表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/115

第96話 蛇騒動

 白朱はくしゅがティムカルテットに加わってからというもの、我が家の空気は明らかに変わった。


 いや、正確には――“運の流れ”が濃くなった。


 白朱はくしゅは幼体だ。


 喋らない。


 念話もしない。


 ただ小さな体で、気になる場所に向かって這い、疲れたら丸くなる。


 それだけや。


 それだけのはずなのに、何かが起きる。


 しかも、かなりの確率で“都合のいい方向”に転ぶ。



 最初の異変は、倉庫整理やった。


 ティムクインテットが騒ぎながら木箱を倒した。


 理由?


 白朱はくしゅがその上で寝ていたからや。


 箱の中身は、古代王朝刻印入り銀貨袋。


 市場価値、家一軒分。


「……なんで今まで気付かんかったんや」


「倉庫の奥やったしな」


 宥子(ひろこ)は淡々としている。


 白朱はくしゅはというと、銀貨の上で再び丸くなっている。


 何も分かってへん顔や。


 幸運値三千八百七十二。


 偶然で済ませてええんか、これ。



 二つ目は市場や。


 白朱はくしゅが露店の下に潜り込んだ。


 慌てて追いかけると、商人同士が揉めている現場。


 蛇に驚いた片方が荷箱を蹴り飛ばし、中身が散乱。


 そこから出てきたのは、偽装契約書。


 価格操作の証拠。


 騒ぎが広がり、監査が入り、片方は失脚。


 空いた流通枠に私達が入る。


「……怖いな」


 私が呟くと、


「運が味方してるだけや」


 宥子(ひろこ)は肩をすくめた。


 白朱はくしゅは私の腕に巻き付いて、じっとしている。


 ほんまにただの幼蛇や。



 三つ目は裏庭。


 ティムクインテットが勝手に掘り返した。


 理由?


 白朱はくしゅがそこに潜ろうとしたから。


 結果。


 温泉湧出。


「意味分からん」


「露天風呂作れるな」


「前向きすぎやろ」


 社員寮の福利厚生として計画が進み、入居希望者が増えた。


 求人も楽になる。


 白朱はくしゅは湯気を嫌がって、私の足元に戻ってきただけや。



 とはいえ、幸運は光だけやない。


 中堅商会が圧力をかけてきた。


「急成長は怪しい」


「裏がある」


 供給妨害。


 価格釣り上げ。


 地味に嫌らしい。


 けど数日後。


 その商会の倉庫で不正帳簿が発覚。


 原因はネズミ騒ぎ。


 白朱はくしゅが追いかけただけ。


 帳簿が散らばり、隠していた事実が露見。


 自爆。


「……何もしてへんのに」


「おるだけで状況が動くな」


 宥子(ひろこ)白朱はくしゅを見下ろす。


 白朱はくしゅはきょとんとした目で舌を出す。


 喋らん。


 念話もない。


 ただそこにいる。



 夜。


 屋上の小さな社。


 若手宮大工が建てた簡素な祠。


 白朱はくしゅをそっと置く。


 月光が鱗に反射する。


 須佐之男命、櫛稲田姫命、阿迦留姫命の加護持ち。


 でも神々しさよりも、幼さが勝つ。


「守られてるんやろな」


「たぶんな」


 白朱はくしゅは丸くなり、すぐに眠った。


 静かな寝息。


 ただの赤ちゃん蛇や。



 最近、王都で噂が広がりつつある。


「幸運を呼ぶ蛇」


「加護持ちの幼蛇」


 でもまだ公式な呼び出しはない。


 王宮からの招集も、今は影も形もない。


 噂は噂。


 水面下でさざ波が立っているだけや。


「時間の問題やと思う?」


 私が聞くと、


「どうやろな」


 宥子(ひろこ)は即答せず、少し考えた。


「今はまだ商会レベルや。王宮が動くのは、もっと影響が広がってからやろ」


 確かに。


 今は地域規模。


 王都全体を揺らすほどではない。


 ……まだ。



 ティムクインテットは今日も白朱はくしゅの周りで騒いでいる。


 キシャーキシャーと鳴き、意味不明な踊りを披露する楽白らくはく


 白朱はくしゅは迷惑そうに距離を取る。


 幼体や。


 喋らん。


 主張もしない。


 だからこそ守らなあかん。


「利用はする。でも守る」


 私は小さな体を両手で包む。


 ひんやりとした感触。


 弱い鼓動。


 生きている温もり。


「そのうち大きくなるんやろな」


「なるやろ」


「喋る思う?」


「どうやろな」


 未来は分からん。


 でも今はまだ、ただの小さな蛇。


 双子。


 双蛇。


 騒動は確実に広がっている。


 王宮の影はまだ遠い。


 それでも運の流れは加速している。


 白朱はくしゅは今日も何も語らない。


 ただ、そこにいるだけで世界が少し動く。


 そして私は思う。


 ――この静かな時間が、嵐の前触れでないことを祈りたい、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ