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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第56話 王都出立前夜

 ここ三日――ティムカルテットがやけに大人しい。


 紅白(こうはく)赤白(せきはく)、サクラ、そして楽白(らくはく)


 あの冷蔵庫襲撃事件以来、無期限缶パンとマウスの刑を受けている四体だが、泣き言ひとつ言わず、妙に従順である。


 正直に言おう。


 怖い。


 私は卓袱台に肘をつき、向かいの留美生(るみな)へ視線を向けた。


 「なぁ、留美生(るみな)。あいつらの食事、本当に乾パンとマウスなん?」


 「せやで。それ以外はやらん。甘やかしたらまた冷蔵庫漁るやろ」


 即答である。


 私はちらりと横を見る。


 部屋の端に正座する四人。


 紅白(こうはく)は姿勢よく乾パンを齧り、赤白(せきはく)も無駄な動きなく咀嚼している。舌は出ていない。瞳孔も丸い。


 サクラは人型を安定させ、小さな手でマウスを持っている。


 そして楽白(らくはく)は無言で座り、静かに食事をしている。背中に脚の気配はない。


 「随分大人しいと思わん?」


 「言われてみれば、せやな」


 私は四人を睨む。


 「何か企んでるんやないやろうな?」


 サクラが顔を上げる。


 〈そんなことないですのぉ。ちゃんと反省してますのぉ〉


 幼い声。語尾がふわりと甘い。


 赤白(せきはく)がぼそりと続ける。


 〈暴れたら飯減るやろ〉


 現実的だ。


 紅白(こうはく)も真面目な顔で言う。


 〈学習はした〉


 ……成長はしているらしい。


 楽白(らくはく)は何も言えない。


 言えないが、深く頭を下げた。


 喋れない代わりに、態度で示す。


 私は唇を尖らせる。


 「ほんまに気のせいか……?」


 留美生(るみな)がケケケと笑う。


 「反省しとるんやろ。ま、罰は継続やけどな」


 四人の肩が同時に落ちた。



 話題は王都へ移る。


 「王都へ行ってセブールの冒険者ギルドの実態を報告せなあかん。ドワーフの洞窟は後や」


 私は机を叩いた。


 「ええー!! ドワーフの洞窟行きたかった!」


 技術!鉱石!鍛造!


 留美生(るみな)は冷静だ。


 「報・連・相(ほうれんそう)や。中央に先手打たれたら終わりや」


 私はぐっと言葉に詰まる。


 サクラが首を傾げる。


 〈ドワーフさんってそんなにすごいですのぉ?〉


 「すごいねん! 技術の塊や!」


 〈じゃあ王都でいっぱい材料集めてから行けば、もっとすごいこと出来るですのぉ?〉


 ……天才か。


 私は目を見開く。


 「それや!」


 赤白(せきはく)が静かに言う。


 〈中央怒らせるのは得策ちゃう〉


 紅白(こうはく)も頷く。


 〈順番は大事〉


 ぐぬぬ。


 だが正論だ。



 移動手段の話になる。


 サイエス経由で王都へ向かう予定だ。


 「消音の電動スクーター二つ追加。原付も二つ」


 アンナが戸惑う。


 自転車練習の結果は惨敗だった。


 転ぶ、ぶつかる、止まれない。


 サクラが心配そうに言う。


 〈アンナさん、だいじょうぶですのぉ?〉


 アンナはしょんぼり。


 結局、後部座席担当になった。



 その夜。


 私は物音で目を覚ました。


 廊下の先に灯り。


 覗く。


 ティムカルテットが集まっている。


 サクラが真面目な顔で言う。


 〈王都は危ないですのぉ〉


 赤白(せきはく)が低く続ける。


 〈中央は強い〉


 紅白(こうはく)が補足。


 〈金も権力もある〉


 そして楽白(らくはく)は紙を広げていた。


 王都周辺の地図。


 門の位置、詰所、裏路地。


 無言で指差し、皆が頷く。


 ……私達を守るための作戦会議だ。


 罰を受けながら。


 私は胸がじんわり熱くなる。



 翌朝。


 私は何も知らない顔で言う。


 「準備終わったらサイエス行くで」


 紅白(こうはく)が拳を握る。


 〈了解〉


 赤白(せきはく)も頷く。


 〈守る〉


 サクラが元気に言う。


 〈がんばるですのぉ!〉


 楽白(らくはく)は胸に手を当て、深く頭を下げた。


 声は出ない。


 だが覚悟は見える。


 私は小さく笑う。


 「王都で全部片付けたら――ドワーフの洞窟や」


 サクラが跳ねる。


 〈やったですのぉ!〉


 紅白(こうはく)赤白(せきはく)が拳を上げる。


 楽白(らくはく)は力強く何度も頷いた。


 ヘビ二匹、スライム一体、蜘蛛一匹。


 そして私達。


 王都遠征は波乱必至。


 だが今回は一枚岩。


 琴陵(ことおか)家の王都出立は、静かに、しかし確実に動き出したのだった。

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