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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第39話 受付嬢は広告塔!?

 ――売れない。


 いや、正確に言おう。


 「興味は持たれる。でも、財布は開かれない。」


 これが現実である。


 宥子(ひろこ)と二人、基礎化粧品一式を抱えてサイエスの商店街を回った結果がそれだ。


 「良い匂いですね」

 「へぇ、肌に優しそう」


 ここまでは言う。


 だが価格を提示した瞬間、空気が凍る。


 ――高い。


 この世界では、臭い魔物の油で作った石鹸が主流。

 洗顔? 一応してる。

 でもあれ、絶対“塗ってる”よね? 落としてないよね?


 泡立たない。

 ぬるつく。

 そして何より臭い。


 なのに、それが“普通”。


 文化レベルの壁、厚すぎ問題。


 だがここで諦める宥子(ひろこ)ではない。


 彼女は腕を組み、静かに言った。


 「日本式でいく。」


 その目は完全に策士。


 「THE・テスター&モニター。」


 来た。現代マーケティング無双。


 ◆


 向かった先は冒険者ギルド。


 標的は“綺麗なお姉さん”。


 「なんで?」


 「広告塔。」


 即答。


 「正直、顔だけで仕事しない屑っぷり。でも宣伝効果は絶大。」


 容赦ねぇ。


 カウンターへ。


 「依頼を出したいのですが、冒険者でも可能ですか?」


 受付嬢――のちのアイリーン・キャーシーは、営業スマイルで対応する。


 「可能です。内容をご記入ください。」


 渡された粗悪紙。


 宥子(ひろこ)は一瞬だけ嫌そうな顔をしたが、即座に切り替え、さらさらと書き始めた。


 ・基礎化粧品一式

 ・石鹸

 ・シャンプー

 ・リンス


 一ヵ月使用。感想提出。肌状態確認。

 報酬なし。商品は無料提供。


 受付嬢の眉がぴくり。


 「……報酬なし?」


 そこへ宥子(ひろこ)、営業モード発動。


 「私は薬師ギルド所属Cランク。研究成果の検証をしたいのです。」


 ドン、と並ぶガラス瓶。


 底には太陽と星を囲む月。中央に容子(まさこ)の透かし彫り。


 装飾は控えめ。だが上品。


 アイリーンさん、蓋を開ける。


 「……良い香り。」


 鑑定。

 目が見開かれる。


 食いついた。


 「実際に試しますか?」


 営業スマイル全開。


 数秒の躊躇の後――


 「浴場へ行きましょう。」


 よっしゃ。


 ◆


 ギルド宿舎浴場。


 清掃中? 関係ない。入る。


 お湯が使えない?


 「容子(まさこ)、やれ。」


 はいはい。


 火と水魔法で即席給湯システム完成。


 ポンチョ型合羽着用。

 簡易椅子四つ並べて即席シャンプー台。

 首に即席エア枕。


 頭だけ飛び出したアイリーンさん。


 光景がシュールすぎる。


 「掛けますね~」


 ザパーッ。


 悲鳴寸前の顔。


 しかし次第に緩む。


 泡立たない。


 洗う。濯ぐ。

 洗う。濯ぐ。

 洗う。濯ぐ。


 三回目でまだ泡が立たない。


 四回目。


 もこもこ。


 私は確信した。


 この世界、汚れレベル高い。


 リンス塗布。

 浸透待ち。


 その間にスキンケア講座。


 泡立てネットで作った弾力泡を差し出す。


 「何これ!?」


 指が沈み込む感触に驚愕。


 「擦らないでください。優しく。」


 氷水で洗い流し。


 「つっぱらない……。」


 そこから化粧水十回重ね塗り。

 乳液で閉じ込め。

 美容液で集中ケア。


 アイリーンさんの顔がみるみる変わる。


 リンス洗い流し。

 温風乾燥。


 水滴が私の顔に飛ぶ。


 宥子(ひろこ)……後でな。


 椿油入り櫛でとかす。


 天使の輪爆誕。


 仕上げにcleaning(清掃)


 鏡を渡す。


 数秒の沈黙。


 「……別人。」


 肌の透明感。

 髪の艶。

 頬の張り。


 受付嬢、覚醒。


 ◆


 「これは広めたいです。」


 やる気スイッチ完全ON。


 「受付嬢限定で十名募集したいのです。」


 「私が責任を持って厳選します!」


 目がギラギラ。


 さっきまでのだらけ顔はどこへ。


 条件交渉も抜かりない。


 「新作は優先で。」


 「もちろん。」


 言質確保。


 勝った。


 ◆


 戻り道。


 「鴨がネギ背負ってきたね。」


 宥子(ひろこ)がニヤニヤ。


 受付嬢が綺麗になる。

 冒険者が気づく。

 噂になる。


 口コミ最強。


 「日本でブランド化もアリだよね。」


 「入れ物は私! 中身は宥子(ひろこ)!」


 希少性。限定生産。


 宥子(ひろこ)が黄金の木に見える。


 だから私は宣言した。


 「これから馬車馬のように働いてね!」


 「嫌でござる!!!」


 胸倉掴み、愛の往復ビンタ。


 バシッ。バシッ。


 ギルド前で何やってんだ私達。


 だが今日、市場は確実に動いた。


 サイエスに訪れた美容革命。


 泡は文化を変える。

 艶は価値観を変える。

 そして価値観は金を生む。


 次に噂になるのは誰か?


 艶髪の受付嬢。


 その中心に刻まれた名前は――


 容子(まさこ)印。


 泡と野望は、まだ始まったばかりだ。

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