第77話 鬼姉ブードキャンプ
「姉が強制レベリング――ブードキャンプするで!!」
琴陵家の長女、宥子の号令が王都の青空に突き刺さった。
有無を言わせぬ声音。
拒否権は存在しない。
次女の容子は、げんなりとした顔で荷袋を担ぐ。
「ブードキャンプて……軍隊かいな」
「軍隊より厳しいで」
即答。
こうして琴陵姉妹主導の地獄特訓が始まった。
王都を出て一時間。
魔物除けの薬を散布しながら森へ進軍。
索敵をかけると赤い反応が散在している。
「よし、配置発表や」
姉の声に全員が整列。
「私チームは蛇ちゃんズ・チルドル・ジャック・ワウル。容子チームは楽白・ボブ・イスパハン・ジョン。アンナチームはサクラ・ルーシー・キャロル・マリー」
「何で私んとこ物理系ばっかなん!?」
るみなの抗議。
「野郎率高すぎやろ!!」
脳天チョップ。
「痛ぁっ!」
「片手斧スキル取ったんやろ。指導せえ」
理不尽。
しかも姉チームはチルドルという可愛い戦力付き。
ずるい。
◇◇◇
るみなは三人のステータスを再確認する。
イスパハン、レベル48のドワーフ。
ジョン、レベル15の樵。
ボブ、レベル3の俊足。
「見事にバラバラやな……」
イスパハンは筋力お化け。
ジョンはバランス型。
ボブは紙装甲。
「最低でも100目指すで!!」
三人の視線が冷たい。
「何でや?」
「現実的に考えてくださいよ……」
「現実はぶち壊すもんや」
最初の遭遇はオックスベア五体。
「楽白ちゃん、操糸!」
触手が足を絡める。
るみなは肉球斧で横っ面を殴打。
ドゴン。
脳震盪確認。
「止めや!」
イスパハンとジョンは即座に刺す。
ボブだけが震えている。
「目覚めませんよね……?」
「知らんわ!!」
蹴り飛ばし、無理やり止め。
二戦目、三戦目。
イスパハンとジョンは動きが良くなる。
ボブは安全確認後しか動かない。
「ボブ、次は一人でやれ」
「無理無理無理!!」
「無理を通すのがブードキャンプや」
魔物寄せ薬を撒く。
ゴブリン十体。
「うわあああああ!!」
半泣きで斧を振るう。
るみなは威圧を展開し、他個体を寄せ付けない。
十分後。
「息止めろ!!」
痺れ薬極を投擲。
ゴブリン全滅寸前。
ボブのレベルはじわりと上昇。
◇◇◇
三時間後、集合。
アンナチームは魔法の連携が向上。
ルーシーの火球は三連射可能に。
キャロルの土槍は貫通力増。
マリーは水弾精密射撃習得。
姉チーム。
チルドルは水刃を自在に操り、ジャックは槍の間合いを掴み、ワウルは壁役を完全遂行。
「進捗報告」
全員が成果を述べる。
ボブは瀕死。
「泣いてました」
ジョンが報告。
姉の視線がボブに向く。
「恐怖を越えたか?」
「……ちょっとだけ」
その時。
森奥から重い魔力。
「エリアボス」
グレートオックスベア出現。
「全員で削る。最後はボブ」
「また!?」
総力戦。
火・土・水の魔法。
槍、大剣、片手剣。
容子の斧が後頭部を叩く。
巨体が崩れる。
「ボブ!!」
道が開く。
震えながら前進。
「琴陵家の家訓は?」
「自分の食い扶持は自分で稼ぐ……!」
振り下ろす。
決着。
レベル急上昇。
23→39。
ボブは膝をつく。
「俺……やれた……」
るみなは笑う。
「せや。やれば出来る子や」
宥子は静かに頷いた。
「恐怖を知り、それでも踏み出した。それが成長や」
夕焼けの帰路。
疲労困憊の一行。
だが確実に強くなっている。
「明日は倍や」
「え?」
「目標100や言うたやろ」
森に響く悲鳴。
こうして琴陵姉妹のブードキャンプは続く。
仲間を強くするため。
誓約――琴陵姉妹の秘密を話さないこと、裏切らないこと、仲間を害さないこと。
その条件を胸に。
彼らは今日も、鬼教官の下で生き延びるのだった。




