大きく響いて聞こえる。

 僕はヴァルの背中を追いながら、胸の奥の緊張を押し殺す。

 角を曲がると、空気が一気に変わった。

 人だ。人、人、人。

 長蛇の列が奥の方まで続いている。

「なにこれ……」

 ヴァルは答えずその行列の横を進む。

 いい匂いが漂う。湯気の混じった、やわらかい香り。

 僕は思わず目をつぶった。

 ……味噌汁の匂いだ。


 その瞬間、僕は、すでに止まっていたヴァルの背中にぶつかり、尻もちをついた。

 目を開け、見上げる。

 列の根っこには……お婆さんの家があった。

 昨日は気づかなかったが、看板が垂れ下がっている。古い木に、ゆっくりと刻まれた文字。

 ——柳 食事処

 



人はそんな簡単に変われない

ヘイト溜まりそうだけど……離脱しないで~(泣)

こっから面白くなるから! ね?

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