第38話 価格は正義か、野望は浪漫か!
テロリロリン♪
「やって来ましたぁぁぁ価格最終決戦会議ぃぃぃぃ!!!」
机をバンッと叩き、私は高らかに宣言した。
ここはサイエスの自宅兼工房。
作業台の上には、試作品の瓶、配合表、原価計算の紙束、そして山のような見積書。
さらに奥では、赤白と紅白がとぐろを巻きながらこちらを見守り、フードの中では楽白がもぞりと動いている。
「いやっふぅーーーーーーー!!!」
テンション最高潮の私とは対照的に、宥子は両手でこめかみを押さえていた。
「そのテンションの時は、だいたい暴走。」
「失敬な。」
私は堂々と価格表を掲げた。
貴族向け、富豪向け、一般向け。
三段階構造。
市場を縦に切り分け、全層制圧する完璧な布陣。
読み上げるたびに、宥子の顔色が変わっていく。
そして最後まで読み終えた瞬間――
「ぼったくり過ぎやろぉおおおおおお!!!」
絶叫。
机が震え、紙束が舞う。
「もっと現実見ろぉおおおおお!!!」
「えぇぇ!? だってこの瓶付きだよ!? 一般向けにも容子印の刻印入れるんだよ!? ブランド感爆上がりだよ!?」
私はすかさず試作瓶を差し出した。
貴族向けはダイヤモンドカット風の細工。
光を受けると虹色に反射し、宝石のように煌めく。
富豪向けは透かし細工を施した曲線主体の優雅な造形。
気品と華やかさを両立させた逸品。
宥子はうっとりと瓶を撫でた。
「……綺麗。」
よし。
そう思った瞬間。
「でも高い。」
赤ペンが現れた。
サラサラと価格が修正されていく。
私は目を剥いた。
「安い! 安すぎる!!」
「金貨一枚がどれだけの価値か分かってる!? 庶民感覚考えなさい!」
「でもこの世界、基礎化粧品の概念ないんだよ!? 今こそ市場独占の好機なんだよ!?」
ムッキー!
スパーン。
スリッパ直撃。
「暴利は目を付けられるの! まずは売る! 二番目にブランド欲を育てる! 三番目に“ちょっと背伸びすれば届く価格”!」
私は頭を押さえながら唸った。
確かに、市場価格調査をほとんどしていない。
雑貨屋は見たが、単価比較は甘い。
「値段は私に任せなさい。」
ぐぬぬ……。
悔しいが、任せるしかない。
◆
「じゃあ次の議題。」
私は布包みを机に置いた。
「武器開発報告。」
空気が変わる。
包みを解くと、新しい万能包丁が姿を現した。
玉鋼から鍛え上げた一振り。
何度も叩き、折り返し、焼き入れを繰り返した。
鍛冶スキルがあっても簡単ではなかった。
だが身体が勝手に最適解を導いてくれる感覚は、まさにスキルの恩恵。
持ち手には魔石を埋め込み、風の刻印を施してある。
「魔力を流せば追撃で風刃。」
宥子が即鑑定。
「攻撃力七千……追撃三千!? 何これ化け物!?」
私は腕を組んだ。
「魔物相手だからね。寿命来てたし。」
「売らないよね?」
「売らない。」
命綱だ。
だが私はさらに小声で続ける。
「刻印を応用すれば空間魔法も作れるかもしれない。」
沈黙。
「は?」
宥子の目が本気になる。
「成功したら作ってあげる。」
「絶対成功させて。」
圧が凄い。
◆
「容子の武器は?」
「作ってない。洛陽住藤原国広あるし。」
宝刀を軽く撫でる。
だが扱いきれていないのも事実。
「短刀術、習いに行く。」
今は改造エアガンや手榴弾に頼る場面が多い。
本気で強くなるなら基礎からだ。
宥子も頷いた。
「私も護身術考えよ。」
◆
数週間後。
化粧品はサイエスで静かに、しかし確実に広がっていった。
価格は宥子案。
悔しいが、売れる。
「肌が潤う。」
「髪が艶やかになる。」
口コミが増え、再購入も発生。
ブランド欲が芽生え始めている。
そして武器。
刻印武器の量産も試みた。
だが問題発生。
「使える人、限られすぎ。」
魔力制御前提。
一般人には扱えない。
本末転倒。
私は机に突っ伏した。
「騎士団向けに売る?」
「まずは自分達強化。」
宥子は冷静だった。
ブランドも武器も、土台は私達。
◆
夜。
サイエスの空に星が瞬く。
私は瓶を磨きながら思う。
価格で揉め、武器で悩み、未来を語る。
「次は何作る?」
「利益率高いやつ。」
即答。
思わず笑ってしまう。
結局そこ。
でもそれでいい。
商魂と野望と理性。
容子印は、静かに、確実に広がっている。
価格戦争も刻印武器も、まだ序章。
やがて王侯貴族がこの名を知る日が来るかもしれない。
その時、私達は笑っているだろうか。
それともまた価格で殴り合っているだろうか。
どちらにせよ――
私達は止まらない。
サイエスの夜は更けていく。
そして新たな商戦の朝が、もうすぐそこまで来ていた。




