第78話 三日間・超加速育成録
朝霧の立ち込める庭先で、私はゆっくりと息を吐いた。
私は宥子。
理不尽スキル保持者にして、鬼教官。
その隣で大きく欠伸をしているのが妹の容子。
「ほんまに三日で七十五行かせる気なん?」
「行く。経験値は倍。時間は圧縮。覚悟は強制や」
「物騒やなぁ」
背後には元奴隷組。
ハンス、ニック、ジョン、ボブ、イスハパン、ルーシー、キャロル、レナ、イーリン、ヘレン、マリー、チルドル。
かつて絶望の底にいた面々。
だが今日から三日間で、世界が変わる。
◇◇◇
――一日目。
森中層。
「数を狩る。止まるな。迷うな」
フォレストウルフの群れ。
ゴブリンの巡回隊。
ホーンラビットの集団。
戦闘、戦闘、戦闘。
息を整える暇もなく次へ。
背後で私は静かに発動する。
「経験値倍化」
淡い光が全員を包む。
目には見えないが、確実に積み重ねが倍になる。
日没時。
確認。
「……四十八?」
「私五十超えてる……」
まだ初日。
全員が息を荒げながらも、顔には興奮がある。
◇◇◇
――二日目。
深部手前。
敵の質が変わる。
オーガ出現。
巨体の拳がジョンを直撃。
吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「ヒール!」
容子が両手を掲げる。
淡い光がジョンを包む。
……が。
「……あれ?」
傷は塞がりきらない。
血は止まったが、動きは鈍い。
私は即座に腰のポーチから瓶を取り出す。
「下がれ」
そして。
遠慮なく、ぶっかける。
ばしゃあっ!
「冷たっ!?」
宥子特性ポーション。
色は怪しい紫。
匂いは薬草と柑橘と若干の爆発物。
だが効果は桁違い。
ジョンの傷が瞬時に塞がる。
筋肉が再生し、魔力が回復する。
「うわ……身体軽っ……!」
容子が頬を引きつらせる。
「私のヒールより効いとるやん……」
「初級ポーション劣以下やからな、あんたのは」
「ひどない!?」
戦闘再開。
今度は全員の動きが鋭い。
イスハパンの斧がオーガの膝を砕く。
ハンスが首筋を裂く。
最後はチルドルの一撃。
討伐。
戦闘後。
レベル確認。
六十二。
六十五。
六十七。
「伸び方おかしい」
「昨日より身体が動く」
経験値倍化の効果が確実に出ている。
◇◇◇
夜。
屋敷。
全員、筋肉痛と疲労で半死。
私は一人ずつに宥子特性ポーションを配る。
「飲め」
ごくり。
「……うわ、熱っ」
身体が発光する。
魔力回路が拡張される。
容子が羨ましそうに見る。
「それ量産できへんの?」
「材料が面倒」
「ケチ」
◇◇◇
――三日目。
森深部。
Bランク推奨域。
出現。
アーマードベア。
鋼鉄のような毛皮。
圧倒的体躯。
突進。
ハンスが受け止めるが弾き飛ばされる。
「ヒール!」
容子。
……やはり回復が追いつかない。
「どけ」
私は両手に瓶を二本持つ。
ばしゃっ! ばしゃっ!
宥子特性ポーション二連投。
ハンス完全回復。
「行け!」
ニックが脚を斬る。
イスハパンが装甲を割る。
ルーシーが強化。
ヘレンが拘束。
最後。
チルドルの突きが心臓を貫いた。
巨体崩落。
静寂。
震える手で全員がステータスを開く。
七十三。
七十四。
七十五。
七十六。
「……三日で」
涙ぐむレナ。
ハンスが空を見上げる。
「俺たちは……もう、弱くない」
私は腕を組む。
経験値倍化。
特性ポーション。
そして彼らの根性。
「七十五は通過点や」
全員がこちらを見る。
「次は八十。深部常駐できるレベルまで持ってく」
「鬼!」
笑いと涙が混じる。
容子が小声で言う。
「私のヒール、鍛え直そ……」
「まず魔力量増やせ」
「スパルタ姉や……」
夕焼けの森。
三日で築いたのは数字以上のもの。
自信。
連携。
そして未来。
私は静かに呟く。
「まだまだやで」
彼らの本当の物語は、ここから始まる。




