第87話 姉妹戦争録
嫌な再会をしたものだ。
まさかチームバルドが王都にまで来ているとは思わなかった。あの連中はセブールで散々断ったはずだ。というか、ほぼ半分ストーカーだった。勧誘は上から目線、断れば粘着、挙句の果てには商品クレクレ。
思い出すだけで胃がキリキリする。
「姉さん、不機嫌を仕舞って下さいよぉおお! 鬼怖いんですけどぉおおおお!!」
ボブが半泣きで訴える。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。正直キモい。
「あ”ぁ”ぁんんん!?」
私は低音で唸り、ガンを飛ばした。
ボブ、硬直。
ジョンとイスパハンは微妙に距離を取る。
「あいつ等と何かあったんですか!?」
ボブの追撃質問。
私は一度深呼吸した。
「……まぁ、急に不機嫌なったんは謝るわ。ごめん。あいつ等な、宥子と私の逆鱗に触れた大馬鹿者達やねん」
三人がごくりと唾を飲む。
「あんだけボコボコに凹まされて、まだ付き纏ってくるとか正気ちゃうわ。対策考えんとあかん」
自分でも分かる。声が低い。怨嗟が混じっている。
ボブが一歩下がった。
ジョンとイスパハンも若干引いている。
だが私は気付かない。
「さて、さっさと森出るで!」
ストレス発散と言わんばかりに肉球の斧を振り回し、湧いてくる魔物を片っ端から叩き潰す。アンデッドも獣も植物型も関係ない。
双蛇が噛み砕き、楽白ちゃんが拘束し、サクラが回復する。
完全制圧。
おっさんズはほぼ見学状態だった。
◇◇◇
王都へ帰還。
門を潜り、屋敷へ戻る。
そして。
玄関前で私は凍り付いた。
仁王立ち。
般若。
いや、姉。
宥子である。
「……やば」
「あ~ん~たなぁああああああああああああ!! この! 馬鹿容子ぉおおおおおおおおお!!」
右ストレート炸裂。
私の身体は宙を舞い、床をゴロゴロ転がり、壁に激突。
「いっだぁあああああ!!」
視界がチカチカする。
姉がゴミを見る目で近づいてくる。
「あんた、何逃亡してんの? ボトル量産しろって言うたよなぁ?」
ギロリ。
私は涙目で抗議。
「だって! 耐えられへんもん! 向こうでも量産やったやん!」
「私だって交渉で忙しかったんや! あんた代わりにやるんか!?」
「出来へんに決まってるやん! 酷い!」
「なら文句言わずノルマこなせ! しかもカルテット連れて行きやがって!」
「ええやん! 放っといたら勝手に武器とか作るんやで!? 最近活動範囲広がってるんや!」
「監視も仕事の内や!! 他に問題起こしてないやろな!?」
ドスの効いた声。
私は一瞬迷った。
言うべきか。
言わざるべきか。
だが沈黙は悪手だった。
スパァァン!!
ハリセンが側頭部を打ち抜く。
「痛ぃ”いいいいいい!!」
涙目の私を放置し、姉は三馬鹿に事情聴取開始。
ボブ、あっさりゲロる。
「チ、チームバルドと遭遇しました!」
あああああああああああああああああ。
姉の顔色が変わる。
鬼。
いや、魔王。
胸元を掴まれ、ギリギリと締め上げられる。
「何厄介事背負ってきとんねん。殺すぞ……」
「ごめんなさい! あいつ等が王都戻ってると思わへんやん!」
「ノルマ一万追加な」
「は?」
「それ終わるまで討伐禁止」
絶望。
「勘弁してやああああ!!」
私の悲鳴が屋敷に響く。
姉は冷酷に背を向ける。
「アンナ、商談準備や」
「はい」
二人は個人スペースへ消えた。
◇◇◇
残された私は床に転がったまま天井を見る。
「……一万て」
ボトル一万本。
素材も補充せねばならない。
完全に軟禁。
「全部あのチーム屑のせいや……」
私はブツブツ呟きながら立ち上がる。
「イスパハン、来い」
「え、俺もですか?」
「鍛冶も増産や」
引っ掴んでアトリエへ。
火を起こす。
釜を温める。
薬草刻む。
魔力注ぐ。
ボトル形成。
無心で作業。
外では商談の声が微かに聞こえる。
私は歯を食いしばる。
「絶対あいつ等だけには売らん」
バルドへの怒りが燃料になる。
夜更け。
ボトル百本完成。
まだ九千九百本。
遠くで姉の笑い声が響く。
――魔物より怖いのは身内。
今日も私は、姉という最強ボスに敗北したのだった。




