表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/58

第53話 無断宴会改

 「今日は作り置きに絶対手ぇ出すなよ?」


 私は冷蔵庫の前で腕を組み、低い声で言った。


 隣では容子(まさこ)が同じく真顔で頷く。


 「二日分や。明日の弁当と、明後日の分まで計算済みやからな」


 琴陵(ことおか)家のキッチンに、緊張感が走る。


 正座する紅白(こうはく)赤白(せきはく)楽白(らくはく)、そしてサクラ。


 <はーい!>

 <触りませんのぉ!>

 <約束守るで!>

 「シャ!」


 声だけは立派だ。


 私は冷蔵庫をぴしゃりと閉めた。


 「おやつは棚のクッキーだけ。酒は禁止」


 容子(まさこ)も念を押す。


 「勝手に飲み食いしたら、本気で罰やからな」


 四匹はぶんぶんと首を縦に振った。


 ――だが、その三十分後。



 リビング。


 沈黙。


 テレビの音だけが虚しく流れる。


 <暇やな>

 <退屈ですのぉ>

 <腹減った>

 「シャ…」


 視線が揃う。


 冷蔵庫。


 <炊き込みご飯……>

 <唐揚げ山盛りでしたのぉ>

 <日本酒冷えてたで>


 沈黙。


 理性と欲望の戦い。


 そして、敗北。


 赤白(せきはく)が小声で言う。


 <ちょっとだけなら…>


 紅白(こうはく)が取り出す。


 【山賊の手】


 <冷蔵庫専用設定や>

 <外には影響なしですのぉ>


 論点はそこではない。


 問題は“許可がない”。


 だが止まらない。


 発動。


 保存容器がふわりと浮かび、テーブルへ整列。


 炊き込みご飯。


 唐揚げ。


 煮物。


 サラダ。


 プリン。


 日本酒。


 <壮観やな>

 <いただきますのぉ!>


 宴、開始。



 止まらない。


 ご飯は空。


 唐揚げ消滅。


 酒空瓶。


 プリン容器すら舐め回される。


 <……全部いったな>

 <理論的失敗ですのぉ>


 その瞬間。


 玄関の音。


 ガチャ。


 <早ない!?>



 私は玄関を開けた瞬間、嫌な予感がした。


 キッチンへ直行。


 冷蔵庫を開ける。


 空。


 完璧に空。


 洗われた保存容器が整然と並ぶ。


 ゆっくり振り返る。


 四匹、正座。


 顔真っ赤。


 <ごちそうさまでした>


 ぶち。


 「触るな言うたやろがぁぁぁ!!!」


 家が震えた。


 容子(まさこ)も爆発。


 「二日分やぞ!?計算済みやぞ!?」


 <少しだけのつもりやった>

 <止まらんかった>

 <酒が進みましてのぉ>

 「シャ…」


 私は山賊の手を取り上げる。


 「勝手に使うな言うたやろ!!」


 怒気が魔力となって漏れる。


 アンナが青ざめる。


 「空気が重いです……!」


 私は冷たく言い放った。


 「罰や」


 四匹が震える。


 「無期限」


 絶望の気配。


 「缶パンとマウスの刑」


 沈黙。


 <……え?>

 <缶パン?>

 <マウス?>

 「シャ?」


 私は収納庫から非常食用の缶パンを取り出した。


 さらに冷凍庫から――


 マウス。


 冷凍保存の餌用。


 四匹が凍りつく。


 「これ以外、当面なし」


 容子(まさこ)が追撃する。


 「期間?反省が認められるまでや」


 <そんな殺生な!!>

 <鬼ですのぉ!!>

 <人権侵害や!!>

 「シャァァァァ!?」


 私は一歩前へ出る。


 「約束破った罰や」


 静まり返る。


 容子(まさこ)が腕を組む。


 「信頼ってな、消えるんは一瞬や」


 四匹は震えながら缶パンを受け取った。


 カン、という虚しい音。


 その横に置かれる冷凍マウス。


 サクラが青ざめる。


 <せめて焼いてくれへん?>


 「却下」



 その夜。


 私と容子(まさこ)は外食。


 予想外の出費。


 帰宅すると、四匹が缶パンを無言でかじっていた。


 ぱさぱさ。


 虚無。


 テーブルの中央には、解凍されたマウス。


 <……うまくない>

 <当然ですのぉ>

 <人生とは厳しい>

 「シャ…」


 私は腕を組み、言った。


 「次やったら、山賊の手は完全封印や」


 四匹、全力で首を縦に振る。


 こうして。


 琴陵(ことおか)家に、厳しい戒めが刻まれた。


 冷蔵庫は守られた。


 だが食卓は、しばらく非常食仕様となる。


 無断宴会の代償は、あまりにも重かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ