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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第98話 姉妹采配

 ――炊き出し企画をアンナに乗っ取られた容子(まさこ)です。


 ええ、間違ってません。


 最初に「やる!」と言うたんは私やのに、気づけば全体指揮はアンナ。


 私は現場監督兼雑用係。


 解せぬ。


 とはいえ方針は決まった。


 貧民層はスラム街の清掃労働と引き換えに無料配布。


 一般層は低価格での販売。


 当初は完全無料の予定やった。


 けど、宥子(ひろこ)がきっぱり止めた。


「無料にしたら宗教団体が寄付金名目で絡んでくる。善意を食い物にする連中はどこにでもおる」


 その一言で方向転換。


 一般層には“少額負担”。


 値段をつけることで余計な干渉を避ける。


 商売として成立させる。


 さすが姉。


 現実的や。



「男衆は材料集めやろ? うちらは料理教室やで!」


 私はダイニングに女性陣を集めた。


 長机の上には紙と炭筆。


 今日の議題――炊き出しメニュー。


「温かい汁物はどうでしょう? 野菜たっぷりのシチューが好きです」


 ルーシーが手を挙げる。


「でもガツンと肉も欲しいわ。串焼きとかどう?」


 キャロル。


「変わり種が良いです! 生春巻きとか!」


 マリー。


「クレープなら甘いのも主食も作れるわ♪」


 レナ。


「私達はカレーが良いわ」


「具沢山でライスとナン両方出せるわよ」


 イーリンとヘレン。


 見事にバラバラ。


 私は頭を抱えた。


「統一感どこ行ったん……」


 イザベラ?


 参加させてへん。


 理由は明確。


 料理が兵器になるからや。



「手頃に食べられて、見た目も大事やねん」


 カレーは美味い。


 でも第一印象が泥。


 サイエスの人達は見た目で判断する。


 舌は肥えてきてるけど、先入観は強い。


「器は食べられる仕様にする予定やし、一般層には容子(まさこ)印のスーベニアも付ける」


 アンナが首を傾げる。


「スーベニアとは?」


「おまけや。買ったら付いてくる限定品。今回はスプーンとか小皿とか」


「……限定品」


 アンナの目が光る。


 商人の目や。


「毎回デザイン変更しますか?」


「当然。集めたくなるやろ?」


「良いですね」


 完全にスイッチ入った。



 最終的に決まったのは。


 クラムチャウダーをベースにしたカレー味。


 白い見た目で抵抗感を減らしつつ、香辛料の刺激を残す。


 折衷案。


「これなら初見でも受け入れやすいでしょう」


 アンナが頷く。


「ほな特訓や!」



 厨房は戦場になった。


 寸胴鍋が並び、野菜が刻まれる。


 ヘレンはカップメーカー担当。


 小麦生地を型に押し込み、焼き上げる。


「このカップに容子(まさこ)印入れたいです!」


「焼き鏝作ればいけるけど、そこまで見る?」


「絶対見ます!」


 熱弁。


 押しに負けた。


 焼き鏝制作決定。


 生地に焼き印が浮かび上がる。


 思った以上に格好いい。


「……悪くないな」


「でしょう!」


 ヘレンは満面の笑み。



 次はクッキー。


「プレーンでええやろ?」


「野菜クッキーが良いです」


 パンジーが静かに言う。


「栄養不足の方もいますし」


 優しい。


 私は即決した。


「野菜クッキー採用。デザインとラッピングはパンジーに任せる」


 スマホで画像を見せる。


 目を輝かせるパンジー。


 こういう時間が好きや。



 一方、執務室では。


 宥子(ひろこ)とアンナが別の話をしていた。


「スーベニアは数量限定にします」


「転売対策か?」


「ええ。希少性を持たせます」


「宗教団体の動きは?」


「今のところ無し。ただ監視は続けます」


 冷静な会話。


 私の知らんところで網が張られている。



 数日後、試食会。


 クラムチャウダーカレー味。


 食べられるカップ。


 焼き印入り。


 野菜クッキー。


 全員で試す。


「……いける」


「美味しい!」


 女性陣の笑顔。


 宥子(ひろこ)も一口。


「売れるな」


 その一言で全員が安堵した。


 姉の合格は重い。



 夜。


 後片付けを終え、私は椅子に沈む。


「なぁ姉」


「なんや」


「今回、ちゃんと商売になりそうやな」


「最初からそうせぇ」


 呆れ声。


 でもどこか誇らしげ。


 アンナが静かに言う。


容子(まさこ)様は火を点ける方。宥子(ひろこ)様は方向を決める方。私は形にする方」


 三位一体。


 歯車が回る音が聞こえる気がした。



 炊き出し本番はまだ先。


 だが準備は整った。


 料理。


 器。


 限定品。


 宣伝計画。


 裏の対策。


 全部揃った。


 私は小さく笑う。


「面白なってきたやん」


 宥子(ひろこ)が即座に返す。


「暴走すんなよ」


「せぇへん」


 たぶん。


 厨房にはまだ香りが残る。


 焼き印入りのカップが並ぶ。


 この企画は、単なる炊き出しやない。


 商売であり、布石であり、試金石や。


 そして何より。


 私達のやり方を示す舞台になる。


 火は点いた。


 あとは、どう燃やすかや。

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