第80話 初買物祭
姉――宥子とアンナが別行動。
つまり今この場の引率責任者は、妹の私――容子や。
総勢十数名。
元奴隷ズ+チビ達+おっさんズ。
そして舞台は――地球のショッピングモール。
「へい! YOU来たぜショッピングモール!」
自動ドアが開いた瞬間、サイエス組が一斉に固まった。
吹き抜け三階建て。
光沢のある床。
エスカレーターが静かに動き続け、天井からは巨大なシャンデリア。
「……城、ですか?」
レナがぽつり。
「違うで。買い物するとこや」
チルドルは口を半開きにして上を見上げている。
イスハパンは柱を触り、
「石ではない……この強度でこの軽さ……」
と、ブツブツ研究モード。
アンナなら平然としていたやろうな。
あれはオリハルコン心臓持ちや。
「良えか! 今日は私服と寝間着を揃える! 戦闘着しか無いとか論外や!」
全員がこくこく頷く。
しかも今日は全員にアイテムボックス付きウェストポーチ支給済み。
購入品はトイレで収納。
万引きちゃうで、隠蔽や。
「気にせんで良えで。あんたらは琴陵家……ちゃう、家族や。遠慮は無しや」
マリーが遠慮がちに言う。
「ですが……高価な物を……」
「家族になるのにケチケチしてどうすんの。心が萎縮したままの方が損や」
少しだけ、空気が緩む。
「ほな二人一組! 手ぇ繋いで私の後ろ!」
わらわらと組が出来る。
余った者同士も強制ペア。
◇◇◇
まずは携帯D社。
「新規十三名お願いします」
店員さんの笑顔が一瞬固まる。
機種選び。
ボブ達おっさんズは新型iPhoneで揃えるらしい。
「これなら……武器にもなりそうだ」
「ならへんわ」
ヘレンは落ち着いた黒。
レナは淡い水色。
チルドルは赤。
「良えか、一生使う気で選べ! 後から変更無し!」
数名が慌てて選び直す。
開通待ち一時間。
イスハパンは店員に半導体の構造を聞き始めている。
止めへん。
店員さん頑張れ。
契約完了。
「トイレ集合、長針が3な! 遅刻したら置いてく!」
私は荷物を抱えてトイレへ直行。
アイテムボックスへ突っ込む。
戻ったら全員揃ってる。
……私が最後。
ちょっと恥ずい。
◇◇◇
次はチビ組。
チルドルとジャックは格好良い服コーナーへ一直線。
「これ……勇者みたい?」
「勇者はもう卒業や。好きなん選び」
下着、靴下、パジャマ。
キャラクターバッグをキラキラ見つめるチルドル。
「欲しいなら買い」
「ありがとうございます!」
その笑顔、反則。
◇◇◇
「次、女性陣! 男性は壁向いて待機! 覗いたら殺す」
下着売り場。
「これ可愛い!」
「こっちは大人っぽい……」
キャーキャーと盛り上がる声。
でもどこか、私の顔色を伺っている。
「値段気にせんでええ。似合うかどうかで選び」
少しずつ、声が自然になる。
服売り場も高速決済。
本当はもっとゆっくり選ばせたい。
けど、まだ緊張してる。
◇◇◇
「一旦トイレで収納!」
全員が律儀に従う。
「ほな飯!」
フードコート。
ハンバーガー、ラーメン、パスタ、唐揚げ。
「これは……肉を挟んだパン?」
ボブがハンバーガーを観察。
「かぶりつきや!」
チルドルはポテトに感動。
レナはクレープに目を輝かせ。
イスハパンはコーラの炭酸に驚愕。
「口内で爆発している……!」
「それが文明や」
奮発した。
アンナの時はこんな感慨無かったけどな。
◇◇◇
食後、男性陣の服。
ハンスは無難な黒。
ニックは爽やか系。
ボブは渋いジャケット。
「似合っとるで」
少し照れるおっさんズ。
最終的に両手いっぱいの荷物。
タクシー三台。
◇◇◇
帰宅。
ダイニングに崩れ落ちるサイエス組。
「戦場より疲れた……」
ハンスが呻く。
「魔物より強敵やったやろ」
私はテーブルに携帯を並べる。
一台ずつ初期設定。
指紋登録。
顔認証。
連絡先に“容子”“宥子”を登録。
「これは緊急連絡手段や。迷子、危険、全部これで呼べ」
チルドルが恐る恐る画面をタップ。
光る。
「……魔道具より凄い」
「魔法ちゃう、科学や」
全員に配布完了。
リビングには、新しい服の匂い。
少しだけ、家族らしい空気。
ふと、思う。
姉の宥子がこの光景見たら何て言うやろ。
「甘やかし過ぎや」
って言いそうやな。
でもええ。
鎖より、笑顔。
ショッピングモールでの初買物は、
物以上に“普通”を買った日やった。
そして明日から――
この携帯が鳴るたびに、
地球とサイエス、
二つの世界が動き出すんやろうな。




