第4話 反逆
空を見上げた。より一層赤く染まっている。
……空を見る。その行為は、この目のない世界では起きえない“異常”……だと思っていた。
足音がやけに反響する道を歩き、僕が立てた一つの仮説。
——この世界の住人は、耳で“見ている”。コウモリのように、反響で世界を形づくっているのだと。
だが。
視線を下ろす。やはり目のない顔で、まっすぐ空を”見ている”。
いや……見えもしない空を、ただ見上げているのか? でもそれだと――
「そこにいるのは、誰だい?」
後ずさった僕を追うように、老婆の顔がわずかに傾いた。
「ここらの人じゃ……ないね」
「す、すみません」
「……少し驚いただけだ、気にせんでいい」
老婆はふうっと息を吐き、言葉を継ぐ。
「観光の方かい?」
「まあ……そんなところです」
お婆さんは微笑んだ。
「熱心にこちらを伺っているようだったが、何か気になることでもあったかい?」
——空の話は誰にもしないように
少しのためらい。
だが、尋ねた。
「なぜ空を……」
言葉が詰まる。
「なぜ、空の方を向いているのか、と?」
僕は頷いた。
「そんなの……もちろん、《《祈っていたのさ》》」
「祈っていた……?」
「空に住まう神々に祈る。……それ以外に何をするってんだい」
老婆が笑う。太陽はついに沈もうとしていた。
「空に祈ることが、そんなに不思議かい?」
「えっ、いや」
「それと……その顔についてるのは何だい?」
「……!」
あの時。もう一つ、僕が立てていた仮説がある。
——化け物という言葉の意味。それは、この世界にない器官によって異形の化け物として扱われるという事なのではないか……と。
いつの間にか頬を伝っていた冷汗。お婆さんはこちら向いたまま動かない。僕の言葉を待っている。
いや、僕の仮説が正しければこれは……見定めているのだ。僕が、”化け物”か否か。
ゆっくりと息を吸い、汗をぬぐって……自然に朗らかに。
「これですか? おしゃれです」
空気がピンと張りつめる。
いや、僕だけがそう感じているだけかもしれないが。
「……そうかい。よく、似合っているよ」
「あ、ありがとうございます。では、僕はもう行かないと」
道をまた歩き出す。走り出したい気持ちを抑えて。
「どうして、ここに来たんだい」
老婆の声は、逃げ道を塞ぐように落ちてきた。見ると、いつの間にか目の前に、目のない顔。
やばい! 誤魔化さないと……何とか隙を見て逃げ出さないと……!
その時、轟音が鳴った。
ヴァルが言っていた、位鐘の音だ。不安が、吹き飛んだ。
「答えられないのかい?」
――私たちは、化け物ですから
……何故だろう。ふつふつと怒りが湧き上がってくる。
働く? ゴーグル? ……冗談じゃない。知るか。
僕はお婆さんから目を逸らさずに、空をびしりと指さした。
「いいや、答えるさ」
胸の奥から、何かが突き上げる。
「僕は、つきを見るため……」
声が震える。でも止まらない。
「つきを求めて! ここに来た‼」




