第73話 蛇神大当
人生とは、かくも一気呵成に進むものなのだろうか。
曰く付きビルを購入してからというもの、宥子の決断力は常軌を逸していた。
まず屋上にお社を建立。
簡素な祠ではない。檜造りの立派な社に、結界石、注連縄、榊立てまで完備。神具一式も揃えた本格仕様である。
「どうせ祀るなら中途半端はあかん」
その心意気は分かる。分かるが――通帳の残高が分からなくなりそうな勢いで減った。
さらにビルのワンフロアを丸ごと改装。
三畳の鍵付き個室を六部屋。
共同のダイニングキッチン。
追い焚き可能な風呂。
「拠点兼、寝泊まりルームや」
その言葉の裏で、諭吉が団体で旅立っていった。
そして極めつけ。
「家、売るで」
唐突に自宅売却宣言。
都内のマンションを手放し、新居へ引っ越し。
生活拠点をビルに一本化。
人生のイベントをまとめて消化しすぎや。
姫嶋神社から神主を招き、屋上の社へ正式に阿迦留姫命をお遷しした。
祝詞が響き、榊が揺れ、空気が一変する。
あの瞬間、確かに神気が降りた。
そして管理は――
「神官スキルあるし私がやる」
似非神主ここに誕生。
毎朝、祝詞。
榊の水替え。
供物。
最初は水を供えていた。
数日後。
「夢に出てきた」
朝から微妙な顔の宥子。
「誰が」
「阿迦留姫命」
嫌な予感しかしない。
「もっと良い酒寄越せ、やって」
は?
翌日、大吟醸を献上。
その夜。
「また出てきた」
「今度は何」
「おつまみも欲しいって」
……。
これはもう、紅白とか赤白とか、そういうレベルやない。
完全に現世満喫型神様や。
結局、一日一回、私たちと同じ食事と酒とおつまみを供えることになった。
手抜きしたら夢に出る。
しかも微妙に圧をかけてくるらしい。
「今日の酒、昨日より格落ちしてる」
とか言われたらしい。
財布に嫌がらせせんといて!
ある夜。
「……ヤバいな」
通帳を睨む宥子。
「残高いくら?」
「百万円切った」
「ヤバいやん」
改装費、建立費、生活費。
神様用の高級酒。
「金貨換金は目立つしな」
一気にやれば税務が面倒。
「化粧品セット(良)売れば?」
「コピーすると(普)になる」
「何で」
「神託スキルⅩⅢまで上げたから」
「また勝手にポイント使ったん!?」
「緊急やったんや!」
ほんま自由やなこの姉。
そこへアンナ。
「奴隷を購入しましょう」
「唐突やな」
「人手不足解消。生産効率向上」
理屈は正しい。
金がない。
その時。
「宝くじ」
姉が呟く。
「ヘビ様が明日十時に○○駅前で買えって」
ヘビ様=阿迦留姫命。
助けてくれるん?
いや、あの神様やぞ。
「行くで」
幸運値の高いティムカルテット総出。
スクラッチ一枚。
ジャンボ一枚。
削る。
……全員当たり。
イザベラ三百円。
他は一等、二等。
合計、洒落にならん額。
「蛇様ありがとう」
自分の供物代を自力回収する神様。
賢い。
その後、サイエスへ戻る。
王都の宿から商業ギルドへ直行。
「家を買いたい」
担当ハウル。
「白金貨十枚前後、風呂付き」
即金提示で目を丸くする。
案内された曰く付き元貴族邸。
禍々しさMAX。
呪詛の囁きフルボリューム。
「良いね」
「良くない!」
だが即決。
私は敷地全体ヒール連発。
エリアヒール全開。
悲鳴。
浄化。
MPポーションがぶ飲み。
「お疲れ様」
爽やか笑顔。
そして扉の先に幽霊メイド。
ヒール効いてない。
「成仏して」
「無理ですぅ」
結果ティム。
パンジー誕生。
幽霊→ドモヴォーイ(家の精霊)。
加護欄に須佐之男命、櫛稲田姫命、阿迦留姫命。
全員にも阿迦留姫命の加護追加。
「決断と行動の神様やからな」
夫を捨て海を渡った神。
再出発の象徴。
「尊敬するわ」
アンナが言う。
「宴会にしましょう」
絶対飲みたいだけやろ。
だが今日は祝いや。
宝くじ大当たり。
新拠点確保。
精霊メイド加入。
酒を並べる。
「明日から忙しいで」
宥子が笑う。
私は杯を掲げた。
――こうして見ると。
紅白や赤白のように、派手でめでたい流れや。
財布は痛いが、運は良い。
蛇神様様やな、ほんま。
翌朝。
「この酒、昨日より落ちてる」
また夢に出たらしい。
高級酒リストを見ながら、私は天を仰いだ。
財布との戦いは、まだ続く。




