第58話 聖光逆襲
王都への最短距離は、山腹を貫く洞窟だった。
脳内マップに表示されるルートは、明らかに危険地帯を示している。魔力濃度は高く、青白い光点が密集している。
アンデットモンスターの巣窟。
だが距離は大幅に短縮できる。
私は原付を降り、洞口を睨んだ。
「行くで。時間短縮優先や」
宥子は肩を竦める。
「訓練にもなるしな」
その言い方、なんか含みあるやろ。
⸻
洞窟内部は冷気がまとわりつく。
脳内マップを暗視補正に切り替えると、青白い点がゆらりと動いた。
スケルトン三体。
私は前に出る。
今回はまず物理だ。
肉球斧を借りるのではなく、自分の武器で斬り込む。
ガキン、と骨が弾ける。
反撃。
剣が肩を掠める。
「ちっ」
私は即座に自分へヒールをかける。
淡い光が傷を包む。
……じわ。
ほんの少し塞がる。
下級ポーション劣より劣る回復量。
だが無いよりマシ。
再び斬る。
骨が崩れる。
もう一体。
被弾。
ヒール。
じわ。
時間がかかる。
後方を見る。
宥子達はまだ戦闘態勢だ。
アンナが風刃を放ち、サクラが補助を展開している。
だが次の集団が現れた瞬間、状況が変わる。
レイス、ゾンビ、スケルトンメイジ。
数が増えた。
私は前で奮闘する。
斬る。
殴られる。
ヒール。
じわ。
効率が悪い。
気付けば、後方は静かだった。
振り返る。
宥子が腕を組んでいる。
アンナも止まっている。
サクラも様子見。
紅白と赤白は地面に伏せ、楽白は天井で待機。
完全傍観モード。
「は?」
私は骨の一撃を受けながら叫ぶ。
「なんで止まっとんねん!」
宥子は涼しい顔。
「訓練やろ?」
ぶちっと何かが切れた。
⸻
私は敵を弾き飛ばし、怒鳴る。
「ほな見とけや!」
自分へヒール。
じわ。
効率悪い。
アンデットは減らない。
苛立ちが頂点に達する。
私はやけくそで、目の前のスケルトンへヒールを放った。
「ヒール!」
浄化を強く意識する。
光を濃く、強く。
聖属性を叩きつけるイメージ。
瞬間。
スケルトンの体が真っ白に染まり、粉のように崩れ落ちた。
一発。
撃破。
脳内マップの青点が一つ消える。
洞窟に一瞬の静寂。
私は目を見開く。
「……は?」
宥子が口元を歪める。
「やっと気付いたか」
「最初から言えや!」
「自分で気付いた方が伸びる」
ムカつく。
だが今はそれどころではない。
私は次のレイスにヒールを叩き込む。
「ヒール!」
光が弾け、レイス消滅。
ゾンビも浄化。
アンデット特効。
私の微妙回復魔法が、攻撃魔法へと変わった瞬間だった。
⸻
囲まれる。
数が多い。
私は意識を拡張する。
さっきの光は一点集中だった。
なら、広げればいい。
「ヒール!」
円形に広がる光。
洞窟内が白く染まる。
アンデット達が一斉に煙を上げ、崩れ落ちた。
脳内マップの青点がまとめて消える。
エリアヒール。
私はゆっくり振り返る。
「……なんで教えへんかったん?」
宥子は平然と言う。
「もう使えとったで」
「はぁ!?」
「さっき無意識で広がっとった」
私は頭を抱える。
怒り半分、達成感半分。
⸻
洞窟を抜ける頃には、私はアンデットを次々と浄化していた。
物理より早い。
効率が段違い。
外に出た瞬間、宥子がぽつりと言う。
「ちなみに今の敵、あんたと同レベルやで」
空気が凍る。
「……同レベル?」
「せや」
私は無言で脳内ステータスを開く。
確かに同等。
つまり。
私は同レベル帯相手に物理で苦戦していた。
聖魔法を使えば一撃だったのに。
傍観していた姉。
怒り再燃。
私は静かに告げる。
「今日から缶パンと野菜ジュースの刑」
「待て待て待て!」
聞かない。
⸻
休憩地点。
テーブルを出す。
私は温かい食事。
宥子の前には缶パンと野菜ジュース。
沈黙。
〈自業自得や〉と紅白。
〈反省せい〉と赤白。
〈かわいそうですのぉ。でもしかたないですのぉ〉とサクラ。
楽白は無言で缶を軽く叩く。
カン、と虚しい音。
宥子は絶望顔で缶パンを齧った。
「まずい……」
「当然や」
私は満足げにスープを啜る。
聖魔法はアンデットに特効。
エリアヒールも取得。
成果はあった。
だが。
姉への刑は続行。
王都までは、まだ少しある。
その間、缶パン生活やな。




