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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第62話 王都創装録

 Sランク昇格の熱狂がまだ冷めやらぬある日――

 王都(おうと)アルディアの中央大通りを、容子(まさこ)、アンナ、宥子(ひろこ)の三人は肩を並べて歩いていた。


 空は澄み渡り、王城の白壁が陽光を反射して眩しい。露店には果物や装飾品、そして王都自慢の武具が並ぶ。


 だが。


「……なんやこれ。」


 容子(まさこ)が手に取ったのは“王都最高峰”と銘打たれた長剣。軽く振った瞬間、刃先の魔力循環が乱れ、青白い光が途切れた。


「魔力の流れ、ガタガタやん。研ぎも甘いし、芯材も弱い。」


 隣で宥子(ひろこ)が鎧の継ぎ目を覗き込む。


「溶接甘いな。これ強打されたら歪むで。」


 アンナは無言で盾の縁を撫で、静かに告げる。


「素材純度七割未満。加工精度も中級止まりです。」


 半日歩いても、心が躍る品は見つからない。


「武器も防具も糞やな。」


 容子(まさこ)があっさり言い切る。


「せやな。」


 宥子(ひろこ)も同意。


 その瞬間、容子(まさこ)の目が鋭く細められた。


「……ほな、自分で作るか。」


 アンナがわずかに首を傾げる。


「武器ですか?」


「ちゃう。」


 容子(まさこ)は口角を上げた。


「ドレススーツや。」



即席工房


 宿の一室に結界を張り、机を並べる。

 Sランク報酬で手に入れた高純度魔鋼、魔糸、希少革、魔結晶。


 容子(まさこ)は袖をまくり、深呼吸する。


「戦闘服は山ほど見てきた。でもな、“強い礼装”は見たことあらへん。」


 魔糸を指で撫でると、淡い光が走る。


「やるなら、礼装の顔して中身は要塞や。」


 アンナの瞳が興味深げに細まる。


「具体的には?」


「衝撃吸収層を裏地に。魔力循環路を縫い込み、魔鋼の極薄板を骨格に仕込む。」


 宥子(ひろこ)が吹き出す。


「欲張りやな。」


「やるなら徹底的や。」


 針が走る。

 魔糸が布を縫い、見えない回路を描く。


 布地に触れるたび、容子(まさこ)の魔力が流れ込み、構造が安定していく。


 数時間後――


「できた。」


 深紺のドレススーツ。

 光沢は控えめだが、気品がある。細身のラインは動きを妨げず、肩から腰へ流れる曲線が美しい。


「着てみ。」


 アンナが袖を通す。


 驚くほど自然に身体に馴染む。


 宥子(ひろこ)が軽く拳を当てる。


 鈍い衝撃音。

 だがアンナは微動だにしない。


「衝撃、吸われたな。」


「裏地三層構造や。」


 アンナが魔力を流すと、布地に淡い光の紋様が浮かぶ。


「魔力増幅効果、約一割上昇。循環は滑らかです。」


 容子(まさこ)は満足げに頷いた。



小物の創造


「服だけやない。」


 次に取り出したのは小さな魔結晶。


「指輪にする。」


 細い金属を曲げ、魔結晶を嵌め込む。

 内部に空間拡張の術式を刻む。


「収納容量は?」


 アンナが問う。


「市販品の三倍。」


 続いてイヤーカフ。

 衝撃を反射する薄膜術式を内蔵。


 さらにブローチ。

 自己修復機能を持たせる。


 どれも繊細で、装飾としても一級品。


「……王都の店より上やな。」


 宥子(ひろこ)が呟く。


「当たり前や。」


 容子(まさこ)は迷いなく次の型紙を広げる。



試験


 翌日、演習場を借りる。


 アンナが魔法を放つ。


 炎弾が直撃。


 ドレススーツは焦げず、衝撃を拡散。


 宥子(ひろこ)が全力の拳を叩き込む。


 地面が割れるほどの衝撃。


 だが布地は破れない。


「これ、ほんまに礼装か?」


「せや。」


 容子(まさこ)は腕を組む。


「王都の基準、低すぎる。」


 アンナが静かに言う。


「市場に出せば革命になります。」


 容子(まさこ)は首を振る。


「今は売らん。」


「なぜです?」


「まだ完成ちゃう。」


 さらに改良。


 軽量化。

 通気性向上。

 魔力反応速度の最適化。


 三日後。


 第二号、第三号が完成。


 色は白、黒、深紅。


 それぞれに個性。



夜の語らい


 宿の窓から王都(おうと)アルディアの夜景を眺める。


「戦うだけがSランクちゃうな。」


 宥子(ひろこ)が呟く。


「せやな。」


 容子(まさこ)は針を動かし続ける。


「強さは、形に出来る。」


 アンナが静かに頷く。


「この服は象徴になります。」


 容子(まさこ)は笑った。


「王都で一番強い礼装、うちらが着る。」


 それは宣言だった。


 売るためでも、見せびらかすためでもない。


 自分たちが納得する装備を、自分たちの手で創る。


 その姿勢そのものが、Sランクの証。


 王都の夜は静かに更けていく。


 針の音だけが、規則正しく響いていた。


 やがて――


 容子(まさこ)は最後の縫い目を締め、満足げに頷く。


「よし。これで完成や。」


 アンナと宥子(ひろこ)が並ぶ。


 三人の装いは統一感を持ちながら、それぞれの個性を放つ。


 誰が見ても分かる。


 これは既製品ではない。


 最強が、自らのために創った一着。


 王都(おうと)アルディアの灯りの下で、三人は静かに笑った。


 戦場でも、街でも、頂点に立つ。


 その覚悟を、布に縫い込んだのだから。

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