第91話 双子の悪夢
俺は戦士ガルガ。
王都でも名の通ったチームバルドの前衛だ。戦士としての腕は一流だと自負しているし、実際、俺たちは幾つもの高難度依頼を成功させてきた。
だが――。
最近、どうにも面白くない。
噂の中心にいるのが、あの双子だからだ。
宥子と容子。
王都で商売を広げている、生意気な姉妹。
「また双子の話?」
魔導士リリアナが呆れたように言う。
「市場の連中、あの姉妹の店の防具は質が違うとか、ポーションが桁違いとか、持ち上げすぎよ」
「事実なんだろうな」
剣士フィーアが腕を組む。
「実際、前に見た剣、あれは良い出来だった」
「だからって、調子に乗らせる理由にはならねぇ」
俺は吐き捨てた。
商人風情が、冒険者を見下すな。
俺たちは命を賭けて魔物と戦っている。あいつらは後ろで金を数えているだけだ。
それなのに、まるで自分たちが上だと言わんばかりの態度。
特に姉の宥子。
あの冷めた目。
静かで、理屈っぽくて、こちらを値踏みする視線。
妹の容子はまだ分かりやすい。怒れば怒鳴るし、殴りかかりそうな勢いもある。
だが姉は違う。
怒りを飲み込み、微笑みながら切り捨てる。
あれが気に食わない。
「ガルガ、また睨んでるわよ」
聖魔導士テレサが静かに言う。
「睨んでねぇ。考えてるだけだ」
「何を?」
「どうやって、あの双子に思い知らせるかだ」
俺たちは、対価を払うつもりはない。
払う必要もない。
王都で名を売っているのは俺たちだ。あの姉妹の商売だって、冒険者がいてこそ回っている。
なら、多少の融通をさせて何が悪い。
それが持ちつ持たれつってやつだろう。
――そう思っていた。
あの日、商業ギルド帰りの宥子と遭遇した時も同じだ。
俺は妹の容子だと勘違いして声をかけた。
「おい、例の防具一式、用意できたか?」
振り向いた瞬間、違うと分かった。
空気が違う。
「……妹と間違えてはります?」
低く穏やかな声。
「違います。私は宥子です」
面倒だと思った。
どっちでもいい。
「なら話が早い。防具、武器、アクセサリー、それと基礎化粧品の高級セット。全部寄越せ」
アンナが一歩前に出る。
鋭い視線。
だが俺は引かない。
「対価は?」
宥子が聞く。
「名前貸してやってるだろ。チームバルドが使ってるって宣伝になる。十分だ」
沈黙。
周囲の空気が重くなる。
だが俺は続けた。
「それとも何だ?俺たちが別の店と契約した方がいいか?」
脅しだ。
自覚はある。
だが、それが交渉だ。
リリアナが横から笑う。
「王都で生き残るなら、強い方につくのが賢いわよ?」
フィーアは黙って腕を組み、テレサは目を伏せたまま。
宥子は、じっと俺たちを見る。
怒鳴らない。
取り乱さない。
ただ、冷たい。
「……冒険者は命を張ってはるんでしょう?」
「そうだ」
「なら、命を張った対価を、払う覚悟も持ちなはれ」
「払わねぇと言ったら?」
彼女の目が、わずかに細くなる。
「では、こちらも商人としてのやり方をします」
ぞくり、と背筋に何かが走った。
だが俺は笑った。
「やってみろ」
結果。
俺たちの評判は落ちた。
双子が直接悪口を言った証拠はない。
だが、取引先が減り、鍛冶師が渋り、ポーション屋が急に強気になった。
見えない糸。
王都の商圏が、静かに俺たちを締め上げていく。
「……やられたわね」
リリアナが舌打ちする。
「証拠はない。でも、間違いなくあの姉よ」
「認めねぇ」
俺は拳を握る。
「商人が冒険者を干すだと?上等だ」
だが現実は厳しい。
装備の更新が遅れ、依頼の成功率がわずかに下がる。
小さな差が、じわじわと響く。
それでも俺たちは態度を変えない。
謝らない。
払わない。
「次に会ったらどうする?」
フィーアが聞く。
「同じだ」
俺は即答する。
「俺たちは頭を下げねぇ。欲しいものは手に入れる」
その夜、王都の広場でまた双子を見かけた。
今度は妹の容子も一緒だ。
二人並ぶと、余計に腹立たしい。
似ているのに、全く違う。
妹は炎。
姉は氷。
俺は睨みつける。
向こうもこちらを見る。
宥子の視線は変わらない。
冷静で、計算している目。
まるで、俺たちの未来が見えているかのように。
だが俺は逸らさない。
俺は戦士だ。
商人風情に屈する気はない。
例え王都中を敵に回しても。
例え装備が整わなくても。
例え噂で削られても。
双子は俺にとって悪夢だ。
だが悪夢なら、力でねじ伏せるまでだ。
俺は剣の柄を握る。
あの姉妹が王都を牛耳るつもりなら、俺たちは力で道をこじ開ける。
対価は払わない。
態度も改めない。
それがチームバルドだ。
そしていつか――
あの冷たい目を、後悔に染めてやる。
そう心に誓いながら、俺は夜の王都を歩き出した。




