第99話 双炎拡大
こんにちは、炊き出し部隊を半ば強引に結成した容子です。
姉――宥子には「計画性を持て」と何度も言われているけれど、走りながら整えるのが私の流儀や。
現在の布陣はこう。
貧民街担当は私、ジョン、イスハパン。
一応ルーシーとキャロルのボディガード(笑)という名目。
実態は揉め事処理班や。
一般層の炊き出しはアンナ指揮。
何かあれば念話で即合流。
盤面は整っている。
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◆貧民街――容子
炊き出しはゴミ回収と交換。
働いた対価としての配布。
施しではなく、循環。
だから秩序が保たれる。
それでも秩序を乱す者は出る。
「……おい、横入りだ」
ジョンが低く呟く。
薄汚れた男が列を無視して前へ出る。
「腹減ってんだよ!」
「皆減っとるわ」
私は肩を掴んで路地へ引く。
短い説教。
理解しないなら、もう少し強めの説教。
戻ってきた男は静かに列の最後尾へ並んだ。
ルールは守らせる。
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「でも、食事が回ってない所もあるみたい……」
ルーシーの言葉に、私は鍋を覗いた。
「残り三分の一か。移動や」
「ここから?」
ジョンが眉を上げる。
「来られへん奴のとこへ行く。それが慈善や」
屋台を押して路地奥へ。
湿気と咳。
寝込んだ老人。
熱を出す子ども。
軽いヒール。
宥子印のポーション。
そして温かいスープ。
食べ終えた後の顔は、どれも穏やかや。
ついでに聞く。
この街の力関係。
腕の立つ者。
手先の器用な子。
将来使える芽。
私は種を拾っている。
姉にはまだ言わへん。
家を買う計画も。
子どもを住まわせる未来も。
まだ内緒や。
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◆一般層――アンナ
「回転率を維持します」
「はい!」
整然と並ぶ客。
クラムチャウダーカレー味は評判上々。
焼き印入りの食べられるカップ。
限定スプーン。
予想通り、限定品が牽引している。
「レシピの問い合わせも増えています」
計算は順調。
だが。
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昼下がり。
空気が変わった。
見慣れた影。
バルド達や。
腕を組み、堂々と列を無視してこちらへ来る。
「よぉ、繁盛してるな」
バルドが笑う。
「お並び下さい」
私は微笑んだまま告げる。
「俺達は客じゃねぇ。仲間だろ?」
「その認識はございません」
ガルガが鼻で笑う。
「レシピよこせよ。どうせ俺達が広めてやるんだ」
「限定スプーンもまとめてな」
リリアナが言う。
くれくれ。
予想通り。
「対価をお支払い頂ければ」
私は淡々と返す。
「金は払わねぇ。協力してやるって言ってんだ」
「不要です」
即答。
周囲の空気が張り詰める。
「俺達を敵に回す気か?」
「商売は対等です」
私は一歩も引かない。
「無料提供はいたしません。列へお並び下さい。お一人様一杯まで」
沈黙。
バルドの目が細まる。
だが――
周囲の客が見ている。
ここで暴れれば評判は地に落ちるのは向こうも同じ。
「……ちっ」
舌打ち。
だが列の最後尾へ向かう。
ガルガは不満げ。
リリアナはスプーンを睨む。
それでも並んだ。
ルールは守らせた。
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だが、それで終わらない。
受け取った後。
「もう一杯よこせ」
「限定品を人数分出せ」
再びくれくれ。
「規則です」
私は笑顔を崩さない。
「規則を守れない方には、次回以降のご利用をお断りします」
静かに釘を刺す。
周囲がざわつく。
選ぶのは私達。
媚びない。
宥子の方針。
「……覚えとけよ」
バルドが低く言う。
「勿論です。お名前は既に記録済みですので」
営業用の微笑み。
完全勝利とは言わない。
だが一歩も譲らなかった。
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◆夜
報告。
「バルド達が来ました」
宥子は苦笑する。
「やっぱりな」
「無料提供は拒否。規則遵守を徹底しました」
「正解や」
「貧民街は?」
「容子様が動き回っているようです」
姉は小さく笑う。
「あれは芽を拾っとる」
信頼。
放任ではない。
理解や。
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貧民街で灯る火。
一般層で回る金。
そして外から迫る圧。
双炎は拡大する。
制御できるか。
燃え広がるか。
遠くで念話が弾ける。
『姉ぇ!面白い子見つけたで!』
「今は報告だけにしとけ」
静かな夜。
だが確実に波は広がっている。
炊き出しは、ただの食事配布ではない。
人を選び、縁を選び、敵も生む。
それでも。
火は消さない。
双炎は、まだ揺らめきながら燃えている。




