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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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38/58

第38話 価格は正義か、野望は浪漫か!


 テロリロリン♪


 「やって来ましたぁぁぁ価格最終決戦会議ぃぃぃぃ!!!」


 机をバンッと叩き、私は高らかに宣言した。


 ここはサイエスの自宅兼工房。

 作業台の上には、試作品の瓶、配合表、原価計算の紙束、そして山のような見積書。


 さらに奥では、赤白(せきはく)紅白(こうはく)がとぐろを巻きながらこちらを見守り、フードの中では楽白(らくはく)がもぞりと動いている。


 「いやっふぅーーーーーーー!!!」


 テンション最高潮の私とは対照的に、宥子(ひろこ)は両手でこめかみを押さえていた。


 「そのテンションの時は、だいたい暴走。」


 「失敬な。」


 私は堂々と価格表を掲げた。


 貴族向け、富豪向け、一般向け。

 三段階構造。

 市場を縦に切り分け、全層制圧する完璧な布陣。


 読み上げるたびに、宥子(ひろこ)の顔色が変わっていく。


 そして最後まで読み終えた瞬間――


 「ぼったくり過ぎやろぉおおおおおお!!!」


 絶叫。


 机が震え、紙束が舞う。


 「もっと現実見ろぉおおおおお!!!」


 「えぇぇ!? だってこの瓶付きだよ!? 一般向けにも容子(まさこ)印の刻印入れるんだよ!? ブランド感爆上がりだよ!?」


 私はすかさず試作瓶を差し出した。


 貴族向けはダイヤモンドカット風の細工。

 光を受けると虹色に反射し、宝石のように煌めく。


 富豪向けは透かし細工を施した曲線主体の優雅な造形。

 気品と華やかさを両立させた逸品。


 宥子(ひろこ)はうっとりと瓶を撫でた。


 「……綺麗。」


 よし。


 そう思った瞬間。


 「でも高い。」


 赤ペンが現れた。


 サラサラと価格が修正されていく。


 私は目を剥いた。


 「安い! 安すぎる!!」


 「金貨一枚がどれだけの価値か分かってる!? 庶民感覚考えなさい!」


 「でもこの世界、基礎化粧品の概念ないんだよ!? 今こそ市場独占の好機なんだよ!?」


 ムッキー!


 スパーン。


 スリッパ直撃。


 「暴利は目を付けられるの! まずは売る! 二番目にブランド欲を育てる! 三番目に“ちょっと背伸びすれば届く価格”!」


 私は頭を押さえながら唸った。


 確かに、市場価格調査をほとんどしていない。

 雑貨屋は見たが、単価比較は甘い。


 「値段は私に任せなさい。」


 ぐぬぬ……。


 悔しいが、任せるしかない。


 ◆


 「じゃあ次の議題。」


 私は布包みを机に置いた。


 「武器開発報告。」


 空気が変わる。


 包みを解くと、新しい万能包丁が姿を現した。


 玉鋼から鍛え上げた一振り。

 何度も叩き、折り返し、焼き入れを繰り返した。


 鍛冶スキルがあっても簡単ではなかった。

 だが身体が勝手に最適解を導いてくれる感覚は、まさにスキルの恩恵。


 持ち手には魔石を埋め込み、風の刻印を施してある。


 「魔力を流せば追撃で風刃。」


 宥子(ひろこ)が即鑑定。


 「攻撃力七千……追撃三千!? 何これ化け物!?」


 私は腕を組んだ。


 「魔物相手だからね。寿命来てたし。」


 「売らないよね?」


 「売らない。」


 命綱だ。


 だが私はさらに小声で続ける。


 「刻印を応用すれば空間魔法(あいてむぼっくす)も作れるかもしれない。」


 沈黙。


 「は?」


 宥子(ひろこ)の目が本気になる。


 「成功したら作ってあげる。」


 「絶対成功させて。」


 圧が凄い。


 ◆


 「容子(まさこ)の武器は?」


 「作ってない。洛陽住藤原国広あるし。」


 宝刀を軽く撫でる。


 だが扱いきれていないのも事実。


 「短刀術、習いに行く。」


 今は改造エアガンや手榴弾に頼る場面が多い。

 本気で強くなるなら基礎からだ。


 宥子(ひろこ)も頷いた。


 「私も護身術考えよ。」


 ◆


 数週間後。


 化粧品はサイエスで静かに、しかし確実に広がっていった。


 価格は宥子(ひろこ)案。


 悔しいが、売れる。


 「肌が潤う。」

 「髪が艶やかになる。」


 口コミが増え、再購入も発生。


 ブランド欲が芽生え始めている。


 そして武器。


 刻印武器の量産も試みた。


 だが問題発生。


 「使える人、限られすぎ。」


 魔力制御前提。

 一般人には扱えない。


 本末転倒。


 私は机に突っ伏した。


 「騎士団向けに売る?」


 「まずは自分達強化。」


 宥子(ひろこ)は冷静だった。


 ブランドも武器も、土台は私達。


 ◆


 夜。


 サイエスの空に星が瞬く。


 私は瓶を磨きながら思う。


 価格で揉め、武器で悩み、未来を語る。


 「次は何作る?」


 「利益率高いやつ。」


 即答。


 思わず笑ってしまう。


 結局そこ。


 でもそれでいい。


 商魂と野望と理性。


 容子(まさこ)印は、静かに、確実に広がっている。


 価格戦争も刻印武器も、まだ序章。


 やがて王侯貴族がこの名を知る日が来るかもしれない。


 その時、私達は笑っているだろうか。


 それともまた価格で殴り合っているだろうか。


 どちらにせよ――


 私達は止まらない。


 サイエスの夜は更けていく。


 そして新たな商戦の朝が、もうすぐそこまで来ていた。

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