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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第91話 双子の悪夢


 俺は戦士ガルガ。


 王都でも名の通ったチームバルドの前衛だ。戦士としての腕は一流だと自負しているし、実際、俺たちは幾つもの高難度依頼を成功させてきた。


 だが――。


 最近、どうにも面白くない。


 噂の中心にいるのが、あの双子だからだ。


 宥子(ひろこ)容子(まさこ)


 王都で商売を広げている、生意気な姉妹。


「また双子の話?」


 魔導士リリアナが呆れたように言う。


「市場の連中、あの姉妹の店の防具は質が違うとか、ポーションが桁違いとか、持ち上げすぎよ」


「事実なんだろうな」


 剣士フィーアが腕を組む。


「実際、前に見た剣、あれは良い出来だった」


「だからって、調子に乗らせる理由にはならねぇ」


 俺は吐き捨てた。


 商人風情が、冒険者を見下すな。


 俺たちは命を賭けて魔物と戦っている。あいつらは後ろで金を数えているだけだ。


 それなのに、まるで自分たちが上だと言わんばかりの態度。


 特に姉の宥子(ひろこ)


 あの冷めた目。


 静かで、理屈っぽくて、こちらを値踏みする視線。


 妹の容子(まさこ)はまだ分かりやすい。怒れば怒鳴るし、殴りかかりそうな勢いもある。


 だが姉は違う。


 怒りを飲み込み、微笑みながら切り捨てる。


 あれが気に食わない。


「ガルガ、また睨んでるわよ」


 聖魔導士テレサが静かに言う。


「睨んでねぇ。考えてるだけだ」


「何を?」


「どうやって、あの双子に思い知らせるかだ」


 俺たちは、対価を払うつもりはない。


 払う必要もない。


 王都で名を売っているのは俺たちだ。あの姉妹の商売だって、冒険者がいてこそ回っている。


 なら、多少の融通をさせて何が悪い。


 それが持ちつ持たれつってやつだろう。


 ――そう思っていた。


 あの日、商業ギルド帰りの宥子(ひろこ)と遭遇した時も同じだ。


 俺は妹の容子(まさこ)だと勘違いして声をかけた。


「おい、例の防具一式、用意できたか?」


 振り向いた瞬間、違うと分かった。


 空気が違う。


「……妹と間違えてはります?」


 低く穏やかな声。


「違います。私は宥子(ひろこ)です」


 面倒だと思った。


 どっちでもいい。


「なら話が早い。防具、武器、アクセサリー、それと基礎化粧品の高級セット。全部寄越せ」


 アンナが一歩前に出る。


 鋭い視線。


 だが俺は引かない。


「対価は?」


 宥子(ひろこ)が聞く。


「名前貸してやってるだろ。チームバルドが使ってるって宣伝になる。十分だ」


 沈黙。


 周囲の空気が重くなる。


 だが俺は続けた。


「それとも何だ?俺たちが別の店と契約した方がいいか?」


 脅しだ。


 自覚はある。


 だが、それが交渉だ。


 リリアナが横から笑う。


「王都で生き残るなら、強い方につくのが賢いわよ?」


 フィーアは黙って腕を組み、テレサは目を伏せたまま。


 宥子(ひろこ)は、じっと俺たちを見る。


 怒鳴らない。


 取り乱さない。


 ただ、冷たい。


「……冒険者は命を張ってはるんでしょう?」


「そうだ」


「なら、命を張った対価を、払う覚悟も持ちなはれ」


「払わねぇと言ったら?」


 彼女の目が、わずかに細くなる。


「では、こちらも商人としてのやり方をします」


 ぞくり、と背筋に何かが走った。


 だが俺は笑った。


「やってみろ」


 結果。


 俺たちの評判は落ちた。


 双子が直接悪口を言った証拠はない。


 だが、取引先が減り、鍛冶師が渋り、ポーション屋が急に強気になった。


 見えない糸。


 王都の商圏が、静かに俺たちを締め上げていく。


「……やられたわね」


 リリアナが舌打ちする。


「証拠はない。でも、間違いなくあの姉よ」


「認めねぇ」


 俺は拳を握る。


「商人が冒険者を干すだと?上等だ」


 だが現実は厳しい。


 装備の更新が遅れ、依頼の成功率がわずかに下がる。


 小さな差が、じわじわと響く。


 それでも俺たちは態度を変えない。


 謝らない。


 払わない。


「次に会ったらどうする?」


 フィーアが聞く。


「同じだ」


 俺は即答する。


「俺たちは頭を下げねぇ。欲しいものは手に入れる」


 その夜、王都の広場でまた双子を見かけた。


 今度は妹の容子(まさこ)も一緒だ。


 二人並ぶと、余計に腹立たしい。


 似ているのに、全く違う。


 妹は炎。


 姉は氷。


 俺は睨みつける。


 向こうもこちらを見る。


 宥子(ひろこ)の視線は変わらない。


 冷静で、計算している目。


 まるで、俺たちの未来が見えているかのように。


 だが俺は逸らさない。


 俺は戦士だ。


 商人風情に屈する気はない。


 例え王都中を敵に回しても。


 例え装備が整わなくても。


 例え噂で削られても。


 双子は俺にとって悪夢だ。


 だが悪夢なら、力でねじ伏せるまでだ。


 俺は剣の柄を握る。


 あの姉妹が王都を牛耳るつもりなら、俺たちは力で道をこじ開ける。


 対価は払わない。


 態度も改めない。


 それがチームバルドだ。


 そしていつか――


 あの冷たい目を、後悔に染めてやる。


 そう心に誓いながら、俺は夜の王都を歩き出した。

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