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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第101話 日輪帰依

 夜明け前。


 東の空が群青から朱へと滲む時間、館の屋上には二十一人の子ども達が並んでいた。


 私は欠伸を噛み殺しながら、その後ろに立つ。


「強制ちゃうからな。眠い奴は寝ててええ」


 それでも全員起きている。


 寒いのに。


 息が白い。


 やがて、太陽が昇る。


 赤い光が街の屋根を照らし、スラムの廃墟をも、商人街の石畳をも、平等に染める。


「……光、来たな」


 誰かが呟く。


 その瞬間、自然と声が揃った。


天照大神(あまてらすおおみかみ)様、今日も働きます」


 私は目を細めた。


 命令していない。


 教えを叩き込んでもいない。


 けれど“感謝の対象”が名を持った瞬間、人は祈りを覚える。


 宥子(ひろこ)が背後から言う。


「ここからやな」


 布教活動は、静かに始まった。



◆布教の方針


 私達は三つの柱を決めた。


一、押し付けない

二、救済は労働と共に

三、物語で伝える


「宗教色を濃くしすぎたら反発が来る」


 アンナが冷静に言う。


「でも、名前は広げます。“太陽”ではなく“天照大神(あまてらすおおみかみ)”を」


 名は力や。


 抽象より具体。


 信仰の核は、物語と象徴。



◆第一段階:物語の巡回


 私はスラムを回る。


 炊き出しの前に、子ども達へ語る。


 天岩戸の話。


 太陽が隠れ、世界が闇に包まれた話。


 八百万の神々が笑い、踊り、光を取り戻した話。


「闇に籠るな。笑え。外に出ろ」


 それが教えや。


 説教ではない。


 物語。


 だが繰り返すうちに、名は染み込む。


天照大神(あまてらすおおみかみ)様は、怒りで世界を焼かへん。隠れても、また出てくる」


 希望の象徴。



◆第二段階:儀式の簡素化


 教会は荘厳な儀式を持つ。


 だからこそ敷居が高い。


 私達は逆を行く。


 朝日を浴び、三呼吸。


 感謝を一言。


 それだけ。


「難しい言葉はいらん」


 宥子(ひろこ)は言う。


「働く前に空を見上げる。それで十分や」


 簡単だから広がる。


 屋上から、路地へ。


 路地から、市場へ。


 市場から、工房へ。



◆第三段階:組織化


「布教班、作るで」


 私が宣言すると、子ども達が目を丸くした。


「え、俺らが?」


「せや。お前らが語れ」


 自分の言葉で語る者は強い。


 救われた者が語る物語は、何よりの説得力や。


 二十一人を三班に分ける。


 炊き出し班。


 物語班。


 広報班。


 アンナは小冊子を制作した。


 題名は『日輪の笑み』。


 内容は神話と実例。


 “働き、食べ、感謝する”生活信仰。



◆対抗勢力の動き


 サイエスの女神教会は、当然動く。


「異界神を持ち込むとは何事か」


 使者が再び来る。


「持ち込んでへんで?」


 私は笑う。


「太陽は元からある」


 宥子(ひろこ)が続ける。


「我々は救済を行動で示しています。否定なさいますか?」


 彼らは強く出られない。


 否定すれば、民衆の支持を失う。



◆信仰の深化


 館に小さな祭壇が置かれた。


 豪華ではない。


 丸い鏡。


 白布。


 榊代わりの枝。


「鏡は自分を見るためや」


 私は子ども達に言う。


天照大神(あまてらすおおみかみ)は、外やなく中にもおる」


 神を外在化しすぎない。


 内面化する。


 それが長続きする秘訣や。



◆市井への浸透


 市場で、職人が朝日を拝む。


 パン屋の娘が「日輪の加護を」と笑う。


 Cremaの新商品には太陽紋。


 売上の一部は孤児院へ。


 信仰と経済が循環する。


 強制ではない。


 だが、広がる。



◆布教宣言


 ある日、私は広場に立った。


「聞け!」


 ざわめき。


「私らは宗教団体ちゃう。だが、信じたい者は信じればええ」


 視線が集まる。


「闇に閉じこもるな。笑え。働け。そして空を見ろ」


 指を空へ。


「光の名は天照大神(あまてらすおおみかみ)や」


 静寂。


 やがて拍手。


 小さな拍手。


 それが波になる。



◆未来への火種


 夜。


 屋上。


「やり過ぎちゃう?」


 私が呟く。


「やり過ぎたら調整する」


 宥子(ひろこ)は即答。


「でもな、名を持たん思想は弱い」


 確かに。


 太陽は普遍。


 だが名を持った瞬間、物語を纏う。


 物語は人を動かす。



 こうして布教活動は本格化した。


 炊き出しは入口。


 物語は道。


 朝日は儀式。


 名は核。


 サイエスの召喚女神の勢力は、否定されることなく、静かに中心を削られていく。


 唯一の光から、数ある光の一つへ。


 その中で、天照大神(あまてらすおおみかみ)の名は、確実に根を張る。


 強制はない。


 剣もない。


 だが信仰は広がる。


 朝日が昇るたびに。


 誰かが空を見上げるたびに。


 日輪の布教は、静かに、そして確実に進んでいくのだった。

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