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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第57話 脳内地図乱戦

 王都へ向かう街道は、今日も容赦がない。


 私は原付を走らせながら、視界の端に浮かぶ半透明の情報を睨んだ。


 スクロールは紙ではない。


 身体に読み込ませ、魔力で神経と同調させるものだ。


 一度展開すれば、地図は脳内に常駐する。


 今も私の意識の奥には、立体的な地形図が広がっている。


 高低差、岩盤の密度、水脈の位置。


 そして――赤い光点。


 「また増えた」


 私はうんざりと呟く。


 横を並走する姉、宥子(ひろこ)が覗き込む。


 「濃いな?」


 「濃い。動きも速い。中ボス級や」


 ほんまに多い。


 ティムカルテットの異常な幸運値と、宥子(ひろこ)の悪運。


 この組み合わせは、街道をダンジョン化させる。


 三十分に一回、中ボスクラス。


 イベント過多。



 雑魚は楽だ。


 原付で轢く。


 電動スクーターで跳ね飛ばす。


 Hit and Away。


 速度を落とさず、ドロップだけ回収。


 だが中ボスは違う。


 地面が裂け、巨大な甲殻種が這い出る。


 私はドラゴンフライを構える。


 「新車に傷付けたら承知せんぞ!」


 連射。


 硬い。


 弾かれる。


 肉球斧が飛ぶ。


 楽白(らくはく)の糸制御。


 赤白(せきはく)紅白(こうはく)が投擲。


 装甲が割れる。


 〈割れたで〉


 〈畳み掛けや〉


 アンナの風刃。


 宥子(ひろこ)の混合魔法。


 撃破。


 だがその衝撃で、私の腕に浅い裂傷。


 「ちっ」


 私は自分に回復をかける。


 淡い光が滲む。


 ……じわっと、ほんの少し痛みが和らぐ。


 それだけ。


 回復量、微々たるもの。


 下級ポーション劣より劣る。


 誇張ではない。


 ほぼ気休め。


 私は顔をしかめる。


 「私の回復、ほんまゴミやな……」


 宥子(ひろこ)が笑う。


 「補助や補助」


 補助にもなっとらん。


 だが無いよりマシ。


 そう思うしかない。



 サクラが両手を掲げる。


 〈まもるですのぉ〉


 聖属性補助。


 そして本命。


 〈なおすですのぉ〉


 エリアヒール。


 傷がみるみる塞がる。


 私の回復が霧だとすれば、サクラは豪雨だ。


 差が酷い。


 「ええなぁ……」


 私は小さく呟く。


 回復姫を夢見て聖魔法を取得した。


 後衛で優雅に回復するはずだった。


 現実は、前衛で走り回りながら微回復。


 解せぬ。



 魔法縛りは継続中だ。


 物理攻撃はティムカルテットが担当。


 私と宥子(ひろこ)は魔法中心。


 だが私の攻撃魔法はまだ精度が甘い。


 ヒールも微量。


 完全に劣化版。


 アンナは違う。


 レベル87。


 風圧の多重制御。


 理科と科学の知識を応用し、空気の密度を操作する。


 「後方クリアです」


 頼もしい。


 チートがまた増えた。


 私だけ一般人。



 私は脳内マップを拡大する。


 少し外れた場所に開けた地形。


 昼休憩に良さそうだ。


 「ここ寄るで」


 進路変更。


 瞬間、赤点急増。


 嫌な予感。


 イルビージョーンの巣。


 「昼飯前に出てくんな!」


 テーザー銃。


 宥子(ひろこ)の雷撃。


 アンナの風刃。


 蛇ちゃんズの肉球斧。


 サクラの聖光。


 楽白(らくはく)の糸拘束。


 瞬殺。


 私は軽く息を吐く。


 また腕に浅い傷。


 自分でヒール。


 ……じわ。


 「ほんま、しょぼい」


 サクラが慌てて回復を重ねる。


 〈だいじょうぶですのぉ〉


 一瞬で完治。


 私の存在意義とは。



 ドロップ回収。


 cleaning発動。


 テーブル設置。


 宥子(ひろこ)が虫除け散布。


 昼食はカレー。


 ティムカルテットはじっと見る。


 「乾パンとマウスや」


 〈いい匂いですのぉ……〉


 サクラが名残惜しそう。


 だが刑は刑。



 食後、脳内マップを再確認。


 赤点なし。


 ステータスを開く。


 宥子(ひろこ)レベル400。


 私は321。


 数値だけ見れば強い。


 だが回復性能は壊滅的。


 「私のヒール、売ったら銅貨一枚やな」


 宥子(ひろこ)が肩を叩く。


 「気持ちの問題や」


 慰めになってない。


 私は原付に跨がる。


 脳内マップに王都までの距離が表示される。


 まだ遠い。


 そしてまた赤点が灯る。


 私はため息を吐き、アクセルを開けた。


 せめて、次は原付に傷を付けるなよ。

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