第48話 白金騒動
「見事に何もないですね。」
剣士風の女が、荒れ果てたゴブリン集落跡地を見回して呟いた。
「……あの子供がやったのか? 一人で?」
戦士風の男が、焦げた大地と粉砕された櫓を見上げる。
「そんな事、有り得るのでしょうか?」
シスター風の女が十字を切り、祈るように眉を寄せた。
「有り得るも無いも、この惨状だと……そうなんじゃない? 一度、街に戻ってあの子と話をしましょう。ダンジョン攻略には是非とも勧誘もしたいし。」
魔法使いの女が、くすりと笑った。
四人は世界に名を馳せるAランカー。
だが彼等の視線の先にあるのは、瓦礫と死屍累々、そして地面に突き刺さる奇妙な斧だった。
戦士風の男がそれを引き抜く。
「何だこれは???」
肉球のような丸みを帯びた刃。
可愛らしさと殺意が両立している異様な武器。
魔法使いが鑑定を発動する。
「武器:爺婆でも使える肉球の斧。攻撃力+25000、会心率+50%、麻痺・毒付与……」
四人が絶句する。
「もしかして、あの子の……?」
「これで渡りを付けられるな。」
彼等は頷き合った。
――その頃。
◆
「……あんた、本当に馬鹿なの?」
宿の一室で、私は正座させられていた。
目の前には宥子が仁王立ち。
「百歩譲ってソロ討伐は分かる。集落襲撃はアホやん。死にたいの?」
「いや、私は殆ど何もしてないというか。ごめん。契約カルテットが暴走しました」
「何その契約カルテットって」
「赤白ちゃん、紅白ちゃん、サクラちゃん、楽白ちゃんの四匹だよ」
「はあぁ?」
こめかみを押さえる宥子。
「この四匹が勝手に突撃して、収拾つかずに集落襲撃?」
「うん」
脳天にチョップが落ちた。
「無謀なことすんな!」
「無理! 最近私の言うこと聞かないもん!」
蹴りが飛ぶ。
私は転がる。
「ギャッ!」
「私も約一万のゴブリン相手にしてたんや!」
「え?」
私は止まった。
「私一人でな。身代わり地蔵使ったわ」
空気が凍る。
「え、ちょっと待って? それ私より無謀じゃない?」
「エリアボス遭遇率が高い体質なんや!」
理不尽すぎる。
◆
話題はドロップへ移る。
「ドロップが酷かった」
宥子が机を叩く。
「一万倒してショボ素材!」
「え、私の斧凄かったよ?」
「それお前のじゃないやろ!」
念話が入る。
<それ作ったんわしらやで>
<容子は関係あらへん>
「……は?」
私は固まる。
「どやって?」
<楽白の糸を固くして削った>
「加工スキル持ってた?」
<気合や>
雑すぎる。
宥子が怒鳴る。
「勝手に素材使うな!」
私は首を傾げた。
「あ、あれ売ったよ」
「……は?」
「白金貨150枚」
静止。
「白金貨?」
「金貨1000枚で1枚らしい」
沈黙。
「どこで売った?」
「商業ギルド。宥子の名前出したら、専属のアンナさんが」
宥子が崩れ落ちた。
「アラクネトロの心臓やぞ……」
「え?」
「超希少素材やぞ……」
私は青ざめる。
「え、じゃあ高く売れたんじゃ?」
「桁が違うわ!」
絶叫。
私は縮こまる。
◆
そこへ、ノック。
宿の主人が封書を持ってくる。
差出人:王都冒険者ギルド本部。
「早っ」
宥子が眉をひそめる。
封を切る。
内容は――
“セブール近郊の大規模魔物殲滅及び希少武器流通について事情説明を求む”
私達は顔を見合わせた。
「希少武器って……」
「お前や」
即答。
さらに追撃。
“Aランクパーティが接触を希望”
私は遠い目をした。
「肉球斧……」
宥子が深く息を吐く。
「面倒ごと確定や」
◆
その夜。
私は白金貨の袋を前に呟く。
「これで黒字?」
「一瞬な」
「一瞬?」
「王都絡んだら税と査定と監査や」
私は天井を仰いだ。
「平穏ってどこに売ってる?」
「売ってへん」
即答だった。
外ではAランカー達が私を探している。
王都は事情聴取を求めている。
契約カルテットは勝手に武器を作る。
私は頭を抱えた。
「もう嫌だ」
<次は何作る?>
「作るな!!」
宿に絶叫が響く。
私はまだ知らない。
この白金騒動が、王都を巻き込む大事件に発展することを。
そしてAランカーに本気で付き纏われる未来を。
私はただの被害者だ。
……たぶん。




