第49話 酒場の商談
宥子から「ドロップアイテムの半分は好きに使っていいよ」と言質をもらった私は、その瞬間から胸の奥がふわふわと浮き立っていた。命懸けの戦いで手に入れた素材。希少金属、魔石、見たこともない繊維、そして妙な光沢を放つ鱗――。それらを自由に加工できるのだ。
これで私だけのカスタム装備が作れる。誰にも真似できない、唯一無二の装備を。
……と、思っていたのだが。
契約カルテットの面々も、どうやら物作りの楽しさに目覚めてしまったらしい。私が整理しておいた素材を、いつの間にかちょろまかし、勝手に妙な武器や装飾品を量産している。
<素材は共有財産やで~>
などと、したり顔の赤白。
<創作意欲は止められぬのだ>
と、偉そうな紅白。
<サクラはぁ~可愛いの作るの好きですのぉ~>
と、無邪気なサクラ。
「キシャシャ」
意味もなく笑う楽白。
……行動パターンがだんだん人間臭くなってきている。というか、完全に悪ノリだ。
そんな中、宥子はというと、サイエスと現実世界を行き来しながら忙しく動き回っている。化粧品の生産ラインだの、販路拡大だの、王都への報告だの。
私はとりあえず依頼されていた容器類を一定数作り終え、久々に自由時間を得た。
「情報収集は酒場やでぇ~」
遠回しに酒をねだる赤白。
<偶には異世界の飯を食ってみたいわぁ>
<サクラは甘いのが良いですぅ~>
結局、四匹に急かされ、私は街一番と評判の酒場へ足を運ぶことになった。
⸻
酒場は昼間から賑わっていた。木製の扉を押し開けると、麦酒の匂いと焼いた肉の香ばしさが鼻をくすぐる。
「美味しいお酒頂戴♡」
カウンターに座って早速注文すると、バーテンの姉ちゃんは私をじっと見つめ、
「あらぁ、子供にお酒は出せないわぁ~」
と、にこやかにジュースを差し出してきた。
酷い。
もうすぐアラサー世代だというのに、サイエスでは十八歳とサバを読んでいるせいで余計にややこしい。
「私は十八才ですよぉ!!」
抗議するも、
「その童顔でお酒は罪悪感が湧いちゃうのよ~」
と一蹴された。
仕方なくジュースを啜りながら世間話を振る。
「最近、何か面白い話とかない?」
基礎化粧品の話題はスルー。やがて姉ちゃんは声を潜めた。
「王都からAランカーが来てるわよ。」
ほう、と頷いた瞬間。
「ゴブリンリン討伐の子じゃない??」
背後から声。
振り向くと、戦士風の男を中心に、美男美女揃いのパーティが立っていた。ハーレムかよ。
「あら~Aランカーの人よ。」
とバーテンが補足。
名乗り出たのは魔導士リリアナ。続いて戦士ガルガ、剣士フィーア、聖魔導士テレサ。
圧が強い。
そして差し出されたのは、例の“フザケタ武器”。
「あ、ありがとうございます……」
あの大爆発でも無傷って、どんな耐久力だよ。
メディションホールに仕舞うと、ガルガが目を細めた。
「俺達とパーティ組まないか?」
「宥子と組んでるんで無理です。」
即答。
ならば武器を売ってくれ、と食い下がるテレサ。
「宥子の許可が必要です。」
遠回しに拒否。
話題を逸らすべく、私はアクセサリーの試作品やポーチ、付与付き小物を並べた。
「可愛い!!」
女性陣が一斉に食いつく。
その隙に、契約カルテットを解放。
白蛇二匹がフィーアの腕に絡みつき、サクラはテレサの掌へ。甘味を条件に。
楽白は即座にフードへ逃走。安定の人見知り。
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取り残されたガルガに、私は売れ残りの男性用バングルを差し出す。
「物攻+千、魔防+五百、毎ターン小回復付きです。」
さらに指輪も。
「魔力を込めれば中級火魔法が撃てます。」
目の色が変わるガルガ。
「俺でも魔法が?」
「パーティに補充してもらえば。」
上位複合魔法七発分の指輪も見せると、本気で唸り始めた。
「……ヒロコさんと話がしたい。」
やっぱりそこか。
念話で宥子に確認すると、明後日昼ならOKとのこと。
「冒険者ギルド前で昼食兼商談で。」
「了解だ。」
こうして商談が決まった。
……が。
私はエール(こっそり飲んだ)に夢中になり、商品の回収と代金受け取りをすっかり忘れた。
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宿に戻った瞬間。
「マサコ?」
静かな声。
背後に立つ宥子の笑顔が怖い。
事情を話すと、見事にコッテリ絞られた。
後日、バルドの面々が律儀に商品と代金を持参してくれたことで事なきを得たが、
「商談に酒は厳禁。」
という教訓が骨身に染みたのは言うまでもない。
そして私は思う。
ゴブリン一万、オークキング、命懸けの戦闘。
それらの報酬が、巡り巡ってアクセサリー商談になるとは。
サイエスは今日も平和なのか、混沌なのか。
とりあえず次は、ちゃんと素面で商談に臨もうと思う。




