復讐
一か月後。
王都の中央広場でクラウディア様の処刑が行われることとなった。
すでに処刑のための断頭台が設置され、高く吊られた刃は太陽に照らされ冷たく光っている。
断頭台から少し離れた場所には、王太子と私のための観覧席が設けられている。
白い布で覆われた天幕と金の装飾が施された椅子は、処刑台の無機質さと対照的で場違いに見えた。
王太子の性格から公開処刑にするかもしれないと予想はしていたが、まさか、本当にそうするとは思っていなかった。
なんと趣味の悪いことだろうか…。
目隠しをされ、兵士に連れられたクラウディア様の顔からは何の感情も読み取れなかった。
あの行動は想定外だったが、愛し合っていたと信じていたとしたなら、彼女の気持ちもわかる気がする。
何事が始まるのかと、中央広場には多くの群衆が集まっている。
群衆たちは、この処刑を平然として見ていられるのだろうか。
後悔しているわけではないが、私には無理そうだった…。
「どうした。リリアーナ?緊張しているのか?」
「いえ、人の死を見るのはやはり、あの…あまり気分がいいものではなくて…」
「ふふ、いかにも聖女らしい言葉だな。反逆者であり、実際に俺に刃を向けた不届きものなのだ。何を気にする必要がある。だが、もし気分がすぐれないようであれば…」
「い、いえ大丈夫です。私も殿下の傍にいます」
薄気味悪い蛙を見るような目で思わずフェルディナンドを見ながら声を絞り出したが、気づかれなかったようだ。
「強情なやつだな…」
何を勘違いしたのかはわからないが、私に向かって軽く笑みを浮かべた後、すぐに真顔になって処刑台に視線を向ける。
そのまま、兵士に合図を送ると、兵士がクラウディア様の罪状を声高に叫んだ。
群衆にざわめきが広がっていく。
それはそうだろう。王都の民は仲睦まじい二人だと思っていたのだ。
突然、彼女は国家転覆を計り、王太子の命を狙ったとんでもない悪女で、処刑すると言い出したわけなのだから。
群衆が静まるのをしばらく待ってから、フェルディナンドは大げさに頷くと、それを見た兵士が刃を止めていたロープを切断する。
処刑台に落ちる刃の音は、驚くほど軽かった。
観衆から悲鳴が上がる。
その瞬間を私は見ることができなかった。
いや、今も見ることはできない。
兵士が何かを叫び、群衆から歓声が上がる。
なぜ歓声が上がるのか、全く理解できないが群衆から目を背けるように私はフェルディナンドを見つめた。
これで終わりではない。
私の復讐はまだ終わっていない。
フェルディナンドと決着を付けねばならない。
あの日誓ったように…。
王太子は満足げな顔で私に笑顔を向け、「これで全てが終わったな…」とつぶやいた。
ゆっくりと私は立ち上がり、彼の隣に歩み寄る。
「フェルディナンド殿下。お伝えしなければならないことがあります」
「どうした、リリアーナ。顔色が悪いぞ。やはり無理をさせたか?」
私は首を横に振った。
「それより殿下…。ご自身に罪の意識はありますか?」
王太子は怪訝そうに眉を寄せた。
「王太子殿下が冤罪をなすりつけた上に、衝動的に殿下を刺してしまったとは言え、聖女を処刑してしまったんですよ?とんでもないことですわ。きっと責任を問われると思います」
「何を言っているんだ。俺は聖女を処刑などしていないぞ?聖女は、今、私の目の前にいるではないか」
「私ですか?ごめんなさい、フェルディナンド殿下。私は聖女ではありません」
全く意味が分からないと言った様子で、王太子は徐々にいら立ってきている。
あからさまに不機嫌な顔をしていた。
「くだらん冗談に付き合っている暇はないぞ?お前が聖女でないなら、いったいなんだというのだ?」
「私は悪役…令嬢なのです…。王太子を唆し、無実の聖女を処刑させた悪い女なのです」
「は、何をとぼけたことを…。教会に聖女だと認定されたのはリリアーナ、お前ではないか。クラウディアには聖女の資質はなかった。それに彼女は無実ではない。いくつもの証拠がある。何より王太子を刺したことは事実なのだ」
「ええ、そういうことになっておりますね。殿下には、そうお伝えするように指示していましたから…」
「どういうことだ?返事次第では、お前とてただではすまぬぞ?」
フェルディナンドが腰の剣に手をかける。
「怖いですわ、フェルディナンド殿下」
私は顔に手をあて、わざとうろたえてか弱い乙女を演じる。
もちろん、挑発しているのだ。このバカ王太子を。
「これは復讐なのです」
「復讐?復讐なぞされる覚えはないぞ?」
「五年前の復讐、と言えば殿下にも覚えがあるはず。あの時、エーデルシュタイン侯爵家と王太子殿下は、敵対する第二王子レオンティウス派の貴族を冤罪で次々と処刑しましたね。私の両親もその時に処刑されたのです。」
そこまで説明して、ようやく理解しはじめたようだった。
「なんだと?貴様…まさか…」
「ええ、リリアーナという女性は存在しません。ここにいるのは、冤罪で処刑されたヴァイスハルデ侯爵家の娘のリディアです」
立ち上がろうとする殿下を手で制した。
まだ話は終わっていない。
「五年という月日は長かった…。当時は第二王子レオン様の行方もわからず、両親も処刑され、残された私は途方にくれました。殿下に復讐することだけが私の生き甲斐だったのです」
「まさか、王家転覆を狙っていたのはお前だったということか?」
フェルディナンドの顔がこれ以上ないくらいに激昂していく。
「もちろん、私一人で復讐などできません。しかし、殿下に恨みを持ついろんな方々の協力があったのです。もう今は殿下に味方してくれる貴族は残っていませんよ?殿下自らが処刑したのですから…。そして、殿下は、聖女に国家反逆罪の罪を着せて処刑したという不名誉な罪で裁かれることになります」
「そんなバカなことがあるか!」
そう叫ぶと同時に、ついにフェルディナンドは剣を抜き立ち上がった。
そして、上段から私の体を袈裟懸けに切り下した。
やはり、バカは挑発するに限る…。
私は笑みを浮かべた。
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