表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/58

第43話 双翼の創業

 会社というものは、不思議だ。


 箱だけでは意味がない。

 中身だけでも、やはり足りない。


 だからこそ――


 私達は、二人で一つだった。


 ◆


 社長は宥子(ひろこ)


 化粧品の“中身”を作る人間。


 処方設計、成分選定、安定試験、肌適合テスト。

 数値と理論と感覚を融合させる研究者気質。


 一方、副社長は容子(まさこ)


 担当は“容器”。


 ボトルの形状、ポンプの圧、光の透過率、素材の質感、ブランドロゴの配置。


 つまり――


 私は外側。

 彼女は内側。


 役割は真逆。

 でも、どちらが欠けてもCrema(クリマ)は成立しない。


 ◆


 「容器は語るんだよ」


 私がそう言うと、宥子(ひろこ)はいつも半眼になる。


 「成分の方が語るでしょ」


 ほら来た。


 だが、それが良い。


 彼女が作る中身は、圧倒的だ。


 サイエスで改良を重ね、何度も失敗し、ようやく辿り着いた処方。


 泡立ちの粒径。

 保湿膜の持続時間。

 浸透速度のバランス。


 それを地球基準へ落とし込むまで、彼女は寝なかった。


 私はその横で、試作ボトルを並べ続けた。


 ◆


 最初の衝突は、ポンプだった。


 「この押し心地じゃ軽すぎる」


 私が言う。


 「内容物は高濃度なの。出過ぎたら困る」


 彼女が返す。


 議論は三時間続いた。


 最終的に落ち着いたのは、“半押しで適量が出る構造”。


 機構設計を修正し、スプリング圧を再調整。


 完成した瞬間、私達は同時に頷いた。


 これだ。


 ◆


 社長室。


 といっても小さなデスク二つ。


 代表取締役宥子(ひろこ)


 副社長容子(まさこ)


 肩書きだけ見れば、上下関係がある。


 だが実際は違う。


 社長は中身の最終責任者。


 私はブランド体験の責任者。


 どちらも最終判断を持つ。


 ◆


 ラボに漂う原料の香り。


 宥子(ひろこ)がビーカーを傾ける。


 「このバッチ、粘度が理想値」


 その声は嬉しそうだ。


 私は横で、完成品のボトルに光を当てる。


 反射。

 影。

 透明度。


 ラベルの箔押し角度を0.5度修正する。


 「ブランドは細部で決まる」


 私は呟く。


 ◆


 販売初日。


 サイト公開。


 写真撮影は私の仕事だ。


 影の落とし方。

 余白の取り方。

 世界観の統一。


 彼女は成分説明文を何度も書き直す。


 科学的でありながら、難しすぎない表現。


 そして――


 注文通知。


 一件。


 二件。


 十件。


 百件。


 彼女が椅子から転げ落ちる。


 私は深呼吸する。


 まだだ。


 ここからが勝負。


 ◆


 レビュー欄に並ぶ言葉。


 「肌が変わった」

 「透明感が出た」

 「容器が高級で気分が上がる」


 中身と外側。


 両方が評価されている。


 私は静かに拳を握った。


 ◆


 ある夜。


 私は試作の新型ボトルを机に並べる。


 「次は詰替え用」


 環境配慮。

 コスト最適化。


 彼女は処方の改良案を提示する。


 「抗酸化安定性を上げたい」


 視線が交わる。


 方向は同じだ。


 ◆


 社長である宥子(ひろこ)は、意外と感情的だ。


 数字が落ちると落ち込む。


 クレーム一件で眠れなくなる。


 私は横で言う。


 「改善できるなら問題じゃない」


 彼女は唇を尖らせる。


 だが翌日には改良案を出す。


 それが社長だ。


 ◆


 私は副社長として、外と戦う。


 資材会社との交渉。

 物流コスト調整。

 印刷ロット管理。


 容器は単なる入れ物じゃない。


 ブランドの第一印象。


 手に取った瞬間の重み。

 開けた瞬間の静音。


 全てが体験だ。


 ◆


 深夜。


 二人きりのオフィス。


 段ボールの山。


 私はテープを貼り、彼女は検品する。


 「社長、ラベル曲がってる」


 「副社長、それあなたの担当」


 言い合いながら、笑う。


 ◆


 Crema(クリマ)はまだ小さい。


 だが確実に伸びている。


 中身の力。

 容器の力。


 どちらも本物だ。


 私は完成品を持ち上げる。


 重さは、責任の重さ。


 彼女が隣で言う。


 「次はライン拡張」


 私は頷く。


 「外側は任せて」


 双翼。


 片方が折れれば飛べない。


 だが今は違う。


 私達は並んでいる。


 社長宥子(ひろこ)

 副社長容子(まさこ)


 中身と外側。


 Crema(クリマ)は、二人で創る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ