第60話 規格外の公開試験
王都アルディア冒険者ギルド本部、最上階応接室。
重厚な扉が閉まり、外の喧騒が遠のく。だが室内の空気は張り詰めたままだった。ダリエラ支部の怠慢報告、そして一万規模のゴブリン殲滅映像を確認し終えたギルドマスター、ジョンは、静かに指を組み直す。
「改めて確認する。」
低く、揺るがぬ声。
「現在の冒険者ランクはCで間違いないな?」
「せや。」
宥子が即答する。
「うちもC。妹の容子もCや。」
「私は未登録です。」
アンナは落ち着いた標準語で続けた。
ジョンの眉がわずかに上がる。
「未登録であの殲滅力か……では、レベルを申告してもらおう。」
職員達が緊張した面持ちで控える。
まずアンナ。
「私のレベルは209です。」
室内が静まり返る。
200台は王都でも上位Sランク級。しかも未登録。
常識の枠が音を立てて揺らぐ。
ジョンは視線を宥子へ向ける。
「君は?」
「400や。」
息を呑む音が重なる。
「……四百?」
それは国家級戦力の数値だった。
ジョンのこめかみに汗が滲む。
「妹の容子は?」
「だいたい350くらいやな。」
さらりと告げる。
回復特化で350――前線を支配できる水準。
ジョンはゆっくり椅子に腰を下ろした。
「……なぜCに留まっている。」
「必要なかったからや。」
宥子は肩を竦める。
「三人で動けたらそれでええ。」
アンナは冷静に補足する。
「ランクは制度上の区分です。私達にとっては実務上の問題でしかありません。」
理屈は正しい。
だが制度側の問題は深刻だ。
「Cランク帯に400と350が存在するのは危険だ。」
ジョンは断言する。
「依頼難度の基準が崩壊する。周囲が巻き込まれる可能性もある。」
短い沈黙。
そして決断。
「Sランク昇格を提案する。」
だが宥子は首を振った。
「うちだけ上がるんは断る。」
「理由は?」
「三人でパーティ組むんや。ランク分かれたら面倒やろ。」
アンナも標準語で同意する。
「戦力を分断する合理性はありません。」
ジョンは考え込む。
やがて顔を上げた。
「ならば、全員同時にSランク昇格試験を受けてもらう。」
室内がざわめく。
「妹もか?」
「当然だ。レベル350をCに置く理由はない。」
正論だった。
「形式上の試験は必要だが、今回は公開形式で実施する。」
職員達が驚く。
「公開やて?」
宥子が眉を上げる。
「不正防止と透明性確保のためだ。」
ジョンは説明する。
「封鎖はしない。演習場は開放する。王都の冒険者、関係者、希望する市民にも観覧を許可する。」
密室では疑念が生じる。
規格外なら尚更。
「明日、王都アルディア郊外大演習場にて実施する。」
その会場は王都最大級。
「観覧席は満員になるだろう。」
アンナが静かに言う。
「それでも問題ありません。私達は実力を示すだけです。」
宥子が笑う。
「派手になるな。」
「注目されること自体はリスクではありません。」
アンナはあくまで冷静だ。
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夜の王都アルディア。
二人は石畳を歩く。
「観客ぎょうさん来るんやろな。」
宥子が言う。
「相当な人数になるでしょうね。」
アンナは淡々と返す。
「容子、緊張するんちゃうか。」
「怒る可能性の方が高いと思います。」
二人は小さく笑う。
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宿の扉を開ける。
容子が顔を上げる。
「おかえり。」
「ただいまや。」
「ただいま。」
アンナは標準語。
穏やかな空気。
だが。
「明日、三人でSランク試験受けるで。」
沈黙。
「……は?」
「公開試験や。観客いっぱい来るらしい。」
「え? 私もなん?」
「レベル350をCに置かれへん言われた。」
容子は額に手を当てる。
「ちょっと待って。聞いてへん。」
「今言うたやろ。」
夜は静かに更けていく。
だが翌日、王都アルディア郊外大演習場には大勢の観覧者が集まる。
冒険者。
貴族。
商人。
市民。
レベル400。
レベル350。
レベル209。
三つの規格外が、公の舞台に立つ。
王都の歴史が動く、その前夜だった。




