第12話 また来ます
「それは、なんだ?」
勘ぐられている。疑われている。僕の正体が、この世界での罪が、バレようとしている……!
「……え?」
なのに、弱々しい言葉しか出てこない。まだ数秒も経ってないだろうに、繰り返していた浅い呼吸。
「だから、それは何かと――」
真ん中にいた男が、まだ喋ろうとしている女性の肩を叩く。すぐに女性は黙り込む。
男は一歩踏み出して、軽く会釈した。
「突然尋ねてしまって、申し訳ありません」
穏やかな声だった。なのに、怖い。
「私は、無向教、教祖の白井無雲と申します」
男の口角が上がる。
店の空気が、また一段と重くなった。
僕は一歩、後ろに下がる。男……いや、白井も一歩、歩を進める。
「あなたのお名前も、聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「……三です」
「では、三さん。もう一度訪ねても?」
「どうして、ですか?」
白井は少しだけ首を傾げた。
「どうして、とは?」
僕はゴーグルを指さした。
「どうして、これがそんなに気になるのかなぁ……って」
「……なるほど」
白井は、納得したように頷く。
「正直に言いますと、あなたに”め”があるのでは? と、疑っているのですよ」
まずい。もう、ほぼバレてるようなものだ。どうにか……この場を乗り切れなければ!
けど、どうやって?
震える手。胸の奥がゾクゾクとして、唾液を飲み込む音が嫌に大きく聞こえる。
……いや! まだ、ある!
今の段階で、求められてるのは”ゴーグルの説明”だ。まだ、”ゴーグルを外すこと”じゃない。
つまり、今。僕がこのゴーグルの完璧な説明をすれば、ゴーグルを外すことを求められない……かもしれない。
僕は思考をまとめて、前を向く。
「
口を開いた、その瞬間。
僕よりも先に、男は言葉を吐いた。
「なので、そのゴーグルを外していただけますか?」
その時感じたのは、急に支えにしていたものが崩れ去ったような、寝ている時に突如感じる嫌な浮遊感のような……絶望。
白井は笑っている。相変わらず、穏やかな笑顔だった。
でも。僕は、その笑顔が――
僕はゴーグルを押さえた。
「……すみません。それは、できません」
「何故?」
もう、だめだ。
また、ヴァルさんに迷惑をかける。
……いや、そんな程度で済むのか?
正体がバレたら、僕は……捕まって、そのあと……
……死ぬ?
こんな時だけ加速する思考のせいで、言葉は詰まったまま。
どうすれば……!
「それが、外せないからだよ」
……え?
僕の後ろから声がした。聞き覚えのない、男の声が。
振り返ると、やはり知らない人が立っている。
「……外せない?」
白井が尋ねる。
「ああ」
男は短く答えた。
「それは、俺が作ったんだ」
「……あなたが?」
「そうだ」
僕は思わず男を見る。理由は分からないが、庇ってくれている。
……なんで?
「なるほど」
白井は男を見つめる。
「では、なぜ外せないのでしょう?」
「訳あってな」
「その、”訳”を聞いているのですが……?」
「それは、言えない!」
「……は?」
……なんなんだ、この人。
助けてもらっているのは分かっている。でも、その助け方が……雑すぎる。
だけど、今は、その嘘に乗るしかない。
「……そういうことです」
少しして、白井はため息をついた。
「どうやらもう、食事をできる雰囲気ではなくなってしまいましたね」
そうして踵を返して、外に出た。
「また来ます。三さん」
その言葉を残して。




