第85話 北谷大乱戦
幽霊屋敷の除霊(笑)を終えてからというもの、私は完全に“便利屋二号”と化していた。
「容子、この見積もりまとめといて」
「容子、アンナにこれ持って行って」
「容子、温泉の成分表を分かりやすくグラフ化しといてや」
――私は秘書ではない。
声の主はもちろん姉、宥子である。温泉付き廃病院という爆弾物件を手に入れて以来、彼女は完全に経営者モードへ突入していた。建築会社、資材業者、内装デザイナー、さらには温泉設備専門業者まで巻き込み、連日商談ラッシュ。
その背後で私は書類と荷物に埋もれている。
「……そろそろプッツンいくで?」
頭の上でコロコロしている楽白ちゃんを撫でながら、私は静かに決意した。
「おっさんズ、逃げるで」
ジョンとイスパハンが顔を上げ、ボブがびくっと震える。
「え、逃亡っすか?」
「せや。パワーレベリングや」
アディオス姉。
◇◇◇
目的は明確。
おっさんズの強化。
特にボブ。
あの戦闘恐怖症を何とかせねばならん。レベルは上がっても、メンタルが据わらなければ前衛は任せられない。
「冒険者ギルド行くで!」
掲示板を眺める。
「北の谷でベビードラゴン十体討伐……まぁ妥当やな」
私単独なら散歩レベル。おっさんパーティなら少し歯応えがある。
だが真の狙いは別。
繁殖期に入り凶暴化したコモドドラゴン討伐依頼。
毒持ち地竜種。報酬高額。
私はそれもこっそり受注した。
「ギルドには“たまたま遭遇して倒しました〜”で報告や」
完璧な作戦である。
「今日は金と経験値荒稼ぎやで!」
気合十分。
◇◇◇
バイク四台で北へ向かう。
道中モンスターは容赦なく轢殺。
「ボブ、運転は上手なったな」
「そ、そりゃもう!」
だが戦闘になると腰が引ける。
謎である。
◇◇◇
北の谷。
岩だらけの荒野。
ベビードラゴンが群れで現れる。
ジョンとイスパハンは慣れた手つきで斬り伏せる。
ボブだけが叫ぶ。
「怖いんすよぉおおお!」
「うるさい戦え!!」
私は怒鳴りつつ肉球の斧で真っ二つ。
「死ぬ前に復活させたる言うてるやろ!」
「死にたくないでずぅうう!」
泣きながらも倒すボブ。
私は腕を組む。
「次、一人でやれ」
「えぇぇぇ!?」
ジョンとイスパハンを下がらせ、ボブ単独戦闘。
震えながらも撃破。
恐怖と成功体験を繰り返させる教育法である。
◇◇◇
地面が揺れた。
巨大な影。
「来たな……私の獲物♡」
コモドドラゴン。
圧倒的な巨体。
「ボブ下がれ!」
粘土爆弾炸裂。
火炎瓶連投。
爆炎の中から咆哮。
「楽白ちゃん、行くで!」
「キャッシャー!」
高速移動で足を粘着固定。尻尾も地面へ縫い止め。
「退避!」
フードへ戻る楽白ちゃん。
私はM85連射。
一発が目を貫く。
絶叫。
「これを顔面にぶつけろ!」
痺れ薬(狂)+目潰し薬(極)。
直撃。
巨体が崩れ落ちる。
「今や! 止め刺せ!」
ボブが震えながら斧を振り下ろす。
三十分。
ようやく絶命。
その間、ジョンとイスパハンは羽を丁寧に切り落としていた。
「お前ら逞しすぎやろ」
◇◇◇
戦利品確認。
鱗×1251
尾×1
羽×2
胃袋×1
魔石大(黄)×1
心臓×1
さらに金貨山盛り。
「ヒャッハー!」
全員のレベルが跳ね上がる。
特にボブ。
顔は死んでるが、数値は伸びた。
「帰ったら大吟醸や!」
「帰りも戦闘っすか……」
当然である。
◇◇◇
帰路。
今度はボブ、自分から前に出た。
震えているが、逃げない。
確実に前進している。
街が見えた頃、私は嫌な予感がした。
ギルドで報告。
「コモドドラゴン? 遭遇戦で倒しました」
受付嬢、絶句。
追加報酬。
外へ出た瞬間。
「へぇ……楽しそうやな?」
腕組みした宥子が立っていた。
「素材は半分やで?」
満面の笑み。
私は天を仰いだ。
パワーレベリング成功。
素材大量。
おっさんズ成長。
だが。
一番強いボスは、街中にいる。
「逃げるか?」
ボブの小声。
全員一致で首を振った。
あれから逃げ切れた者は、いない。
――そして私は悟る。
北の谷よりも危険な戦場は、常に身近に存在するのだと。




