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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第45話 金洞の秘密

 

 死ぬ。


 本気で死ぬ。


 戦闘ではない。労働である。


 社長宥子(ひろこ)がサイエスと現実世界を爆速で往復している間、私は現実側の工房に縫い止められていた。


 化粧品会社Crema。


 社長は宥子(ひろこ)

 副社長は私、容子(まさこ)


 肩書きは立派。


 だが実態は。


 量産機。


 容器設計、試作、改良、量産ライン構築、耐薬品試験、落下テスト、ポンプ圧の微調整、パッキン再設計、金型修正。


 終わらない。


 永遠に。


 「もう無理……」


 机に額を押しつけた瞬間、背後に冷たい気配。


 「副社長?」


 鬼の微笑み。


 社長のそれは慈愛ではなく、経営者のそれだ。


 「ちょっと休憩を……」


 「休憩? 売上が呼吸みたいに自然に入ってくる世界線なら考えるけど?」


 正論という名の凶器。


 「私、サイエス往復込みで三倍働いてるんやけど?」


 反論できない。


 だから決めた。


 逃げる。


 ◆


 気付けば私はサイエスの空の下に立っていた。


 メディションホールから電動スクーターを召喚。


 エンジン音が心を軽くする。


 装備確認。


 ドラゴンフライ改。

 M85。

 洛陽住藤原国広。


 「今日は暴れる」


 目的はストレス発散。


 冒険者ギルドで依頼を受ける。


 ゴブリン討伐。


 正直、物足りない。


 だが今は派手に爆ぜたい。


 ◆


 ヨルズの森。


 スクーターで突入。


 魔物を轢き、蹴散らし、弾丸で沈める。


 風が頬を切る。


 最高。


 森の奥でゴブリンの巣を発見。


 「原始的すぎやろ」


 その瞬間。


 <せやね>


 振り向く。


 赤白(せきはく)

 紅白(こうはく)

 サクラ

 そして雰囲気を飛ばす楽白(らくはく)


 なぜいる。


 「帰れ」


 <<<嫌>>>


 即答。


 私は溜息を吐き、戦闘指示を出した。


 手榴弾投擲。


 爆音。


 ゴブリンの群れが溢れ出る。


 ドラゴンフライ連射。


 刀で斬る。


 カルテットも暴れる。


 楽白(らくはく)は念話は出来ない。


 だが“雰囲気”を飛ばす。


 焦燥。

 怒気。

 混乱。


 ゴブリン達の動きが乱れる。


 そこを糸で絡め取り、爆ぜさせる。


 完封。


 ――のはずだった。


 洞窟奥から重い足音。


 武者ゴブリン。

 レッドゴブリン。

 そしてオーガ。


 「だからボス戦あるって言ったやろ!」


 戦闘は長引いた。


 硬い。


 弾丸が弾かれる。


 罠を仕掛け、誘導し、爆破。


 だが決定打に欠ける。


 その時。


 空気が変わる。


 楽白(らくはく)の“雰囲気”。


 それは言葉ではない。


 圧。


 威圧。


 世界の色が一瞬薄まる。


 オーガの足が止まる。


 蛇ちゃんズが麻痺毒を叩き込む。


 サクラが爆弾を投下。


 「退避!!」


 轟音。


 衝撃波。


 静寂。


 勝利。


 ◆


 洞窟奥。


 そこは異様に整然としていた。


 金塊。

 宝石。

 武具。


 「ゴブリンの財力ちゃうやろ」


 奥に王座。


 そして壁。


 巨大な羊皮紙が貼られている。


 近付く。


 息が止まる。


 世界地図。


 詳細。


 都市名。

 未踏破区域。

 魔境指定地。

 鉱脈らしき印。

 魔素濃度の推定値。


 社長の持つ簡易地図とは別物。


 情報量が違う。


 「これ……戦略兵器やん」


 頭が高速回転する。


 新素材。

 未知の植物。

 希少魔石。


 容器強化。

 新ライン開発。

 ブランド拡張。


 Cremaの未来図が一瞬で塗り替わる。


 容子(まさこ)の役目は容器。


 だが素材が変われば設計は無限に広がる。


 耐魔素容器。

 自己修復ボトル。

 魔力保持機能。


 夢が膨らむ。


 「社長、腰抜かすでこれ」


 洞窟内を徹底回収。


 金剛石。

 エメラルド。

 古代装飾品。


 全て収納。


 最後に地図を丁寧に剥がす。


 折れぬよう、傷付けぬよう。


 それは単なる紙ではない。


 未来だ。


 ◆


 帰還後、私は工房に戻る。


 社長が振り向く。


 「何しに行ってたん?」


 私はにやりと笑い、羊皮紙を広げた。


 空気が凍る。


 沈黙。


 数秒後。


 「……副社長、これ本物?」


 「ガチ」


 社長の瞳が獲物を見つけた猛獣のそれに変わる。


 「やるで」


 その一言で全てが決まった。


 Cremaは次の段階へ進む。


 容器と中身。


 容子(まさこ)宥子(ひろこ)


 役割は違えど、目指す頂は同じ。


 金洞で手に入れた世界地図。


 それは単なる戦利品ではない。


 新たな事業戦略。

 未知領域への挑戦。

 そして、私達の未来そのもの。


 労働地獄?


 上等。


 どうせ働くなら、世界を獲る側で。


 私は工具を握り直す。


 次に設計するのは、ただのボトルじゃない。


 世界を封じ込める器だ。

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