第13話 鈴、発明家
白井たちの姿が見えなくなった。店の中には、まだ重たい空気が残っている。
「……あの」
僕は、後ろにいる男へ振り返った。
「助けてくれて、ありがとうございます」
こう言ってしまうと、僕に目があると認めたことになるのでは? ……言ってから、そう思った。
……いや、客の反応から見てそんなことはないか。お客さんの顔は未だに……目がなくともわかるほど恐怖していた。
目をまた男に向ける。
「え?」
男はさっきの堂々とした態度はどこへやら、とても……おどおどしていた。
「いや……はい」
それだけ言うと、男は僕の横を抜けそのまま店の外へ出て行った。
……なんだったんだ、あの人。感謝をされたとたんに、あんなにおどおどして……いや、《《怯えているよう》》に見えた。
……なんで?
開けっ放しの引き戸の向こうをぼんやりと見ながら、僕は考え込んだ。
「あいつと面識があったのか」
後ろから、渚さんの声がした。
「え? ……いえ。初対面です」
またも言ってから、知り合いということにしておいた方が良かったかもしれないと思った。
だけど今度はすぐに、思い直した。あの人について知れるチャンスだと。
……僕を助けてくれた、恩人について。
「渚さんは……あの人の事を知ってるんですか? もしよかったら、教えてくれませんか?」
渚さんは小さく舌打ちして、言葉を吐いた。
「……あいつは、灰原 透。この店の常連客」
渚さんは、少しだけ眉を寄せる。
「あいつ、発明家なんだ」
「……あぁ、だから”俺が作った”って……」
「そうだな」
渚さんは、そう言って少し黙った。
「……悔しいけれど」
見ると強く拳が握られている。
「あたしたちは、あいつに助けられたんだ……」
「? ”あたしたち”って……」
「あいつが割って入ってなきゃ」
渚さんは、店の中を見回した。
「おばあちゃんも、みんな……ただじゃすまなかった」
「……僕に”目”なんて――」「だとしてもだ」
……瞬間、浮かんだ最悪。背中に、冷たくなった汗が伝う。
白井無雲……いや、無向教は、それほどまでに……
店はいつもよりずっと早く閉めることになった。まだ、空は白くない。
こんな時間に仕事から帰るのは、この世界では初めてかもしれない。
「……」
僕は歩く。幾度も後ろを振り返りながら。
……何度も、遠くから鈴の音が鳴った気がした。




