第95話 小話をひとつ
私が結成したTHE Beauty部隊の完成度は、日に日に高まっている。
正直、ここまで伸びるとは思わんかった。
YouTube様々や。
異世界でも電波は拾える。いや厳密には拾ってるんやなくて、映像魔法で地球側の配信を再現しとるんやけど、細かい理屈はどうでもええ。
一番意外やったんはイザベラやな。
絶対、とんちきな方向に突っ走ると思ってた。
紫のアイシャドウを頬まで塗るとか、金粉を顔面に振りかけるとか。
でもな。
「今日は韓国アイドル風で」
そう指示を出したら、ちゃんと研究してくる。
「次はナチュラル清楚系で」
と言えば、光の当たり方まで計算してくる。
順応力の塊か。
いや、あれは負けず嫌いやな。
自分が“出来ない子”扱いされるのが嫌なタイプや。
ええ根性してる。
⸻
そんなコスメ部隊のために、新しい制服と腰ポーチを用意していた。
白基調に朱の差し色。
機能性重視。ブラシやリップが即座に取り出せる設計。
完璧や。
……やったのに。
「これ、服飾部門に回すわ」
馬鹿姉――宥子が、さらっと言い放った。
「は?」
「採用権あげる言うたやろ?」
ニヤァ。
あの腹立つ笑み。
「死ね!」
「物騒やな」
何でも間でも欲しいと強奪していく癖を治せ言うたら、
「採用権あげへんでぇ」
とか抜かしよる。
ババアのお前が着る為の服ちゃうわ!
「これはコスメ部隊専用や!」
「でもな、服飾の士気が上がるんや」
「うちは?」
「お前は気合いで何とかなる」
ぐぬぬぬ。
確かに私は気合いで何とかするタイプやけども。
⸻
その日の夕方。
市場調査から戻った私は、土産を見せた。
「見てこれ」
掌の中で、みょーんと伸びる小さな蛇。
白地に朱色の模様。
赤白や紅白よりも小さい。
幼体や。
「ギャァァアアッ! 何この可愛い子ちゃん!」
宥子が本気で叫ぶ。
「市場調査してた時に拾った」
「マジか! 紅白が家に来た時くらいの大きさやん!」
スベスベしてテラ可愛ゆす、とか言いながら本能のままにスハスハしとる。
周囲ドン引きや。
「あんまり構ったら嫌がるから止めとけ」
釘を刺す。
「名前とか付けたん?」
「うん、白に朱色で――白朱ちゃん」
「良い名前やね!」
一瞬まともな反応やと思ったら、
「容子にしてはマシなネーミングやと思う」
グッ。
ハリセンが唸る。
パァン!!
軌道と同じ方向にゴロゴロ転がり壁に激突。
「何すんねん!!」
「どこが褒めとんねん!」
「縁起でもない名前付けようとする奴に言われたないわ!」
「納豆は好きな猫やったんや!」
私はネーミングセンス悪くない!
絶対悪くない!
⸻
「で、白朱ちゃんもティムするからな」
「待てコラ」
「琴陵家のルールは私!」
くそ理不尽。
でも念話使うにはティムせなあかん。
「……分かった」
「よし、ステータスオープン」
⸻
———STATUS———
名前:白朱
種族:蛇/アオダイショウ(幼体)
レベル:1
年齢:0歳
体力:1
魔力:1
筋力:10
知能:15
速度:281
幸運:3872
■スキル:丸飲みⅠ・絞め殺しⅠ・念話Ⅰ
■ギフト:なし[メディションホール共有化]
■称号:レンの従魔・癒しのマスコット
■加護:須佐之男命・櫛稲田姫命・阿迦留姫命
■pt統合
—————————––
「幸運どうなっとんねん」
宥子が真顔。
「宝くじ買わせたら当たるんちゃう?」
「蛇に買わせるんか?」
確かに。
⸻
面倒を見る問題が浮上。
「誰が世話する?」
私も姉も忙しい。
その時。
<わいらが面倒みたるで~>
<サクラもお世話するですの~>
いつの間にかティムカルテット登場。
嫌な予感しかしない。
「大丈夫なん?」
「任せてみたらええやろ」
宥子が肩をすくめる。
「愛着も湧くやろし」
確かに。
「ちゃんと面倒見てな」
<おう>
<一人前にしたる>
楽白がキシャーキシャー鳴きながら踊る。
嬉しいんやろうな。
⸻
それから数日。
嫌な予感は的中した。
暴走集団ティムカルテット。
そこに白朱が加わり――
クインテット誕生。
しかもや。
幸運値のせいか、やたら事件を引き寄せる。
倉庫で偶然レア素材発見。
市場で偶然割引品独占。
たまたま貴族の目に留まり契約成立。
「この蛇、商売の神ちゃう?」
「いや、須佐之男命の加護あるし」
意味が分からん。
⸻
一方THE Beauty部隊は更に進化。
異世界版ビフォーアフター企画が大ヒット。
農村娘が王都モデル級へ。
戦士がナチュラルイケメンへ。
数字が跳ねる。
「次はコラボやな」
宥子が言う。
「服飾と統合する?」
「お前の制服案、使うで」
「は?」
「最初からそのつもりや」
最初からかい!
悔しいけど、正しい。
コスメと服飾を連動。
トータルプロデュース。
ブランド力が爆上がり。
⸻
夜。
私は屋上で白朱を指に乗せる。
「お前、幸運係やな」
チロチロと舌。
可愛い。
遠くで宥子が叫ぶ。
「白朱ちゃーん!」
「構いすぎや!」
笑い声が響く。
忙しい。
騒がしい。
でも前に進んでいる。
THE Beauty部隊も。
蛇ちゃんズも。
私達も。
暴走クインテットが何をやらかすかは分からん。
けど。
それすらも、商機に変えてやる。
私は副社長。
容子。
隣には最強の経営者、宥子。
地球でも異世界でも関係ない。
面白い方に転がしたもん勝ちや。
そしてきっと――
白朱の幸運は、まだ序章に過ぎない。




