第75話 金運覚醒
「取敢えず、自己紹介も終わったし仕事の振り分けとかは追々やるとして……まずは皆の運を均等にしたいと思います!」
ビシッと指を鳴らしながら宣言する宥子。
「容子、例の奴持ってきて」
「はいはい、元凶が偉そうに」
私はアトリエから件のイヤリングを持ってきた。
――巫女の耳飾り・改。
運共有化を目的に作ったはずの、何故かチート機能満載の問題作である。
全員に手渡した瞬間、案の定リビングは混沌と化した。
「何なんこの鬼仕様なチートアイテムは!!?」
第一声、宥子。
「神の遺物クラスやん!!」
アンナが目を剥く。
「キラキラしてますわぁ~!」
イザベラは性能を見ずにテンション上昇。
パンジーは両手で大事そうに包み込んでいる。
「仕方ないやん。悪運を帳消しにする為に全員の運を統合、再分配するアイテムやもん。売るつもりも無いし」
私は腕を組んで言い切る。
無茶ぶり振ったのはお前やぞ、と視線で圧をかけると、宥子はその場でOTZになり、床をバンバン叩き始めた。
「これ売ったら白金貨何枚や思うとるんや……!」
隣ではアンナが本気で金額を試算し始めている。
商売人コンビ、目が¥になっとる。
「ティムカルテットはどう装備すんの?」
「蛇ちゃんズはチョーカー仕様やし、楽白ちゃんとサクラちゃんは体内融合やから問題なし」
「さよか……」
心底疲れた返事。
そして元凶イザベラが小声で呟く。
「もっと可愛いのが良かった」
「お前の可愛いは世界基準からズレとる」
私は即斬り。
イザベラが不満げに宥子を見る。
宥子は目を逸らし、慎重に言葉を選ぶ。
「そのな……イザベラ。アンタの趣味はな……万人受けせぇへんのや」
しかし通じない。
「イザベラの趣味は悪いんです。ブチブチ言わずに着けなさい。これは貴女の不運を幸運に変えるアイテムです。本当なら売りたいのに」
アンナ、容赦なし。
拍手したい。
「売らんからな」
念押し。
全員がイヤリングを装着した瞬間、宥子の目の前にシステム表示が浮かぶ。
『幸運ポイントを再分配しますか?』
「する」
即答。
ピカッ。
一瞬、全員の身体が淡く光った。
「……それだけ?」
宥子と私は顔を見合わせる。
ステータス確認。
「おぉ!! ちゃんと再分配されとる!! 悪運666消えた!!」
イザベラの不幸値は0。
代わりに全員の幸運値がほぼ均等に並んでいる。
「……ん? 新しいスキル出とる」
全員のステータスに新規スキルが追加されていた。
【金運】
取得金額2倍。
「は?」
「金運スキルやと!? 取得金2倍!? 容子よくやった!!」
「本当です! 全員に付与されています!」
アンナの目が完全に¥¥である。
「明日は狩りですね。モンスターを狩って荒稼ぎしましょう」
怖い。
「まぁ……腕試し兼ねて依頼受けるか?」
「せや!!」
拳を握る宥子とアンナ。
私はソファに沈む。
私の精神力はもう0や。
翌朝。
王都の冒険者ギルド。
受付嬢がにこやかに出迎える。
「本日はどのようなご依頼でしょうか?」
「高額報酬の討伐依頼」
即答するアンナ。
目が本気。
選んだのは、Aランク相当の魔獣討伐依頼。
通常報酬、金貨三十枚。
「無茶やろ」
「金運あるし」
その理屈はどうなん。
森へ移動。
ターゲットは雷狼型魔獣。
群れで行動する厄介なタイプ。
「作戦は?」
「普通に殴る」
脳筋。
戦闘開始。
雷撃が飛ぶ。
だが――
全員の回避率が異常に高い。
電光石火が発動し、残像が走る。
「速っ!?」
私が驚く間に、宥子が前衛で一閃。
会心発動。
パンジー、体力∞の突撃。
バーストストリーム20連撃。
雷狼、蒸発。
「え?」
早すぎる。
群れも瞬殺。
討伐完了。
そして問題はここからやった。
ドロップ品。
通常なら牙数本、魔石一つ程度。
だが地面に転がるのは――
魔石十数個。
高品質毛皮山盛り。
レア素材まで混ざっとる。
「金運……」
アンナが震える声で呟く。
「取得金2倍やなくて、ドロップ率までおかしなっとらん?」
「共有化の副作用ちゃう?」
嫌な予感しかしない。
ギルドへ帰還。
報酬金貨三十枚。
だが金運スキル発動。
六十枚受領。
受付嬢が目を丸くする。
「……あの、報酬は三十枚のはずですが?」
「金運です」
意味不明な回答をする宥子。
さらに素材売却。
通常査定の約二倍。
アンナが静かに言う。
「……一日で白金貨一枚超えました」
全員沈黙。
「……やりすぎた?」
「今さら?」
その夜。
屋上の社。
阿迦留姫命への供物を並べる。
「今回の金運、あんたの仕業ちゃうやろな?」
風がふわりと吹く。
供えた大吟醸の瓶が、コトンと音を立てた。
――もっと良い酒。
そんな気がした。
「財布に優しくしてくれ」
私の願いは、きっと届かない。




