第44話 半分寄越せ
――半分。
それが今回、私容子が掲げた至上命題である。
ドロップアイテム五割。
譲歩なし。遠慮なし。情け無用。
副社長としての威厳?
そんなものは知らない。
素材は力だ。
素材は正義だ。
素材は未来だ。
そして未来は、作る者の手にある。
◆
サイエスのアトリエに戻った瞬間から、私はヒーヒー言いながら作業台に張り付いていた。
「バック系、残り二つ……アクセはあと四セット……」
魔力補強糸を通しながら、縫い目を均一に整える。
ディゼニーで見たあの格好良いコート。
街灯の下で翻るシルエット。
風を孕むロングライン。
あれを戦闘仕様に落とし込む。
軽量化。
耐刃加工。
魔力循環効率の最適化。
見た目だけじゃ意味がない。
機能美こそ至高。
「うん……これは売れる」
<自画自賛はタダやで>
「うるさいわよ赤白!」
作業台の端でだらけていた赤白が尻尾をぱたぱた揺らす。
<せやけどホンマ、出来ええわ。これ高値つくで>
「高値って言うな、即物的!」
でも心の奥では同意している。
だって完成度が高いんだもの。
◆
ギルドへ行った宥子はまだ戻らない。
きっと依頼書を吟味し、討伐効率を計算し、報酬単価とリスクを天秤にかけている。
社長は中身担当。
魔法理論も戦闘計算も抜群。
でも金策モードに入ると目が輝くのは何故なのか。
……いや、分かるけど。
◆
「衣類系も少し作っとくか」
私は新素材の布を広げる。
魔物の鱗繊維を混ぜ込んだ特殊糸。
しなやかで、強くて、しかも可愛い。
戦闘服としての耐久値は高いのに、シルエットは細身。
女性向け市場、絶対取れる。
<今はぁ、魔石ないですぅ>
サクラの現実指摘が心を抉る。
「分かってるってば」
だからこそ、半分なのだ。
◆
その頃、ギルド。
扉が勢いよく開き――
「ただいま」
帰還した宥子。
腕に抱えた依頼書の束。
目はキラキラ。
口元は悪い笑み。
「あ、これ東の森を更地にする顔だ」
「明日、東の森制圧するわよ」
「制圧って何!?」
「群生地ごと刈る」
やっぱり。
◆
私は咳払いを一つ。
「その前に話がある」
社長が眉を上げる。
私は背後に並ばせた。
赤白
紅白
サクラ
そして静かに雰囲気を飛ばす楽白
四体の圧が空間を満たす。
「……何この包囲網」
「ドロップ五割」
静寂。
空気が凍る。
◆
「は?」
低音。
「五割」
私は繰り返す。
「装備開発にも容器改良にも素材がいる。副社長権限よ」
<せやせや>
<欲しいですぅ>
ズルズル……
楽白がパンフレットを差し出す。
ニャローケティのマシュマロクッション。
無言で踊る。
「買収済み!?」
「協力体制です」
私は胸を張る。
◆
交渉開始。
「四割」
「五割」
「四割五分」
「五割」
「鬼」
「鬼婆って言った?」
<言うてへん言うてへん>
赤白が笑う。
◆
最終的に――
「分かった、五割。ただし高額素材は要相談」
勝利。
私は心の中でファンファーレを鳴らす。
◆
翌朝、東の森。
魔物の群れ。
空気が震え、魔力が渦巻く。
「行くわよ!」
宥子が魔法陣を展開。
爆裂光。
衝撃波。
群れが吹き飛ぶ。
私は新作戦闘服で駆ける。
軽い。
可動域が広い。
補助ポケットが便利。
「最高!」
投擲補助具を放つ。
<右や!>
<後ろぉ!>
<上ですぅ!>
カルテットの支援。
楽白が雰囲気を飛ばし、魔物の動きを鈍らせる。
連携完璧。
◆
戦闘終了。
地面に散らばるドロップの山。
魔石。
希少鱗。
強化布。
私は腕を組む。
「五割ね」
「分かってるわよ」
社長はきっちり分配した。
副社長権限、行使完了。
◆
アトリエに戻り、素材を並べる。
これで次の装備ラインを作れる。
容器も改良できる。
魔石を組み込んだ保護ケース。
戦闘用コスメキット。
夢が広がる。
宥子は椅子に沈む。
「疲れた……」
「社長、まだ序章よ」
私は笑う。
金も素材もブランドも。
全部、取りに行く。
副社長容子の野望は尽きない。
次は七割?
いや、それは命の危険。
でも――
半分取れたなら、次も勝てる。
サイエスの空気の中、私は新しい設計図を広げる。
物作りは止まらない。
そして戦いも、まだまだ続くのだ。




