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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第100話 蒼火拡張

 色々と苦労している容子(まさこ)です。


 セーブとロードは神の恩寵やと思う。


 やり直しが利く世界なら、どれだけ楽か。


 けれど現実は一発勝負。


 だからこそ、動く。



 スラム街で炊き出しを続けながら、怪我人と病人を治療していると、拝まれた。


 両手を合わせ、涙目で。


「やめてやめて。拝むなら太陽の女神天照大神(あまてらすおおみかみ)でも拝んで」


 そう言えば、本当に太陽を拝み出した。


 ……素直すぎへん?


 炊き出しの横では治療班が並行稼働。


 治った者が次の患者を連れてくる。


 即席の救護所や。


 生活魔法が使える者には湯を出させ、アイテムボックスから清潔な布を出す。


 軽症は洗浄と薬。


 重症はポーションとヒール。


 サクラのヒールが冴え渡る。


 即席ながら、機能している。



「教会は頼りにならんのか?」


 手伝いのおっさんに聞くと、鼻で笑われた。


「スラムの民に慈悲を与える資格はないってよ」


 ……馬鹿か。


 その瞬間、私は理解した。


 ここはこの国最大級のスラム。


 これを放置している時点で、国は傾きかけている。


 そして教会は腐っている。


 あの出来損ない僧侶が生まれる土壌が、よく分かった。


 これは宥子(ひろこ)に報告せなあかん。


 経済だけやない。


 政治と宗教も絡む。



「嬢ちゃん、終わりましたぜ!」


「お疲れさん。これ飲んで休憩し」


 蜂蜜入りの温かい牛乳。


「ウメー!」


 笑顔。


「手ぇ空いてたら私の家来いや。仕事斡旋したる。肉体労働やけどな」


 三食付き。


 住み込み可。


 安い。


 でも今は安定が大事。


 不満が爆発する前に、ガス抜き。


 媚びではない。


 予防や。



 そこへ現れたのが、あの少年。


「病人と怪我人がいる。来られるか?」


「ええで」


 即答。


 胡散臭い目。


 気にせん。


 私はキャロルに現場を任せ、イスハパンを残し、布と薬を持って移動。



 道中。


「あんた、お嬢様じゃねぇだろ」


「失礼やな!貴族の令嬢かもしれへんやろ!」


「絶対ない。品がない」


 ムカつく。


 けど事実は置いとく。


「労働力確保や。姉が会社立ち上げたしな」


 少年は黙る。



 廃教会。


 入った瞬間、子ども達に襲われた。


 甘い。


 手加減して制圧。


「善人やと思った?」


 ニッコリ。


 少年が降参。


「俺の命をやる。他は許してくれ」


「病人どこ?」


 ポカーン。


 私は本気で治療開始。


 温湯で拭き、ヒール、薬。


 元気な子には生活魔法の確認。


 少年が使える。


 指示を出す。


 回る。



 一段落後。


「危ないと分かって来た理由は?」


「一つ、慈善。二つ、勝てる自信。三つ、労働力と情報」


 直球。


「君はまとめ役やな?」


「そうだ」


「丸ごと面倒見る。衣食住保証。情報と人脈貸して」


 疑心暗鬼。


「書面契約も可能やで」


 ぽかん顔。


 可愛い。



 結果。


 子ども二十一名。


 姉に内緒で館購入。


 曰く付き格安物件。


 掃除。


 寝床確保。


 風呂。


 飯。


 教育計画。


 スキル精査。


 青田買い成功。



 だが、問題は別方向から芽吹く。


 数日後。


 スラムで囁きが広がった。


「太陽の巫女が現れた」


「触れれば治る」


「食を与える慈母」


 やめろ。


 私は念話で叫ぶ。


『姉、変な噂立ってる』


『内容は?』


『太陽の使徒』


 沈黙。


『……火種やな』


 宥子(ひろこ)の声は冷静。


『放置は危険。利用も危険』


 そう。


 信仰は力になる。


 だが暴走すれば刃。



 館に集めた子ども達が、私を見上げる。


「姉ちゃん、神様なん?」


「違うわ」


 即答。


「働かせる鬼や」


 笑いが起きる。


 安心した顔。


 これでええ。



 だが外では違う。


 教会が動き始めた。


 炊き出し。


 治療。


 無償奉仕。


 そして“太陽”。


 自分達の権威を脅かす存在。


 潰すか、取り込むか。


 選択は近い。



 私は夜空を見る。


 太陽は沈んでいる。


 神でも巫女でもない。


 ただの現実主義者や。


 けれど火は広がる。


 炊き出しから始まった炎が。


 労働力確保のつもりが。


 いつの間にか思想に触れている。


「……面倒やな」


 でも止めへん。


 子ども二十一名。


 未来二十一通り。


 私は館の灯りを見上げる。


 蒼い火は、まだ小さい。


 けれど確実に燃え始めている。


 炊き出しは慈善。


 だがその余波は、宗教と政治を揺らす種になる。


 その事実を、私はまだ軽く見ていたのかもしれない。

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