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つき求め!  作者: kar777
一章:空を彩るもの

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第11話 白い来訪者

「ただいま……」

 未だに言い慣れない言葉。そして、久しぶりに言った言葉だった。

 靴を履いたまま廃屋の中に足を踏み入れる。

「おかえりなさい」

 ヴァルの声が響く。

 荷物を置き、壁際に腰を下ろす。しばらく、何をするでもなく黙っていた。

 今日のことを話そうと思った。

 店のこと。渚さんのこと。そして――お婆さんのこと。

 けれど、どれも口から出てこなかった。

「ヴァルさん」

「はい」

「今朝の練習のやつ、今ならできる気がします」

「……」

 ヴァルは、どうぞという仕草をした。

「背は低めで、髪は……黒です。服はTシャツが無地の灰色で、ズボンが無地の緑色です。顔は……年齢よりも老けて見えると思います」

「……見えてきましたね」

 ……きっと、ヴァルは今、お婆さんと同じように……僕を想像してるのだろう。描いているのだろう。

 でもそれは……僕ではない。いや、それでもいいのだ。

 チクリと、心が痛んだ。僕は心のなかでヴァルに謝罪した。

 ごめんなさい、ヴァルさん。いつか――


「三、これ」

 寝ようとしていた僕に、ヴァルが手渡したもの。

 歯ブラシ、汗拭きシート、消臭剤。

「この世界ではこれで生活してください」

 ヴァルはそう付け加えた。

 まぁ、しょうがない。この廃屋じゃ、水道も通っていないだろう。この世界にあるかは知らないが、銭湯にも行けない。

 ……もしかして、ヴァルがこの世界に行くとなり、嫌そうな顔した理由って、これもあったんじゃ――

「ヴァルさん」

「……」

「すみません」

 ヴァルは、何も答えなかった。姿が見えないので、もう寝ていたのかもしれない。

 もう一度、ヴァルから渡されたものを眺めた。

 ……これ、遠回しに臭いと言われているのでは……?



 翌朝、店の中。

 僕は大きなあくびをした。寝不足だ。昨日は全然寝付けなかった。

「おい!」

 渚さんの怒号に、ハッとする。昨日とは違い、がやがやとしている店内。

 手を上げている客が複数。遠くで聞こえるお婆さんの声。

 厨房へ向かって、料理を受け取り、ホールへ向かう。

 ガシャン!

 ……やってしまった。転んでしまった。

 体よりも、渚さんの視線が痛い。

「し、失礼しました!」

 急いで拾おうとする僕の背中に、置かれた手。渚さんだった。

「片づけはあたしがやる。あんたは、早くホールに」

「あ、ありが」「いいから、早く!」

 いつもの怒鳴り声。なのに、不思議と嫌な感じはしなかった。

 僕はホールへ向かった。


 ホールに一歩、足を踏み入れる。

「……」

 何かがおかしい。

 豪快にそばをすすっていた客も、注文を急かしていた客も……静かになっている。

 あれほど騒がしかった店内が、静まり返っている。昨日の沈黙とはどこか違う。

 何かに……怯えている?

 その時、どこかから。チリンと鈴の音。

 チリン。

 今度は、引き戸の向こうで鈴が鳴った。

 恐る恐る、引き戸を開けると――

 行列がない。いつもなら引き戸の外まで並んでいる人たちが、一人も。代わりに……白い奇妙な服を身を包んだ人間が、三人。そこに立っていた。


 この世界の人々の服装は皆、地味だった。布地の色というのだろうか。全員、ベージュがかった色の服で、この世界の人は色にこだわらないのだと、思っていた。

 だからこそ、異様。

 目の前にいる、白い奇妙な服の人間たちが。

 だけれども、客だ。

「いらっしゃいませ!」

 大きな声で話すも、反応はない。

 三人とも、まるで僕の声が聞こえていないかのように動かなかった。

 ホールに居る客は依然として静か。そんな中ようやく、奇妙な服の一人が動き出す。

 僕の目の前。指をさした。少しして、ゴーグルを指さしているのだと理解した。

「それは、なんだ?」

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